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初エンカウントしたモンスターは魔王様!?  作者: 七曜
第3章 獣人の国 ラヴァン
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71話 王の器


「──で? お前は何故ここにいる?」


 シルファーが事務に追われながらに、言う。

 必死に判子を押す姿は魔王ではなく、サラリーマンであった。


「あの世界に連れてってくれよ」


「なぜだ?」


「俺の力の無駄を失くしに来た」


 暫しの沈黙。そして、シルファーは言った。


「お前が我に勝てたら考えてやろう」


「は?」


 紫炎としては快く連れて行ってくれると思っていた為、この返答には困った。


「どうした? 怖気ついたか?」


「魔王は継承したのに、俺と戦うのか?」


「小僧が、イキがりおって」


 シルファーの声に怒気が含まれ始めた。

 こうなると、紫炎としては受けるしかない。


「わかった」


「なら、決闘はあの場所でいいか」


 シルファーが言っているのは、修行の際使用していた『終焉の森』のことだろう。


「じゃあ、行くとしようか」


 結局、紫炎はシルファーの本意を知らずに、魔王城をあとにしたのだった。




「じゃあ始めようか」


「どっからでも来い」


 紫炎が構えるより早く、シルファーは動き出した。


「──ッ!?」


「どうした? ほれッ!」


 怒涛の拳舞。


 紫炎はガードするだけで手一杯だ。

 しかし、シルファーは別に特別なことなんぞ何一つしてない。これはただの身体強化魔法だ。


「我も、最近腕が訛ってるからな。実に久しぶりだ。ほれ、まだいくぞ?」


「ふざ、けるなっ!」


 紫炎は手を振り払い、間を空ける。


「<制御解除(リミットカット)>」


 瞬間、強すぎる力が具現化する。


「黒煉ッ!」


『はいっ!』


 『黒煉』を刀に変化させ、その有り余る力で振るうが──


「当たらねぇッ!?」


「力に任せた剣筋。そんなんで、我を捉えられるか」


 シルファーは手を虚空に差し出すと、魔法陣を出現させた。

 そこから取り出したのは闇そのものだった。


「闇属性──<闇刀>」


 それは漆黒の闇。

 刀状に変化した闇をシルファーが構えた。


「どれ、見本を見せよう──<魔斬>」


「──ッ!」


 寸前で紫炎が避ける。

 避けた先は裂けた大地が広がっていた。


「だったら、俺も──<魔斬>」


「それが上手くいかないんだ」


 『黒煉』から確かに放たれた斬撃は、シルファーの直前で打ち消された。


「斬撃に重みがない。そんなんで、我を捉えられると思うのか?」


「──ッ! さっきからなんなんだ!?」


 紫炎は声を荒らげる。


 それは『黒煉』が危惧していたことだった。

 つまりは、精神の崩壊の兆し。


「俺に足りないところがあるのは分かる。それを直すために来たんだ。別に、注意されなくても分かりきってんだッ!」


「それが諦めに繋がったのか?」


「は?」


 紫炎は言われた言葉が分からなかった。


 諦め、だと──?


「どこ、が?」


「貴様の目は〝諦め〟が浮かんでいた。大方、人を率いる事の重大さに気づいたのだろう。その苦しさに、そして辛さに」


「··········」


「『王の器』がないんじゃないのか?」


「王の、器·····」


「人を率いるにはそれ相応の力がいる。それが貴様には足りん。まぁ、修行を〝逃げ〟に使っているようでは、教えることも、貴様のために何かすることも出来ないな」


 シルファーは踵を返した。


「今の貴様とやっても面白くない。せめて、『王の器』を理解してから、来い。その時、初めて貴様に力の何たるかを教えよう」


 紫炎は結局、最後まで言い返すことが出来なかった。

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