62話 いざ王都へ
翌日、紫炎たちは竜人の里の前に来ていた。
サティが同行するにあたり、里の人たちとの別れの挨拶やらを含めた期間として出発を一日ずらしたのだ。
「じゃあ行こうか」
もろもろの準備を済ませたので、王都に行こうと紫炎が呼びかける。
「わかったの」
「言われなくてもわかっているわ」
この二人。精霊王であるユグとシルに『影ノ執行人』のことは伝えていない。
紫炎としては伝えたかったが、この二人の性格上止めたのだ。
この二人がこれを知り、紫炎たちを思って自らを犠牲にする可能性がある。
紫炎の力の強さも知っているが、国いや世界単位を敵に回せば、クロリアたち竜人族の二の前になることは火を見るより明らかである。
その点を知っている精霊王ではあるまい。
だから、話すことをやめたのだ。
「私も大丈夫だよ。シエン様」
クレンにも同様に伝えてない。
クレンは力があるだけで、紫炎よりも年が若い。
これから、復讐をするのに余計な情報は必要ない。
今回のクレンの故郷を滅ぼした存在として関係ないとは言い切れないが、その時は紫炎がフォローに回るつもりだ。
よって、この事実を知っているのは紫炎と黒煉、サミリアにサティである。
黒煉は相棒として伝えなければならなかったし、サミリアには隠していてもばれる。
サティには、なんかもうバレていた。
大方、クロリアとの対談を盗み聞きしていたのだろう。
『マスター。この女つれてかなくてはダメなのですか?』
黒煉はどうやらサティが気に食わないらしく。たまに泥棒猫ならぬ泥棒竜と呼んでいる。
『まぁ、そう言うな。コイツもなんか強いらしいから戦力になるだろう?』
『別に今のままでもいいですし、それに私が言いたいのはマスターの婚約者というところです』
これを聞いて、あるいは一般の男なら「コイツ、俺に気があるのか」などと最低でもそれに近しいことを考えるであろう。
が、しかし紫炎は違う。
『サティが俺にはもったいないってことは分かるけどさ』
そう、こう考える男なのだ。
まるで、ラブコメの主人公並に自己評価が低い。
これには黒煉もため息が出る。
『これなら別に警戒しなくてもいい気がする……』
ボソッとつぶやかれた言葉は紫炎の耳に入る事は無かった。
「御主人様。今、お時間よろしいでしょうか」
「歩きながらではダメか?」
「急ぎでございます」
「わかった。話せ」
「例の組織ともしかしたらあの勇者が関わっている可能性が」
前に光をサミリアにみはらしとけば、面白い話になった。
それが、勇者である光の行方がわからなくなったことである。
そして、一日という時間にサミリアに軽く王都を調べさせたら──
「勇者の姿がありました」
「そうか」
なら、イフリートも同行しているだろう。
「ありがとう。サミリア」
「恐悦至極に存じます」
さて、ここでの用は完璧になくなった。
「サティ。もう大丈夫か?」
「うん。ありがとう。シエン」
なら行こう。
「いざ、王都・クレファンスへ」




