55話 竜人の里 2
紫炎が興味深そうに辺りを見渡す。
和をイメージした、和風の部屋で、床には畳が敷き詰められ、襖や、あんどんは日本の歴史を感じさせる。外のラブホとのギャップに目を白黒させる。
あれから、クロリアが殺気を放ちながらも、いやいや連れてきてくれたのだ。
ようやくついたのにも関わらず、未だ誰も口を開かない。紫炎側の女性陣はサティを注意深く見つめ、
サティはそれを柳に風と受け流し、クロリアはじっと笑っていない笑みを紫炎に向けている。
娘のために害虫を排除しようとするが、サティにとって紫炎は大切な人であると知っているのでやるせなく、せめてと圧をかけているのだろう。
だが、この静寂はクロリアが破った。
「小僧·····何しに来た?」
絶対に目を離さない。それには、負けじと目詰め返しながらもここに来た理由を話す。
「俺の連れが、王都クレファンスの兵に故郷を滅ぼされた。俺的に、最終的にはクレファンスの兵の改革、更にそれの原因究明を目標にしている」
復讐として国を滅ぼすのは簡単だ。しかし、それを成すと今後の獣人たちからの反感を買いかねない。
私欲のためにそこまでのことをすることは無いが、こちとら、可愛い、可愛いクレンちゃんが故郷を滅ぼされたのだ、ある程度の改革ぐらいは起こさせてもらおうという事だ。
「ほぉ、さすがと言えばさすがだな。あのシルファー様のお弟子さんというだけある。が」
娘を思う父の圧は消えた、私欲のために放った殺気も消えた。だか、別の紫炎を思っての圧が放たれる。
「お前にそれができるか?」
竜人の里、族長クロリアとしての圧がダイレクトに紫炎にへと届く。
口を開きかけた紫炎を制し、クロリアは話を続ける。
「お前はこの竜人の里をみて何を思った? やらしい里だと思ったか?」
「·····」
この沈黙を同意と察し、クロリアは更に続ける。
「これは悠久の時を生きる我らが、自らの生活を楽しくするために考えたのだ。元々、性欲が時と共に失われつつある我ら竜人にとって遊楽街とは新鮮で人生に色をつけるものだったのだ」
色を付けるのにラブホというのもなんだが、気にしないでおこう。
「では、何故人生が楽しくなかったのか·····それは、我らが獣人たちに敗北したからだよ」
息を飲む紫炎たち。シルファーと契約した種族として、それ相応の力を所持していると思っていた紫炎にとっては驚くべきことなのだ。
「確かに個人としての力は我らが勝っていた。終焉をシルファー様のおかげで勝ち残り、獣人の大陸を支配する種族を決めた時、我らは勝てると信じむかったが、多勢に無勢であったよ」
竜人は、エルフと同様に人里には訪れず、時の行く末を見守る種族として語られてきた。もちろん、その欲望の汚さもだからこそ、改革を起こそうと挑んだが、多勢に無勢。圧倒的な兵の数の違いに敗北した。
ただえさえ少ない種が、この戦で更に減少した。竜人の里がこのように変化したのは種の繁栄も理由としては含まれている。
「そんな奴らに改革を求めるため、竜人よりも少人数である君らが勝てると思うかい? 聞けば、その獣人の子の復讐の手伝いか·····。己の欲求と仲間の命、秤にかけるまでもないだろう?」
そして、言外にそのようことをするのはやめろと訴えるクロリア。
それを正面から受け取った紫炎は長考の末、決める。
「うん·····俺は意見を変えないや」
次回は週末の土日のどっちかです。




