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46話 王国最大の悲劇



「<魔兵(ソルジャー)>とは大戦の時代、神界軍が<憑依(ポゼッション)>を使用し、人の身に憑依した兵士です」


テスタは、全員が心配になるほどその身を震わせ、焦点の合わない瞳を何とか紫炎の元へ向け、ポツリポツリと話し始める。


「<魔兵(ソルジャー)>に変化したのは、人界軍として敵兵と雄々しく戦い、何より人界軍の為にとその身を戦いですり減らし、誰からも頼れる”お父さん”見たいな人でした·····」


かつて、人界軍にとって多大な貢献をし、その身がある意味一種の最強兵器なのでは無いかと謳われる程の実力を持った男ーナッツオが居た。


ナッツオは奴隷の身でありながら、その絶大なる力は、勇者 セツと渡り合う程だと語られる。


「ナッツオさんは、私たちのクランを時には支え、そして共に戦い、私達にとっても重要で何より友人でした」


そして、一層震えが強まり、呼吸が激しくなる。


「ですが、突然として変貌してしまいました。白かった肌は、どす黒く変わり、その額からは紫色の輝きを放つ邪悪な角が生え、背中からは、濃密な魔素が放出され、それは翼の様な形状を保っていました」


今、テスタが言ったナッツオの特徴。全てがアレと一致する。あの時、叫び声を上げ、今は翼で身を包みながら、眠りこけているような感じで丸くなっているゼロと、


その隙にと、勇者組が攻撃を与えるが全くと言っていい程傷がつかない。恐らく纏っている魔素が障壁の役目を果たし、それで身を護っているのだ。


そんなゼロを尻目に紫炎はテスタの方を向く、


「それで? そのナッツオの実力はどんな感じだった?」


今この場ではそのセリフは、いささか問題かと思われるが、正直、実力さえ知れれば何とかなるのだ。今までがそうだった様に·····。


「剣一振で、人界軍の精鋭兵千人を戦闘不能に、長い戦いの末、セツさんが何とか勝利した程です」


その言葉に紫炎達を除く、全員が戦慄した。勇者組は知識として前の勇者であったセツの偉業は何度も聞かされたのだ。そしてその強さも。


「それ程なんて·····俺らが勝てる訳·····」


「悟君·····」


そう口にしたのは、悟だ。いつの間にかウンディーネが傍により、背中を擦り落ち着かせている。


「無理·····」


千歌までもが、その場にペタンと尻をつき、絶望に顔を暗くしている。長い前髪により、目元が見えないが、その瞳は輝きを失っている。


見れば、光も震えており、姫、萌衣などは両手で顔を隠し、現実を見ないようにしている。それ程テスタの言った情報は、この場にいる人達の戦意を喪失させるには充分過ぎる程だったのだ。


だが、それが何だと。言い切り、前へ進む者もいる。言わずもがな紫炎である。


「だから?」


紫炎が、本気で首を傾げ疑問符を浮かべる。そのあんまりな態度に、姫が怒りをぶつける。


「だからって·····あんたふざけてんの!?」


その顔は悲壮に包み込まれており、顔面を蒼白へと変化させていた。足元は恐怖で震え上がり、何とか萌衣と共に立っているようなところだ。


だが、それはしょうがないと言えばしょうがないのだ。実際争いとは程遠い世界でぬくぬくと生きてきた高校生である彼らにとって、絶対的強者とも言えるセツという勇者がそこまで手こずった相手なんて今の自分が勝てる訳ないと、必然と思ってしまう。


でも、紫炎は柳に風、そんな姫の叫びを聞いても顔色変えず聞き返す。


「どこもふざけてないだろ?」


至って真顔、すぐ側に死の具現化した存在が今にも目覚めようとしているのにも関わらず、紫炎は動揺一つしていない。だが、それは、ユグとシル、黒煉やサミリアにとっても同じである。


だから彼女は、いや彼女達は思ってしまう。恐怖を、そしてこれが経験の差だと。自分達の決死の努力など紫炎にとっては当たり前の事だったのだと。少し目に光を取り戻した萌衣が確認の為に聞き出す。


「紫炎君。本当にアレと戦うの?」


震えながらが、しかししっかりとゼロを指さしながら。だが、そんな問いに、今更震え上がる紫炎では無い。


「もちろんだ」


そして、紫炎はテスタの元へと歩み寄りそっと頭に手を置く。


「お前が辛いのは分かる。だからそこで待ってろ。お前の恐怖の種を俺が摘み取ってやる」


今なお放たれるゼロの強烈な威圧感に、その白髪をなびかせ、鋭い目付きでだが、安心感を与えるその瞳で、しっかりとテスタの心に届く言葉を、紫炎は不敵な笑みを浮かべ、断言する。


「俺がゼロを倒す」


それが、テスタの心に火をつける。震えていた足は徐々に安定感を取り戻し、目に光が戻る。頬を無意識のうちに紅潮させ、こくんと頷く。それを合図に紫炎が、配下を連れ進みでる。


「黒煉、サミリア、ユグ、シル、ルファー。そしてクレン。行くぞ」


「「「「「「はい(なの)」」」」」」


今ここに、魔王が、後に王国最大の悲劇と言われるこの事件に立ち向かう。

誤字脱字、日本語の不自然な部分があればご報告下さい。

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