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9話 サミリア戦 前編

今回でチートに目覚めます





紫炎は、目の前の化け物に戦慄と絶望を覚えた。


時を遡ること数十分前、


「すみません、マスター。あの少女の事なのですが·····」


そして、黒煉は、自分のこととあの少女のことを話した。


(何故、こいつは黙ってたんだ?)


黒煉の事情なんて、全く知らない紫炎には、分からなかったが


「そうか、あいつはそんな理由で呪いを」


紫炎は、呪いとボスについて、再認識した。

とりあえず今言えることは、


(絶望的過ぎだな、だが、やると決めたからにはやるか)


そして紫炎達は、ボス部屋に入った。


ボス部屋に入ると、1人の少女が玉座に座っている。どうやら彼女がここのボスなようだ。


すると、紫炎達を見て笑顔で、彼女は言った。


「久しぶりの客人だな、あの拍子抜けだった少年以来か、ひとつ手合わせする前に自己紹介といこう、私の名前は、サミリアよろしく頼む」


サミリアと名乗った少女は、綺麗な黒髪を腰にまで伸ばし、黒煉が言った通り、その身は、漆黒の鎧に包まれている。


「それはどうも御丁寧に、俺の名前は紫炎だ」


瞬間、背筋が凍るような、濃厚な殺気が紫炎達に叩き込まれる。そして、冷ややかな声で彼女は告げた。


「さて、では自己紹介も済んだ事だし、早速始めようか」


そして今に至る。


(クソ、おかしすぎだろ、化け物かあいつはッ!)


紫炎が心の中で悪態をつくのは、当然である。サミリアは、黒煉の一撃を受け止め、その隙に背後に回った紫炎に回し蹴りを決める。そして黒煉は、投げ飛ばす。この攻防に、サミリアは、足を1歩も動かしていないのだ。


紫炎は、以下に強くても一撃ぐらいは決まると思っていたのだ。だが、サミリアは、道端の石ころかのように軽く遇う。


そんなサミリアは、吹き飛んだ黒煉と後方に倒れた紫炎を見て、


「実に、つまらないな、これならまだあの少年の方がまだ面白かったよ」


そう言って、昔を思い出すかのような目をする。梓人の事を言っているのだろう。が、直ぐにその目は元に戻り、話を続ける。


「まぁ、君は良いんだ。凄く良い、実に面白い。少しだけどさっきの攻撃防いだ時、本気を出したから」


そう言って倒れている黒煉を指さす。そして次に紫炎を指さし、


「だけど君はダメだね。”弱いよ”全てが、どんだけ低いんだ? 君、のろすぎるよ。せめて私の目に映らないぐらい速く動かなきゃ、奇襲にもなりゃしない」


そう言いながらサミリアは、瞳を輝かせ、その瞳に魔法陣を描く。


「君、ステータス、ん? おかしいぞ? なんで君のステータスに、種族欄がないのかな?」


どうやら、サミリアは、『鑑定』を持っているようだ。


「しかもこれは傑作だな。職業が勇者?などと今までに見たことがない」


だが、不自然である。シルファーも『鑑定』を持っているがここまでは知られていなかった。せいぜい称号とステータスのみだったはずだ。すると、サミリアが解説する。


「あぁ、これはね『鑑定・全』だよ。全てのものを見ることができる。一種の魔眼だね」


余程余裕があるのか、紫炎のステータスを眺める。紫炎は、決して弱い訳では無い。が、黒煉とサミリアと対照すると紫炎のステータスは”弱い”のだ。


(くそがァ、変な俺のプライドでここまで来て、黒煉を無駄に傷つけ、俺はなんで無様に倒れているんだッ!)


紫炎は、うつ伏せで強くその拳で床を叩く。


(こんなことがあっていいのか? いや違うッ! 断じて違う! 俺は、立ち上がらなければならない。なのになんで足が動かないんだ)


そして、紫炎は、立ち上がる為に下半身に力を入れる。


(クソッ! 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け)


だが、いくら動かそうとしても動かない。

そして紫炎のステータスを見飽きたのか、サミリアが紫炎に近づいてくる。


「はぁ、力を出させようとも思わない。こんな奴がここまで来るなんて、多分だけど彼女が頑張ったんだね」


そのサミリアの言葉は、確実に的を射ていた。

紫炎の心に亀裂が入る。


「ねぇ、足手まとい君。君はなんのためにここまで来たの? あの少年は、栄光を求めそして少女を求め、私に挑んだ。そして君は? 君はなんのためにここにいるの? 私に勝つため? そんなわけないよね? ここまで彼女の足を引っ張っておいて、それを自分の力だと妄信して、そして今無様に地面に倒れている。そんな奴が私に勝つなんて、無理に決まっているよね?」


最初の堅苦しい言葉遣いが解け、紫炎をバカにする様な口調になる。


「そんなことはわかっているんだよ。最初からどれだけ俺が、弱かったかなんて、どれだけ黒煉に迷惑をかけたかなんて分からない、分かってるッ! 全部分かってるんだ!」


紫炎が叫ぶ、その白髪の前髪で隠れ見えない瞳から、だが確かに透明な雫が、涙が頬を伝う。


(最初から俺は詰んでいた。だけど、それを認めるのが嫌で、魔王に弟子入りし、力を得た。だけど、それでも弱いことは自分でも分かっていた)


今の紫炎のステータスだとこの世で普通に生きていける程の実力を持つ。だが、それでも実際、黒煉に迷惑をかけている。ならまだ自分は弱いのだと、あの頃から変わっていないのだと気付かされる。


(自分は、魔王の弟子と強く思い、地球で何度も見たライトノベルと現実を重ね、そして心の片隅で得た力を過信し、最悪、黒煉に助けてもらえばいいのだと甘い考えをしながら攻略をして、あいつを助けるためにボスに挑んだ。

結果、このざまだ)


そして、紫炎は感じる、あの時出来た闇が大きくなっていっている事に、黒く染まった心は、漆黒に変わっていく事に。


憎悪が紫炎の心を蠢く、目の輝きは消え、ハイライト1つ入らない。


サミリアが、紫炎に近づいてくる。トドメを刺すために。


「いくら、吠えた所で変わらないよ。君は所詮そこまでの器という事さ」


(あぁ、ならもういっそこのまま楽にしてくれ)


紫炎が諦め、その瞳を閉じたその時。


「私の主に近づくなッ!」


刹那、黒煉が、サミリアに襲いかかる。紫炎を守るように。


「あなたにマスターの何が分かるというのですか? 私が何時、マスターを足手まといなんて言いました? マスターは凄い人です。あの時のマスターは、すごくかっこよかった。すごく眩しかった」


黒煉が、紫炎にも言うように、サミリアに怒鳴りづける。


「あの子を救いたいと心から言っていた。だから私は決めたのです。この方に一生お供すると。片時も離れずお傍にお使いすると。決してマスターは足手まといなんかでは無い。私はあの時確信した。どんだけステータスが弱くても、マスターは、心まで弱くはない。貴方に分かりますか? 1度絶望した者が、どのような理由であれ立ち向かう事の重大さが、大切さが。どれだけ絶望したとしても、マスターは歩き続けます。そして、私はその歩く道に一生共にすると決めたのです。その事を知らない貴方が、勝手に足でまといなどと決め付けるだなんて大概にしろッ!」


その、黒煉の心からの言葉に、紫炎もサミリアも言葉を失った。


(俺は、なんで勝手に思い込んでいたんだろ? 確かに俺は黒煉よりも遥かに弱い。だけど、黒煉は、そんな俺を主に認めてくれた。なのに、そんな黒煉の思いを否定してしまったじゃねぇか。それは主として相応しくねぇ。黒煉を冒涜しているから·····)


紫炎は、心の中に生まれた闇が、漆黒に染まった心が、輝きを失ったその瞳が、一筋の光に当たった事を確かに感じた。


(なら、話は簡単だ。俺は黒煉の主として、男として、諦めずに彼女と共に歩き続ければ良いじゃねぇか)



『称号取得者の意志を確認。称号「絶望シタ者」を変化、称号 「前ヲ向キシ者」に変わります。

称号 「前ヲ向キシ者」取得により、取得者に効果を発動します。これよりステータス改変を行います』


紫炎の脳内にあの時の声が聞こてきた。瞬間思考がクリアになっていく。体が軽くなっていく。


(自然と体が動く。立てる。これで戦えるッ!)


紫炎が急に立ち上がったことに驚いたのかサミリアが、紫炎を見る。


紫炎の身に起こった変化。それは、ステータスの変化である。


黒井 紫炎 16歳

職業 勇者?

称号 転移者 理不尽ヲ恨メシ者 魔王ノ弟子

前ヲ向キシ者

レベル ?

攻撃 測定不能

防御 測定不能

抵抗 測定不能

魔攻力 測定不能

内容量 150

能力 絶望と希望 魔王(未継承)


そう、測定不能までステータスが変化していた。原因は、


称号 『前ヲ向キシ者』 絶望した者が前を向き希望に向かい始めた者に贈られる称号、

能力『希望』を解放


能力『希望』と『絶望』を融合。

能力 『絶望と希望』に変化

効果:取得者が前を向き続ける限りステータスを大幅にアップ、闇属性を全て解放できる。


である。


(なんだよ、必要だったのは、前を向く事だったのか)


確かに、あの時大臣への復讐で、前を向いた。もちろん今も復讐は諦めていないが、今確かに紫炎は、黒煉の為に歩もうとした。共に歩もうとしたのだ。それが神に認められ、称号として紫炎の身にステータス補正がかかった。


「すまん、黒煉、俺はもう大丈夫だ、情けないところばっか見せていた。これからは、頼りになる主になるからさ、一緒にサミリアを倒そうぜ」


「そんな今まででも十分でしたよ? ですが、言うからには情けないところなんて見せないでくださいね? マスター」


「もちろんだ。さてサミリア、続きといこうか」


目を爛々と輝かせ、紫炎は、刀に変化した『黒煉』を、腰に差す。


「なんということだ、あの場から立ち上がり私に挑んでくるなんて·····。面白い、先程非礼を詫びよう。ここからは本気と行こうじゃないか」

書き直しました。

ここの回がどうやって書くか迷いました。チートに目覚めるので、やっぱり開幕チートより、弱者の気分を味わってからだと、志とか変わりますからね。何回か絶望を覚えさせました。とりあえず三人称で、表現出来たかな?と思います。


誤字脱字報告などあればよろしくお願いします。


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