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29.天津

 天津へ向かう高鉄は日本で言うところの新幹線。車内は日本の新幹線よりひと回り小さく感じる。ヨルダンにはない高速鉄道に興奮するジャスミン。日本の新幹線も乗ってみてほしいのだが、それは叶わない夢。ゆったりする暇もなく、景色がビュンビュン通り過ぎ、あっという間に天津に到着した。


 北京のときと同じく、まずは宿泊場所までタクシーで。お互いに2つずつスーツケースを持っているので基本的にはタクシーでしか移動できない。ここが日本じゃなくてよかったと心からそう思った。


 北京から天津までの高鉄に乗っている時間よりも遥かに長い時間、タクシーに乗るための長蛇の列に並んでいたと思う。途中で話す話題もなくなり、立ったまま寝そうになったが、寝落ちする前になんとか乗車することが出来た。


 到着したのは市の中心部、和平路。運良く中心部の中にある格安ホテルをとることができたのだ。荷物を置けば徒歩5分でメインストリート。ウィンドウショッピングし放題だし、夜は近くの夜市でB級グルメを堪能し放題。ラマダン中のジャスミンにもきっと楽しんでもらえるだろう。


 夕方になり、和平路はやはり大勢の観光客でごった返していた。路上パフォーマーも窮屈そうにダンスを披露している。西洋風の古い建物の前では記念撮影をするためにベストポジションには長蛇の列。


 その人の海を横切り、タクシー乗り場から天津観光のメイン、天津之眼に向かう。天津之眼は天津のランドマーク。まん丸の観覧車は夜になるとライトアップされて、まるで天津を一望する眼のように見えることからそう呼ばれている。タクシーの中から見るだけでも迫力があるのだが、せっかくなので乗ってみようということに。しかし到着して気付いたが、これがなかなか高額。今回はとにかくジャスミンを満足させるための豪華な旅行だが、これなら他のものにお金を使おうかということになり、川辺を散歩しながら天津の夜景を楽しむことにした。


 その後はホテル近くの夜市、遼寧路小吃街でB級グルメを堪能した。肉まんと小籠包の間みたいな狗不理包子儿、天津甘栗ではないが小さい栗、ねじれたかりんとうのような麻花など、天津には美味しいものがたくさんある。狗不理包子儿は豚肉のためジャスミンには無理だが、食べられるものは何でも食べた。これだけの日程を消化しつつ一日一食で平気な彼女に感服する。夜市は大体の場合、調理風景を実際に見られるし、怪しげなものを口にせずに済むのでハラールを気にするときにはとてもありがたい。


 ちなみに天津飯はやはりどこにもない。日本にしか無い中華料理だというのはどうも本当のようだった。


 次の日、今日は北京の清華大学のように、天津の有名な大学、南開大学を散策することに。西洋風の古い建物、広くて開放的な環境。清華大学のときもそうだが、古くて歴史のある大学と比較的新しい大学だとこうも雰囲気が違うのかと感心してしまう。


 南開大学を出て、次は有名な教会へ。せっかくだし、二人で清華大学での散歩でやったみたいに擬似結婚式を演じようと思い、提案してみた。でも、大事なことが頭から抜けていたことに気付いた。


「因为我是穆斯林,所以不能进去(私はムスリムだから、ここには入れない)」


 そうか。宗教が違うとただの建造物の観光だとしても駄目なんだ。


「抱歉啊。从外面看一看是没问题的。我们一起拍照吧!(ごめんね。外から見ることはできるから。一緒に写真撮ろう!)」


 どうしても宗教がらみになると気まずい雰囲気は拭えない。もしもジャスミンとの障壁がなく、これから何年も一緒にいられたとしても、ふと気を抜けば色んな所で宗教が関係したちょっとした不満や不具合が出てくるだろう。簡単に一生一緒にいるなんて言えないのは当然だと思った。

 

 今夜もあの夜市で一緒にB級グルメを晩ごはん代わりにする。今日は珍味、臭豆腐にチャレンジしてみようと思う。その名の通り、臭い。しかし中国人からすると美味しいらしく、日本の納豆のようなものだろうと思い、五個入りの一番小さいサイズを購入した。


 それを持ったときから香ってくるものすごい匂いまるでおじさんが吐いたつばを練り込んで作ったような、そういう不快な匂い。鼻を摘んでも鼻の奥から直接攻撃してくるのその匂いに、一口も噛むことが出来なかった。


 次はジャスミンがチャレンジ。


「这个好香诶! 确实有点臭臭的,但是越吃越香的感觉。这个我可以吃(これすごく香ばしい! たしかにちょっと臭いけど、でも食べれば食べるほど香ばしくなる感じ。これ私食べられるよ)」


 空腹だからこそ食べられるのか、それとも普通に食べられる味なのか、それはわからなかったが、食べ物を粗末にせずに済んだのは良かった。ぜひジャスミンには納豆を食べさせてあげたい。


 同じ臭さでも、ドリアンは美味しく食べられる。今日の締めに一緒にドリアンを一パック買い、美味しく食べてからホテルへの帰路についた。


「阿进,给我亲一个(進、チューして)」

「不要不要不要!(無理無理無理!)」

「哈哈哈,我也不要!(ハハハ、私も無理!)」


 さすがにおっさんのつばのような臭豆腐とドリアンの匂いが混ざったものを吸い込む勇気は出ない。こんなふうに冗談を言っていられるうちは、まだ幸せだったのだろうと思う。 


 次の日の朝、お互いに念入りに歯磨きをした後、荷造りをして空港へ。次は10時前のフライトで重慶へ行く。少し余裕を見て午前八時頃には空港につき、余裕を持ってチケットカウンターの前に陣取った。


 帰国まで残り、20日。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 写真綺麗ー!観覧車に乗りたくなる(笑) 臭豆腐…そっか、香ばしいのか…納豆……想像できない!(笑) 宗教かー。 現代日本だとあまり感じないけれど、海外では生活に組み込まれている?もんね。…
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