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第7話 見てしまった俺は颯爽と走り出す

佳奈の誕生日が三日前までに差し迫った日。

俺はバイト先の休憩室で、美香さんと対面に座って休息していた。


「明日はいよいよ待ちに待った給料日だね、蒼生くん」

「そうですね…………」


俺はあることを考えながら、下を向いて深いため息をついた。


「どうしたの? もうすぐで彼女の誕生日をお祝いできるというのに元気がないね」

「その彼女の様子がここ最近おかしいんですよ」


お茶を飲んでいた美香さんは、俺のその言葉を聞いてコップを置いた。


「何かあったの?」

「…………俺、彼女に避けられてる気がするんです」


俺はここ数日の間に何があったのかを美香さんに簡単に説明した。

俺たちは学校の日はよく一緒に登校して他愛の話で盛り上がるのだが、最近は話しかけても適当な返事しか返ってこない。学校にいる時なんかは佳奈が友達の側にいることがさらに多くなって全く会話をしていない。下校の時もそうだ。俺が一緒に帰ろうと誘う前に女友達と帰っている。

佳奈と一緒にいる時間が、前より減っている。


「というわけなんです…………」

「なるほどねぇ」


美香さんは全てを聞き終え、考える素振りを見せる。


「あの……これってそういうことですよね?」

「うーん……もしかしたら愛想を尽かされてるかもしれないね。好き避けという可能性もあるけど」

「やっぱりそう思いますよね…………」


俺はさらに深いため息を吐く。

彼女のことををはっきりと彼女と言い切れない男のことを好きになる奴なんていないよな。もし、佳奈が俺のことを彼氏と思っていてくれていたとしても、俺みたいな彼女に何もしない彼氏のことをいつまでも好きでいてくれるはずがない。


「でもね蒼生くん、それはあくまで予想でしかないからね。ちゃんと彼女さんに確認してみないと分からないよ」

「そう、ですね…………」


確認してみないと分からない。

その通りだと思った。

けれど、俺にそんなことを聞く勇気があるかと言えば、怪しい。

予想通りの答えが返ってきた時、俺は苦しみに耐えることができるのだろうか。

俺はいつもと変わらないはずの明るい風景のファミレスで、どこかちょっとした暗さを感じながら働いた。




   ♢   ♢   ♢




佳奈の誕生日まであと二日になった。

俺はいつものように佳奈と合流して学校へと向かう。


「昨日の例のドラマ観たか?ラストの展開すげぇ面白かったな」

「そうだね」

「ヒ、ヒロインの演技も凄かったよな。感情に任せて泣き叫ぶシーンとか」

「うん」

「………………」


やっぱり今日も素気ない。

前までなら、ドラマの話一つだけで登校時間中はずっと話していられたのに。

恋人としてどころか、幼馴染としての仲の良さもなくなっている気がする。

こうやって佳奈の隣を歩いて話しかけるのも、彼女にとっては迷惑なんじゃないか?

聞きたい。今、俺のことをどう思っているのか聞きたい。

いやしかし、どういう風に聞けば……うーん…………。


「アオくん、履き替えないの?」

「えっ?」


どうやって聞こうかずっと悩んでいると、気付けば俺は下駄箱の前に突っ立っていた。


「あ、あぁ…………」


やってしまった…………。

俺は教室に入り、席に座って頭を抱えた。

佳奈の方を見ると、彼女はすでに友達に囲まれていた。

確認するタイミングが完全に失われた。


「ほんと、ダメだな俺…………」


それから学校では佳奈と一言も話すことはなかった。

終礼が終わってすぐに立ち上がって佳奈を帰りに誘おうとしたが、彼女はやっぱり友達とすぐに下校してしまった。

置いていかれた俺は誰かと帰る気分ではなくなり、一人で我が家へと歩いて帰った。


「ただいま」


洗面場で手を洗い、母さんに少し顔を出してから自分の部屋に戻る。


「そっか、今日は給料日なんだっけ」


俺は私服に着替えて、近くの銀行に行って給料が振り込まれていることを確認した後、遊園地のチケットが売っているコンビニに寄って入場券を二枚買った。

佳奈が誕生日の当日に用事がないことはさりげなく聞いている。

もし断られても、その時は男友達を連れて遊びに行ったらいい。


「よし、このままあいつの家に行って遊園地に誘おう」


そう決めた俺は佳奈の家に向かい、扉の前に来たところでインターホンを押した。

すると扉が開き、中から佳奈が顔を出した。


「アオくん…………」

「よ、よう…………」


遊園地に誘うだけなのに、いざ本人を前にすると緊張する。


「何か用?」

「あぁ……その、よかったらだけど、次の土曜……えっ…………」


かばんからチケットを取り出そうとした時、扉の向こうの玄関に知らない男の姿が目に入った。


「佳奈ちゃん、お友達?」

「あ、いや……えっと…………」


背が高くてすらっとしたかなりの美男子だ。

歳は俺たちと同じくらいに思える。


「あぁ、なるほど…………ごめん、聞きたいことがあって来たけど、解決したからやっぱいいわ。じゃあ俺はこれで。お邪魔しました!」

「あっ、ちょっと!」


俺は全てを察し、颯爽と走り出した。

様子がおかしいと思ったらそういうことか。

俺はあいつの彼氏ではなかったんだ。


雲ひとつない夜の空に綺麗な満月が見える。

でも何故だろう?


その月は、佳奈の家に行く前に比べてぼやけて見える。



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