58話 サティ争奪戦
今日、竜人の里は過去にないほどの盛り上がりを見せている。
原因は、竜人の里の族長であるクロリアの娘、サティの婚約者候補によるサティ争奪戦が始まろうとしていたからだ。
その候補には竜人の里ではまず知らな人は居ないであろうほどの強者ばかりが出場している中、一人異彩を放つ人物が居た。
真っ白な髪を靡かせ、魔王を継承した証である魔眼を煌めかせたケルベロスのロングコートを羽織った少年――紫炎である。
腰に差された一本の刀は歴戦の戦士たちが見ても圧倒される何かを放つ。
竜人たちが唾を飲み込みながら今か今かと待っていればクロリアのアナウンスが流れた。
「さて、今日は我が娘であるサティの婚約者を決める勝負に集まって下さりありがとうございます。内容は事前に伝えた通り、竜人対小ぞ――ゲフン、紫炎さんとの戦いです」
事前に伝えれば、竜人たちの反対もあったがクロリアが強く押したのと、当人がいいと言うので全員が納得済みだ。
「さて出場者たちの紹介をしましょう」
恐らく魔法であろうが、まるでスポットライトの如く照らされ屈強な男たちが見える。
「右から順に·····サティ親衛隊隊長――カイル!」
うぉぉぉッ! と歓声が鳴り響く。
竜人カイルと言えば、豪剣と知られ彼のパワーは竜人一と言われる。
「次は·····大魔法使い――トイ!」
これにも歓声が湧き上がる。
大魔法使いトイは、竜人の中で一番魔法に長けており、世界的にも有名な大魔法使いである。
「三人目は·····地割れのサン!」
これは男たちの歓声が強い。
地割れのサンは、その力も魅力的なのだが、性格が『漢』なのだ。それが男たちに人気な理由である。
「四人目は·····閃光のケイ!」
これは女性の歓声が多い。
閃光のケイは実力もさることながら、その容姿が女性人気を呼ぶ。閃光にも似た高速な剣使いと時たま見せるスマイルが女性受けするのだ。
「五人目は·····鉄壁のシロア!」
今までの歓声も凄かったが、シロアの歓声が一番多い。
鉄壁のシロアは、昔の大戦の際、竜人の里を守りきった英雄とまで言われ、その実力は竜人屈指である。
「さて、この五人と相対するは、我らが魔王、シルファー様の弟子――シエン!」
紫炎に対してはそこまで歓声は湧かなかった。まぁ当然と言えば当然の事に紫炎は別に目立ったことはしなかったが、クレン、ユグ、シル、サミリアの声援には苦笑した。
「では試合開始と行きましょう」
そして紫炎含む六人は静かにリングの上にへと登った。
リングは石製であり、観客席に被害が及ばないようにトイの弟子たちが結界魔法を張っている。
ちなみにサティはと言うとクロリアと共に高いところに設置された特別観客席にて戦いを観戦するつもりらしい。
服装はいつものスポーツ女子みたいなものでなく、ドレスとなっている。大方勝ったやつとそのまま婚約するためだろう。
全員が見守る中、遂にサティ争奪戦が始まった。
「では始め!」
クロリアの声と共にカイルとサンが飛び出してくる。
魔眼をこらすと付加されており、後方にはトイがいる。
恐らく·····いや間違いなくトイの仕業だろう。
「貰ったァ!」
カイルが攻める。恐らく勝利条件は紫炎を先に倒した者であろう。
カイルの笑みから容易に察することができた。
「馬鹿が」
そんなカイルに紫炎は特に焦る訳もなく、右手でカイルの顔面を掴み、側面から攻撃しようと拳を振り上げているサンに向かって投擲。
「「ぐはっ」」
二人して吐血しているので、まず二人脱落と言わんばかりに紫炎は闇を発動しようとしたが――
「させはしませんよ」
トイが魔法で紫炎に攻撃。
気を紛らわせるための陽動だろう。そこまで威力は無く、紫炎は魔法を中止してトイの魔法を迎撃した。
すると生じた煙の中からケイが飛び出してきた。
「チェックメイトだよ?」
ケイの言葉に竜人の女性たちがピンク色の歓声をあげる。
「イケメン死すべし!」
そんなケイに紫炎は一片の躊躇なく顔面に右ストレート。
フィギュアスケートのように回転しながらケイは場外へ吹き飛ばされた。
「ケイをよくも!」
サンが敵討ちと言わんばかりに攻めてくるが、余裕で避け金的。
「ぐほっ」
サンの鈍い声が無駄に響く。そのまま内股で紫炎の距離を取りながら離れていくサンを見て、竜人の男性たちは揃って息子を抑えた。
「<火竜>!!」
トイが悲痛な顔をしながら魔法を発動。
火属性の中級魔法である火竜を紫炎は『黒煉』で叩き切る。
「へっ!?」
「次はお前だ」
猛スピードで迫ってくる紫炎に斬られると瞬間的に悟ったのかトイは強化を腕に施しながら、両手で頭をガードするがもとより殺すつもりのない紫炎は膝蹴りでまたも金的。
そして男性がまたもや息子を抑え苦悶する。
「ウオぉぉおお!」
掛け声と共にカイルが攻めてくるが、一瞥するまでもなく後ろ蹴りで金的する。
こうして始まって数分で四人が脱落した。
「なぁシロアだっけか? お前は参戦しないのか?」
「ふふ、あの時から思っていたのよ。サティ様から気に入られるぐらいの力の強いやつだとな。だから俺はあえてまった。お前との一騎打ちをするために」
仁王立ちでリングの端に立っていたシロアは笑みを浮かべながらリングの中央に向かう。
「今、お前が倒した四人は若造どもよ。俺が真の強者であることを、お前やサティ様に見せつけようでは無いか」
そしてサティ争奪戦は後半戦にへと向かっていく。
名前の案を考えてくださった像菌様ありがとうございます。




