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「もう下げて良い、料理長に礼を言っておいてくれ」
「ありがとうございます、伝えて参ります」
相変わらず粘土のような味しかしなかったが中々演技も様になって来たと思うな、どうもあの本を手に入れてから味を理解出来なくなったが我慢出来なくなれば他人の魔力でも奪って食べれば良いだけの話だ、気にする事はない。
「明日に備えて今日はもう支度をして寝ろ、『道具』」
「分かりました、明日に備える事にします」
「クシェル様のお部屋はこちらです、ついて来てください」
先に退出して自分の部屋までメイドに案内してもらい浴室で体を洗い終わったので自室でメイドに持ってきてもらった魔法学科の教科書を読む事にする、今はよく分からないがこの魔術回路なる物は魔素で構築した後に魔力をトリガーにして使用する事で機能する物……らしい、ややこしい所もあるが絶対に覚えれない物では無いな、魔素で構築する部分は魔力で構築する魔法と同じ要領で理解は出来る。
「…ん?」
待てよ、何故私は魔法の使い方や魔素を理解出来ている…?
「そう言えば私は…魔素過剰供給体で魔力増幅を抑えれずに薬と両親の魔力で抑えられてたはずなのだが……ふむ」
色々と記憶がおかしい所があるがあの本を手に入れてからの事だ、どうしようも無いし嫌になる訳では無い。
しかしこの魔術回路……効率が悪く見える、増幅出来たとしても魔素の供給量が多過ぎて非効率だと思うが、そんな物なのか?
その後も暫く書物を睨んでいたがどうしたら効率的に魔素を供給出来るかの所で行き詰まっており唸っていると、自室の扉がノックされた。
「えっと、クシェル?今は時間あるかい?」
ふむ、この声はアルファドだったかな?こんな時間になんの用だろうか。
「はい、今は丁度暇をしてた所です」
「義妹ではあるけど女性の部屋に入るから、入室の許可が欲しい」
律儀な事だ、女性からの目線は独り占めしているのが想像出来る、特に気にはならないがなんとなくその女性達は冷たい泥のような戦いを繰り広げている想像が出来た。
「大丈夫ですよ、義兄妹とは言え家族ですので良からぬ噂が立つ事は無いです」
「はは、まぁそうだね、お邪魔するよ」
ドアが開いたら前にも感じたとおり異質な魔力を纏っている、魔術回路で増幅したらこんな風に魔力が歪になるのだろうか?今度自分で試してみるのもありかもしれない。
「ん?その本って魔法学科の教科書じゃないか、まさかもう魔術回路が理解出来るの?」
「少し理解出来る様になった所ですが、疑問…謎にぶつかりまして困っていた所です」
「へぇ、分からない所の魔術回路の質問なら答えられるよ」
少し驚いた顔をしたがすぐに顔を元に戻したのが気になるが、あまり気にし過ぎるのも無駄なので聞く事にしよう
「この魔素供給用の魔術回路、少し改良したら効率が良くなって無駄が無くなると思うのですが、合ってますか?」
「良く分かったね?その方法は大学院クラスの知識だよ、実際に改良する様に資料を作るのも大学院からだけど、その考えは」
「アルファド兄様の体に組み込まれているのもこの様な魔術回路なのですか?」
そう問いをかけるとさっきまで笑顔だった顔が真顔に一瞬で変わり頭を掴まれ鋭く冷たい目で見られる。
「何故分かる?隠蔽する魔術回路も一緒に組み込んでいた筈だが」
「纏ってる魔力が異質ですので、分かりやすいですよ」
そう答えると魔素が掴んでいる手越しに体に流れ込んでくる、おそらくアルファドが流し込んでいるのだろうが意味があるのだろうか。
「何故死なない、人間なら体力の魔素を体に貯め込むと死ぬはずだが」
あぁ……その事か、さっき紹介されたから知らないで当たり前か。
「魔素過剰供給体なので、その程度の魔素ならご飯にもなりませんよ」
「魔素過剰供給体……待て、何故その病に罹って尚そのレベルの症状が出ているのに正常でいられるんだい?」
強気に出たり元に戻ったり忙しい人だな、少し面白い。
「慣れ、ですよアルファド兄様」
「慣れで済む病では無いんだよ?普通なら全身から魔力を撒き散らして、最終的に辺りに魔素を広範囲に散布して魔物を大量に作り出してしまう病なんだ」
その言葉を聞きながら流し込まれた魔素を体に取り込むと頭に入っていた本の記述が理解出来た、その一片を解読出来た事に少し驚きつつも冷静に読む。
どうやら『アクセラレーション』と言うらしい、この言葉の意味は分からないがどのような事が出来るのだろうか?
「話を聞いてるかい?」
「すみません、うとうとしてしまって聞いてませんでした」
「こんな時間だからね、また明日の昼に話をするよ」
頭を掴んでいた手を少し弱め頭をくしゃくしゃと撫でられた、なんとなくむず痒い感じがしたが気にせずに返事を返す。
「明日の昼ですか?分かりました」
「それじゃ今日はおやすみだね、きちんと寝て昼にうたた寝しない様に」
「おやすみなさい、アルファド兄様」
扉を開けて出て行く背中にそう言いベットの方に行き、毛布に包まって目を瞑り就寝した。