61話 影ノ執行人
翌日、紫炎はクロリアに呼び出された。
「黒煉たちを連れてくるなってどういうことだ?」
「それは、これから話す事に関係している」
今回、クロリアに呼ばれたのは紫炎のみ。
この場には、黒煉はおろかサティすらもいない。
「獣人の国・ラヴァンには奴らの支部がある」
クロリアはサティの信じた紫炎を信じることにした。
ならば、話さなければならない。
この世界に蔓延るあの組織の事を……
「奴らとは『影ノ執行人』なる組織の事だ」
各国の影にはこの存在が関わっている。
「そいつらがどうしたんだ?」
「お前も知っているだろう? 魔人のことを……」
「──ッ!」
紫炎の脳裏にはある少年のことが浮かぶ。
「ゼロ……」
大臣の手により人間とかけ離れた存在へと変貌を遂げた少年。
そして、紫炎が殺した少年でもある。
「ということは……大臣が『影ノ執行人』だったのか」
「どうやらお前も心当たりがあるようだな」
大臣の裏に組織がある話は聞いていない。
だが、まだ大臣が話していないという可能性がある。
「チッ、めんどくせぇ」
「まぁそういうな。まだ話はある」
一呼吸おいてクロリアは話し始める。
「魔人の開発は『影ノ執行人』の目的の一つに過ぎない。私も全てを知っているということではないが、小僧に関係があるとすれば、精霊王であろう」
「ッ! なんだと?」
「アイツらはどういう理由かわからんが、精霊王を欲している。この意味がわかるか?」
紫炎は少なからず、『影ノ執行人』と相対するということだ。
紫炎に直接関係することではないが己の仲間を見捨てることはしない。
その悲しさは紫炎が一番知っている。
それに、ゼロとの約束がある。
だから──
「俺はそいつらを倒せばいいんだろ?」
「そうだ。サティの婚約者となったからにはお前は生きなければならない。サティを悲しませる事は許さない」
「もとよりそのつもりはない……というか、サティはいいのか?」
「は?」
「そもそも、俺は俺の力をお前に見せるために婚約者の戦いに挑んだわけで」
ため息を一つ。
クロリアはサティの苦労がわかった気がした。
「それはサティから直接聞け。それよりもだ。お前のところの奴隷の娘の故郷を潰したのも恐らく『影ノ執行人』だろう。支部の位置まではわからんから、それは小僧、お前が調べろ」
「わかった」
そして、紫炎は畳から立ち上がる。
「情報ありがとうよ」
「もう行くのか?」
「あぁ、もう行くよ。サティには黙ってろよ? この戦いは俺らの戦いなんだからよ」
「まぁ、私としては言わないつもりだが……もう遅いみたいだぞ?」
「は?」
静かにクロリアが向いたところに視線を転じれば、
「私も連れてけッ!」
勢いよく開かれた襖からサティが飛び込んできた。
「おい! サティ!!」
「私も連れてって!!」
紫炎が軽くクロリアを睨む。
いつも、サティが抱きついてくると真っ先に阻止するクロリアが機能しないからだ。
「わ、わかったから! 離せ!」
ようやく解放された紫炎は息を整える。
(これは、どうやっても無理そうだな)
あからさまにため息を吐き出し、紫炎は再度クロリアを睨む。
変えることのない態度を見て、サティを止める気はないらしい。
「どうなっても知らねぇぞ?」
「わかってるよ。でもピンチの時は守ってくれるんでしょ?」
コテンっと可愛らしく小首をかしげるサティ。
「まず、ピンチにならねぇ」
「それだったらいいね」
まためんどくさくなりそうだなぁと思いながら、紫炎は了承したのだった。




