65話 呪いの装備
瞬間、王城が揺れた。
「何事だ!」
獣人の国王であり、獣人最強とも言われるジンは近くにいた兵に怒鳴る。
「正門が破壊された模様です!」
「族は?」
「何でも宙を浮かんでいるらしく、魔族かと」
「遂に魔の手がここにも──」
ジンはニタァと笑みを浮かべた。まるでこの不測の事態を喜んでいるかのように。
「獣人では張り合いがないと思っていたが、魔族となると話は変わってくるか·····オイッ! 俺を族の元まで案内しろ」
「ですが!」
「王なんて代わりはいるが、強者に代わりはいないんだ! さっさと案内しないか!」
「かしこまりました」
「俺の相棒をもってこい。出陣する」
兵はビシッと敬礼をすると、王の間から走り去っていく。その間、ジンは青い鎧を纏う。数分もすれば兵が複数人と巨大な大剣を持って戻ってきた。
「よし、行こうか」
そして今、獣人最強の男が動いた。
同時刻──
「マスターが動いたようです。私たちも潜入しましょう」
見ると兵や何やら騒動が起こり、城内はパニック状態であった。
様子を見るに国王までもが出陣すると言うことなので、余計に好都合である。
「じゃあ行こうか。真実を調べに」
「はい!」
そしてクレンを先頭に王城へと潜入を始めた。
「潜入の心得なんてものは私には知りませんが、出来るだけのことはお教えします」
「ありがとう」
「まずは扮装です。サティ様、魔法をお願いいたします」
「りょうかーい」
魔法陣が三人を包み込み、瞬く間に変身を遂げた。メイド姿の黒煉とクレン。兵士姿のサティ。
「恐らく地下に情報があると思われます。警備もしっかりとしているようなので私はクレン様について行きます。見張り役をサティ様にお願いしたいのですが·····」
「任せといて、ボクが見張っててやばかったら連絡するから」
「はい、お願いいたします」
少し歩けばこんなパニックの中、持ち場を離れる気のない兵士たち二人組を発見。恐らく地下への階段を守備する者だろう。
すぐさま、サティは一撃で気絶させ、すり変わる。
「じゃあ、行きましょう」
「はい!」
螺旋状に続く階段を下れば、何重にもかけられた鍵に加え、魔法でも閉ざされている扉を発見した。
「こういうのは無理に壊さず、解錠していくのが良いです。壊すと魔法によってバレる可能性があるので」
そして黒煉はサッと扉に目を通すと、浮かび上がっている防御用の魔法陣の一つを斬った。
すると、瞬く間に魔法陣が効果を失っていき、錠は指を鍵状に変化させ開けた。
「今のは何重にもかけられた魔法陣の効果と不備を見極め、欠陥を後押しすれば簡単に崩れます。こういうのは何年も同じ魔法陣を併用しているのがほとんどなので、一番有効です」
「なるほど·····」
感心したようにクレンは開いた扉を見つめる。
その先には大規模な図書室が広がっていた。
「恐らくここのどこかに情報があるはずです。手分けして探しましょう!」
細かく種類分けされている為、ある項目の棚を見つけるのは容易かった。
──『呪いの装備について』という項目である。
そしてその棚を調べていくうちに次々と情報が手に入った。
「呪いの装備の所有者は代々巫女であり、その解放には巫女の命を捧げる。それは処女であるのが鉄則であり、純潔を捧げることにより呪いを解呪する。解呪した呪いの装備は邪の気を失い、純潔により聖の気を得る。故に退魔の装備とも言われる·····」
黒煉が手に取った本にそう綴ってあった。
「じゃあ、ラエは生贄に·····!」
「いえ、それはまだのようです。ここには紅き満月の夜に行うと書いてあります」
「紅き、満月·····」
「千人の命の果て、辿り着ける魔の境地であるとあります」
「じゃあ、村が襲われたのは──ッ!」
「紅き満月の夜を起こすための生贄ですね」
クレンの顔は真っ青になっていく。
「落ち着いてください。まだ紅き満月の夜は来てないようです。村の人口は何人でしたか?」
「百人もない·····中には逃げた人達もいるから」
「では、同じように他の村を全滅させているかもしれませんが、まだ規定の千人には届かないようです。多分、この城内の何処かにラエさんがいるはずです。サティ様と合流して探しに行きましょう!」
「はい!」
何とか活力の戻ったクレンは走り出す。
──ラエ、待っててッ!
そう祈りながら──




