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33.桂林

 三亜からのフライトは早朝便だったため、夜の海から戻ってシャワーを浴び、着替えを済ませて直接チェックアウトし、その足で空港へ向かった。空港に宿泊するというのは男性ならばまだしも女性には負担がかかってしまうのだが、ジャスミンはそんなの気にしてないわ、というように荷物を運ぶカートを器用に並べて簡易ベッドを作った。


 三亜からまた大陸方面に飛行機は飛んでいく。最後から二番目の飛行機。こうして肩を並べながらいろいろな場所に行くのも、もう数えられないほど少なくなってきた。


 桂林両江空港に降り立ってすぐ、南国気分が抜けて、ローカルな中国に戻ってきたのだと実感した。メンマか何か、香辛料に漬けてあるものの匂いが空港の中で充満している。その匂いは空港を出ても変わらず、いつものようにタクシーに乗り込んでホテルに向かうまでずっと鼻についてきた。この街はこういう匂いの場所なのだと納得するしかなかった。


 桂林は広西チワン族自治区に属する街で、漓江の水墨画のような眺めと少数民族が有名な場所。しわしわで色黒のタクシーの運転手が嬉しそうにそう紹介してくれ、しかもホテルに着く前に最寄りの旅行社に一緒について来てツアーの手続きを手伝ってくれることになった。きっとその会社とタクシーの運転手はグルだと思う。ジャスミンと目を合わせて無言でそう会話しつつ、手続完了。嬉しそうなタクシーの運転手を見て、なんだか良いことをした気分に浸った。ホテルの前にずらりとならんだ原付の切れ目で止めてもらい、ホテルにチェックイン。やはりメンマのような匂いの中、窓から見えるバイクや原付だらけの光景を見て、また特徴的な街に来たなとワクワクしてきた。


 次の日、早速早朝から桂林駅前でバスに乗り込み、日帰りツアーをスタートした。その日のツアーは水墨画のような光景が見られる漓江観光ツアー。次の日は少数民族の村を訪問するツアーをそれぞれ予約している。


 バスは途中、やはりお土産屋に寄って、まだ回ってもいない観光グッズを買わせようとしてきたりしたが、慣れたようにスルー。駐車場でしばらく待った後バスに乗り込み、まずは石灰岩が形作った鍾乳洞へ。中はひんやりとしていて、七色にライトアップされている。長い年月を経て作られたんだなと感じつつ、順路を正直にたどって外へ。ジャスミンもそこはそれほど興味がないらしく、次に向かう最大の目的地を心待ちにしているようだ。


 そして遂にたどり着いた漓江。鍾乳洞に垂れ下がっていた石灰岩を、ちょうど反転させたみたいに刺々しく空に向かって伸びている岩。その間を縫って移動しているように見える雲と霧。水面は静かに揺れ、ボートのモーター音の他に音はない。確かにこれは水墨画の世界に入り込んだような感覚に陥る。映画のセットのような非日常感に、ジャスミンも俺もテンションが上った。


 ツアーが終わり、夜は桂林駅前で降ろしてもらった。その帰りに有名な桂林米粉グイリンミーフェンを一緒に食べることに。そこでやっと気付いた。この街の匂いは、この料理から来ているのだと。香辛料が混ざった独特のそのにおいはどこか懐かしく落ち着くような香りで、ホッとするような安心感があった。


 次の日、今度はまず少数民族、ヤオ族の村へ。山間の奥地にある川を越えると木造の建物が並んでおり、赤い横断幕に黄色い文字で熱烈歓迎と書かれていた。嘘みたいなピンク色の民族衣装で独特の髪の結方をしている女性たち。確かに目鼻立ちが整っていて、少数民族は美男美女が多いという俗説が流れるのも頷ける。ステージに案内され席に座ると、部隊の方から音楽に合わせて美女たちによる演技が始まった。その演技は、つややかなストレートの黒髪をこれでもかと振り回すような舞踊。ヘッドバンギングのような激しいものではなく、まるで体操のリボンを髪の毛で代用しているような、軽やかで華やかな踊りだった。


 踊りの後、有料でその長髪を結っているのを解いて見せてくれるという企画があり、二人でお金を出し合って瑶族の美女の髪の毛を見てみると、驚いたことにその長さは直立で余裕で地面を這うほどあり、その姿から、髪長族とも呼ばれているのだと笑って教えてくれた。


 帰りのバスの中で、来るときに渡った川辺をふと見ると、瑶族の女性が川の水で髪の毛を洗っている場面と遭遇した。川で洗い、山に乾かしてもらう。自然と調和している生活習慣が印象的で、ジャスミンは早速「私も水道水で洗って自然乾燥することにしよう!」と冗談をかましていたので、「風邪を引くからやめるように」と注意して一緒に笑った。


 帰国まで残り、あと5日。


 やりたいことはまだまだたくさんある。この前やっと喧嘩できたくらいだ。身体だって合わせていない。俺らは紛れもなく「これから」のカップル。発展途上なんだ。それを無理やり終わらせようとすることに、冷静になれるほうがおかしい。ジャスミンだって、表には出さないだけできっと裏では苦悩しているだろう。終りが見えてきたからこそ、気持ちの整理がどんどんつかなくなってきた。次がいよいよ最終目的地。二人で乗る最後の飛行機に乗り込んだとき、ジャスミンは最後だからと手をずっと離さなかった。相変わらずなれない飛行機に手汗が止まらなかったので申し訳ないと思いつつ、俺も離したくなかったのでそのまま着陸を迎えた。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 空港に泊まる!Σ( ̄□ ̄;) そういう事ができるんだ…ふぇぇ… メンマのような匂い(笑) 日本はどんな匂いなんだろう? >嘘みたいなピンク色の民族衣装 あの鮮やかな色って、何で染めるん…
[良い点] 第三部に入って、旅行の様子がとても細やかでリアリティを持って描写されている点が素晴らしいです。 さすが実体験は違う!! 前話で、ジャスミンとの喧嘩が終息して良かったです。 それにしても、こ…
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