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7話 ダンジョンで少女を見つけた


「クソがッ!」


 紫炎の怒鳴り声が城内に響き渡る。それもそのはずだ。何せ、現在紫炎は魔物から絶賛逃亡中だからである。


「マスター。逃げてばかりでは強くなれませんよ?」


 黒煉はそんな紫炎を気に止めることなく、淡々と返した。そこに慈悲は無く、軽々と魔物を斬った。


 〝斬った〟というのは彼女の肘部分までが刀状に変化しているからで、擬人化してもその切れ味は健在なようだ。


 さて、そんな助けられてばかりの紫炎は、一応であるが魔物を倒している。もちろん、レベルアップもしており──


黒井 紫炎 16歳

職業 勇者?

称号 転移者 絶対シタ者 理不尽ヲ恨メシ者

魔王ノ弟子

レベル36

攻撃 270000

防御 180000

抵抗 5400

魔攻力 5400

内容量 50/150

能力 絶望 魔王(未継承)


 以上の通りに強くはなっているのだが、如何せん『終焉の迷宮』の魔物が硬すぎるのだ。紫炎の拳ではどうにも打ち砕けない。


 というのも、紫炎は黒煉が擬人化した事により、唯一の武器を失った。故に拳で応戦しているのだが、攻撃力不足なのだろう。一向に勝てる気がしない。


 そんな紫炎を見て、黒煉が抱くのは失望。確かに黒煉が手伝えば魔物は倒せるし、先へと簡単に進めるだろう。だが、今回目標としているのは攻略。ボスを倒さなければならないのに、道中の雑魚に負けていては見る価値もない。


 故の失望。それは紫炎もひしひしと感じてはいた。その度に心が痛み、苛立ちが湧く。


 黒煉が紫炎を見る目は失望の眼差し。それは地球での教師たちの目に似ている。

 黒煉が失望したのは、シルファーが気にかけている。弟子にまで誘った紫炎に勝手に期待していたからだ。同じく、テストで恐ろしく平均である紫炎に教師たちは勝手に期待していた。


 平均であるがために、次はいけると。次こそは点数を取れると期待し、平均点を叩き出す紫炎に失望した。それが堪らなく苛つくのに、今回黒煉にも同じ目をされている。


 紫炎は変わろうと努力する。だが、あまりにも硬すぎる魔物に手も足も出ない。魔法も先程の主従契約で底を尽きかけ、魔力を回復する術を知らない紫炎は何をすることも出来ない。


 それを理解し始めた紫炎は、しかし頭を振り、ネガティブな思考を吹き飛ばす。


(俺が弱いのはいつもの事だ。また強く、強くなればいい!)


 そしてまた一歩、ダンジョンの奥にへと進んでいく。と、一つ気になることを発見した。


(奥に行けば行くほど、魔物が増えている?)


 それは一見、普通のことなのかもしれない。だが、魔物の様子が少しおかしいのだ。警戒心をむきだしにし、まるで何かを()()()()()湧き出てくる。


(気のせいか·····?)


 紫炎は気のせいかもしれないと、黒煉には黙ってまたダンジョン攻略に足を進めた。

 




 結構な数の部屋を通り過ぎただろう。外見が城ということもあり、数多く部屋が存在する。そして今回紫炎が入った部屋はそのどれよりも広かった。


 ここは大広間なのだろうか。光源であるロウソクの儚い火がゆらりゆらりと照らしている。


 そんな大広間を警戒しながら、進んでいくと倒れている少女を発見した。歳は十代辺りだろうか。ロウソクの光で銀髪が照らされ、幻想的なイメージを作り出している。


「おい──ッ!」


 紫炎が安否を確認しようと近づけば魔物たちが立ちはだかった。


 現れたのはリッチと呼ばれるアンデット種の上位モンスターで、同じくアンデット種の下位モンスターであるスケルトンを従える魔物で非常に厄介な相手だ。


 しかし、そんな事を遥かに凌駕する驚きの出来事が起きた。

 なんと少女を守るかのようにスケルトンが配置されており、当のリッチは警戒心を紫炎たちにむき出しにしていたのだ。


 紫炎は先程感じた不思議な事を思い出す。


(もしかするとこいつらアイツを守っているのか?)


 紫炎の仮説が合っているのなら、最初からこの魔物たちは()()()()()()()()という事になる。


 とりあえず紫炎は彼女の容態を確認しようと近づく。紫炎の仮説通りなら敵意を感じさせなければ彼女の元へいけるだろうと判断したからだ。


 その際、黒煉が紫炎を止めにきたが「大丈夫」と一言で制し、恐れずに近づいた。

 およそ半歩まで接近し、恐る恐る言葉を発した。


「悪いが、そこを通してくれ。俺らは少女に危害を加えるつもりは無い」


 通じるかわからないが、両手を上にあげ武器を所持してないことをアピールすれば、なんとリッチたちが道を空けた。


 やはり、知性があるのかと安心し、彼女に近づくと酷く荒い呼吸音が紫炎の耳に入る。

 仰向けに直すと気を失っているが、顔色も悪かった。


「黒煉、お前これを治せるか?」


 真っ先に黒煉に確認する。


 そんな紫炎に驚く黒煉であったが、直ぐに真顔に戻り返答する。


「今は無理でございます。容態から見て呪いをかけられたのでしょう。呪いの強さから見て恐らくこの『終焉の迷宮』のボスかと思われます。解呪には術者を倒すか、術者本人による解呪が必要です」


 黒煉の言う通りであれば、ダンジョンを攻略しない限り彼女を助けられないという事だ。

 もちろん紫炎では自殺行為に等しい。そんな迷っている紫炎に黒煉は更なる追い討ちをかけた。


「恐らくもって数日もないでしょう。加えて何年呪いにかかっているのか知りませんが、早めに解呪するに越したことはありません。早めのご決断を」


 その黒煉の言葉は紫炎に焦りを与えた。思い出してもみろ。ここは最難関ダンジョン。あの勇者ですら攻略は不可能である『終焉の迷宮』である。


 その事を踏まえると紫炎にとって、彼女は見捨てる対象でしかない。

 だが、ここまで渋っているのは紫炎に人としての優しさが残っているからに他ならないのだ。人は一人に在らず。助け合いで進化する生き物なのだと知っているが故に決断を迷う。


 しかし、どうしても重なるのだ。同じ弱者であり、地に這う者として自分と彼女を。


 ならば決断しなくてはならない。助けるか、助けないか。紫炎は最後に自分に問う。


 自分は強くなりたい。だが、この世界の強者にはなりたくない。弱者を切り捨て、追放したあの強者(大臣)には。


 しかし、だからといって正義のヒーローになりたい訳では無い。見ず知らずの人を全員助けるなんぞ、性にあわない。なら、目の前の人だけは苦しむ人だけは助けなければ。


 ──助けるんだッ!


 震える足を叱咤する。

 例えステータスが弱かろうと、豹変しようと紫炎は進む。


「わかった。俺が倒す。黒煉、お前はここに残ってくれ。魔物たちを信用する訳にはいかないからな」


 紫炎の言葉に、意外にも黒煉は反論した。


「お待ちください! マスターはご自身の弱さをお忘れですか!? そのステータスでは間違いなくボスに殺されます。貴方は見ず知らずの他人の為に命を投げ出すのですか!」


 途中からマスターと呼ばなくなるほどに彼女は紫炎の身を案じている。幾ら失望しようと自殺志願者だけは見逃したくないのだろうか。


 しかし、そんな黒煉の叫びは紫炎の意志を覆すことは出来ない。


「それでも俺は行く。それに·····俺が弱いことは自分がよく知ってる」


「なら──ッ! 見ず知らずの他人に命など!」


「それも承知の上だ」


 確かに初対面だ。見ず知らずの他人かもしれないが、苦しんでいる彼女をほっとけない。


「何故ですか? せめてこれだけでもお聞かせください」


 意志を変えないつもりでいる紫炎に、落ち着きを取り戻したのか、冷静に黒煉は問う。


「··········俺は転移者だ」


 やがて、紫炎は顔を伏せながらポツポツと話し始める。紫炎にとって一番忌々しい過去を。


「そんな俺がこの場に居るのは弱いからだ。弱いから追放された。·····理不尽だと思ったよ。勝手に期待され、勝手に失望される。挙句の果てに国外追放ときた。俺は殺してやりたいと思った·····この自分勝手な奴を苦痛や恐怖の顔に歪めたいと思ったんだ。だが、再三言う通り俺は弱かった。お前が言った通りにな。だから俺は、一人で何かを成し得る事が出来るとは思ってないし、そう思いたくもない。俺は色々変わっちまったが、これだけは忘れない。変わらない。だが、別に他の奴らを全て助けようとも思わない。これはただの気まぐれなんだよ·····アイツと俺が重なって見えた。そう感じただけの事、だがこの意志を変えるつもりは無い。それにな·····俺は男だ。まだ黒煉にカッコイイ所を見せてないからな。一つぐらいカッコイイ所見させろよ」


 紫炎の必死の言葉。それを聞いた黒煉は言葉を失った。


 そんな黒煉に踵を返しボス部屋へ向かおうとした紫炎に待ったがかかる。


 見ると、両手を胸の前に合わせ(こうべ)を垂れながら黒煉が膝まづいていた。少し頬が紅潮しているのは紫炎の気の所為だろうか。


「貴方様の心意気、感服しました。その感服の意を示し、主であるシエン様に忠誠を誓います」


 すると、黒煉の手の甲にある主従の印が、壊れ新しい印が浮かび上がった。


「これより私『黒煉』は、貴方様を真の主と認め、一生お傍に居ることを神の名の元ここに誓います」


 今尚(こうべ)を垂れている黒煉に紫炎がいやいやと激しくツッコむ。


「おいッ! 今の俺の台詞に何処に認める要素があったよ!?」


 だが、そんな紫炎の叫びも黒煉は気に止めもせず、一言。


「全てでございます」


 そして紫炎の手を取り、顔を上げ必死に訴える。


「貴方様の剣になったからには、例え火の中、水の中でも貴方様について行きます。これに関してはいかに貴方様の命令でも意志を変えるつもりはありません。一生お傍にお使いします事をお許しください·····」


 遂に折れた紫炎がため息混じりに頷いた。


「はぁ、分かったよ」


 しかし、これだと魔物に女の子を託すことになる。こればっかしは祈るしかないとリッチにお願いしとく。


「済まないが俺らが攻略するまでこの子を守っててくれ、頼む」


 すると頭蓋骨が僅かに縦に揺れた。未だに信じられ無いが、今更黒煉を蔑ろにする訳にもいかない。


(守ってくれると頷いたからな。信じるしかない。それよりも──)


「ボスの顔を拝みに行くとしようか」


 そして、紫炎達は攻略を再開した。

主人公の心情変化などの描写上手くいけたでしょうか?

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