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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の中である女性が私に語りかけた事

作者: 秋野萌葱

あらすじにも書いた通り、あ、地雷ありそうと思った方はご遠慮ください。

ストーブの前で、私がウトウトと微睡んでいると。

ふと、夢うつつに一人の顔の見えない女性が現れた。

髪も、服も、全て私と対照的な姿だった女性は、私に語りかけた。

「ねえ、人間て、何で出来てると思う?」

女性はそう言うと、ペンと似たようなものを私に差し出した。

それを受け取ると、私はしばし考えて、何もない空間にペンを走らせた。

ペン先はキラキラと光の軌跡を残し、私の言葉を書き込む。

『太陽、酸素、二酸化炭素。』

それを見た女性は苦笑する様に小さく笑む。

「典型的な答えをするのね。貴女は。」

呆れたと言う言動に、心外だと声を上げようにも上げれない私は空間にペンを走らせようとしたが、光の軌跡は現れなかった。

どうやら女性が質問したこと以外は、私には発言権は無いらしい。

「質問の仕方が悪かったわ。」

「私が知りたいのは、心の部分。」

「この世界には、無数の言語がある。そして、文字の中には感情と呼ばれるものがある。」

「貴女が思う感情と呼ばれるものを教えて欲しいわ。」

そう言うと、ペン先に再び光が灯った。

『愛、悲しみ、嘘、欺き、凶暴、殺意、慈愛、喜び、希望。』

書き留めると、女性はそれを覗き込み満足そうに頷いた。

「ありがとう。へえ、こうして見てみると、人の心って案外闇の部分が多いのね。」

視線を下ろして、女性はゆっくりと私の周りを歩きながら語り出した。

「知ってる?人間には三大欲求と呼ばれるものがある事を。」

「ああ、学校の教科書なんかにも載っているから、貴女はもうとっくに知っているか。」

急に世俗的な単語が出てきたなと、頭の端で考えながら、私は女性の言葉の続きを待つ。

「私は、欲が人間の大部分を占めているから心の闇が増えていき、殺人、詐欺、わいせつなどが減らないって思ってるんだ。」

顔は見えないが、声音から女性が笑っている様に見えて来た。

「じゃあ、質問を変えるわ。」

急に真面目な口調になると、女性はゆっくりと私に近づきながら言葉を紡ぐ。

「貴女は私とおなじ女。」

「じゃあ、何故女があると思う?」

「こんな事を言うのも何だけど、今の私達女性は平等に教育を受け、男と同じ様に発言が出来る。」

「けれど、一昔前は大きく違った。」

「女性は男性が管理するもの、女性は男性に従う。」

そう言った女性の言葉は何処か悲しみを帯びていた。

「これらが近代まで根強く有ったわ。」

「けれど戦後に大きく価値観は変わり、女性の誰しもが男性と同じ様に仕事を得て、自由に活動ができる様になった。」

「けれど、それと同時に妊娠の多様化、性転換が容易に出来る様になり、私は生命が低く見られる様になっている気がして仕方ないの。」

「自意識過剰と捉えてもらっても構わない。」

「だけど教えて頂戴。同じ女性として今の時代の生命の価値観について。」

女性が言葉を切ると、手に握ったペン先がまた淡く光った。

このまま筆談で答えても良いのだろうか。

この質問に関しては、如何しても自分の口から言わないと気が済まないのではないか。

そう思って私は暫く熟考する。

色々と何もない空間を見回すが、殆どが無であり、答えを待つ女性と、ペンを持つ私しか居ない。

ふと、手元に目が行く。

女性が最初に手渡したペン、これが言葉を封じたのでは無いかと思った私はゆっくりと両の手でペンを握りしめた。

『ふんぬ!!!』

女性が止める間も無く、私はペンを一息に膝頭に向かって振り下ろすと、ペンはあっけなく折れてしまった。

しまった、夢の中とはいえ他者から渡されたものを了承もなく折ってしまった。

私がオロオロとしていると、唖然としていた女性はお腹を抱えて笑い出した。

「あははは!ふふっ。良いわよ。声を出しても。」

「あーっ。あーっ。何故、こんな事をしたのですか?」

恨めしい気持ちを込めて、私はジトりと女性を見つめる。

すると、女性はその表情がさも面白いと言う様な顔をした。

「ごめんなさいね。貴女を少し試したいと悪戯心が出来たの。」

「そのペンは、言葉を封じる代わりに折ればいとも容易く声が戻ってしまうガラクタ。」

「けれど、ガラクタでもそれなりに値が張る物でもあるの。」

「だから、そのペンの代金代わりに教えて欲しいの。」

真剣な声音で、女性は徐々に私に近づきながら質問を再度する。

「貴女の生命についての価値観を教えて欲しい。」

それは懇願にも近い問い掛けだった。

どちらにせよ、この空間から出るには質問に答えるしか無いと思った私は、一つ一つ、噛み締めるように言葉を紡いだ。

「正直に言うと、男女尊卑はだいぶ改善されたとはいえ、あらゆる所で男性と女性の無意識の差別は出てくると思う。」

「男性だからできる。女性だから出来ないのではなく、それが男性個人でできるか、出来ないか、女性個人で出来るか、出来ないかの違いだと思う。」

「要は、集団で評価をするのではなく、個々で選択して、その成果を評価するのが大切ではないかと私は思う。」

「例えば、持久走の距離も、男子だからこれだけ、女子だからこれだけと決まっているものが多いけれど、もっと走りたいと思う男子もいるだろうし、あまり走れない男子だっていると思うの。」

「だから、女子だから、男子だからではなく、女子でももっと出来る、男子だけどこの量は難しいがあっても良いんじゃないかって思ってる。」

「あ、でも出来るのに出来ないや、出来ないのに無理して出来るって言うのはいけないと思うよ。」

「それと、妊娠の多様化に関しては、別に生命の価値を低く見ている事は無いと思うよ。」

「何故?」

興味深げに、女性の言葉は弾む。

「子供が欲しくて、欲しくて堪らないからこそ、夫婦は様々な事を試した。」

「けれど、授からないからこそ、最終的に医の力に縋ってしまうのだと私は思うの。」

「それとね、現代はなりたい様に医の力で体を作り替えるけれど、人体を作り替える整形外科手術はもともと、戦争で失った皮膚や、体の一部を取り戻して、綺麗な姿で故郷に戻してあげたいと言う思いから生まれた物だと聞いたことがあるの。」

「又聞きだから、本当かどうかはよく分からないけど、その話を聞いた時、私は安易な事で整形手術はしないようにしようと思ったの。」

「怪我や、病気は放っておいたら悪化するから薬が必要だけど、人体のコンプレックを変えるのはあくまで最終手段って思ってるよ。」

言葉を切ると、どっと疲れが押し寄せてくる。

よく知らない相手に向かって心を話した緊張からだろうか、私はよろよろとその場にへたり込んだ。

すると、頭上から声が聞こえた。

「やっと整理がついたじゃない貴女の気持ち。」

ばっと顔を上げると女性はその場にはいなかった。

代わりに頭上から声が聞こえて来る。

「今、この時の会話は全て夢、貴女が作り上げた心の空間だったから貴女の心が定まらない限り、この空間は消えることは無かったでしょう。」

「けれど、貴女の気持ちに整理がついた今、私とこの空間はもう不要な存在。」

そう言葉が放たれた瞬間、私の意識はどんどん遠くなる。

「貴女は、一体誰なの?」

最後の問いかけに声は優しげに答えた。

「私は貴女。貴女も私。貴女が作り出した影であり、貴女の心に迷いが出来ると形を変えてまた出て来るでしょう。」

「それまで、どうか元気で。」

その声を最後に私は夢から覚めた。

ストーブのタイマーはとっくに切れていた。

夢から覚めたばかりの私の心の中には、顔のない女性の姿と、優しげな声だけが、頭の中に残っていた。

これを書き上げたのが夜中の1時。。

道理で眠たいと思った。

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