43話 S級試験 中編
すみません。後編では無く中編です。
「「「「「「ウォォォォー」」」」」」
「さぁ、皆さん。盛り上がってきましたァー! なんと、クレンさんがムート様の左腕を斬ってしまったー。でも皆さん。安心してください。どのような重症でもウチの救急班が治します」
「「「「「「ウォォォォー」」」」」」
客の盛り上がりは絶頂を迎え、ほとんどの人が叫び。それぞれ反応を示す。
「あのムート様の左腕を·····」「あの嬢ちゃん。凄いなぁ」「いやいや、シツって奴も中々·····」などなど色々な声が上がる。
「ふふっ。凄い盛り上がりだね」
そんな中、褐色肌の少年が無邪気な笑みを紫炎達に向けながら言う。
「そう言えば、お前の名前聞いてなかったな」
そんな少年に闇属性魔法<影月>を無詠唱で繰り出す紫炎が、名を聞く。
<影月>影が三日月の様な形で相手を襲う。イメージはブーメラン。それを、無数に繰り出し、戻してはムートへ、戻しては少年へと放つ。
「言ってなかったけ? まぁ良いかな。うん。楽しい時間をくれてるし、特別に教える。と言っても試験番号何だけどね。僕の名前はゼロ。ゼロだよ」
ゼロと名乗った褐色肌の少年は、紫炎の<影月>を紙一重で避けながら、今度は紫炎達に名を聞く。
「俺の名前はシツ。弟子はクレンだ」
「ふふっ。シツさんに、クレンちゃんかァ〜」
両手でその顔を隠しながら笑い、その名を胸に刻むように復唱する。
「えいッ!」
そんなゼロに『ヴァレンシュタン』で切りつけに行くクレン。見ればムートは左腕を斬られた痛みでその場で固まっている。
「凄い力強い一撃だね」
クレンの斬撃を後ろに目があるのか、またもや紙一重で避ける。
「でも、奇襲をかけるなら、黙ってやった方が良いかなぁ〜」
先程のまでの虚ろな目は薄れ、その瞳には光が入っている。その口元は笑みがこぼれている。
そんな少年が急に頭を左へ傾ける。
「シツさんの速さで無言で殴るのはダメだって」
先程言った黙って奇襲を行うという事をまんましてやった紫炎もいつの間にかその口元には笑みが浮かんでいる。
「そんな拳をお前は避けるんだからな。ったくステータスという概念がお前には無いのか?」
あの馬鹿げた速さと攻撃力を誇る紫炎の拳を簡単に避けてみせるのだから、ゼロのステータスは計り知れない。
「半分せいかぁーい。『魔人化』した僕にまんまりステータスは関係無いよ。何故なら魔素そのものだから」
『魔素そのもの』という言葉はそのまんまである。魔物の遺伝子と結合している彼にとって、ステータスという概念は必要ない。何故なら進化して得たステータスの意味を失っているから·····。
魔物に対抗する為のステータス。魔物と同化したようなゼロには必要無い。魔素の毒素にやられる事は無くレベルもステータスも全てがゼロには不必要なのだ。
それは神族と似た体質である。たまに出てくるこの神族だが、その名の通り神の一族だ。だが、神の一族であって神では無い。
絶対神なるは創造神であり、その後に出現されたとされる神はその神の子でしかない。そんな神の1柱が人間を家族として信教させたのだ。
それが神族のルーツであり、大戦の時代、人界軍の天敵であった一族だ。なので、神族は、神では無いがそれに近い人間という事になる。
だが、その力は絶大である。神に忠誠を誓った12人からなるその一族は、忠誠の変わりに力を手にした。それは魔素との融合からなる完全体への進化である。
それは、魔人と酷似しているが実力は魔人の比では無い。
その名は『魔神』ー神の加護を獲た魔人ーそれを、総称して『魔神』である。
魔人と魔神。似て非なるものである2つの存在。この話を聞いて察する人は察するだろう。あの大臣がやって見せたことそれは神族では無く、人の身で魔神に限りなく近い新しい存在を創り出したのだ。
魔人とはー魔物と化した人間ーを総称している。魔物とは、魔素で1から製作されている人工物である。太古の昔、男が作り出した魔物がルーツとして当時生まれた魔物が作り出した人工物。
ややこしいが、要は魔素の体を持つ人工物である。それが魔物前提条件である。そしてゼロは、魔物の遺伝子をその体に組み込まれた人間。魔物と化した人間なのだ。
原理上は神の加護が無いだけで魔神に限りなく近いナニカなのだ。
「でも、僕にも称号や職業はある。ステータスの数値が無いだけで神には認められているんだよ」
称号は神に認められた者に贈られるものである。この話が事実なら彼は神に認められたそれも、創造神に認められた魔神という事になる。それは神族と匹敵する存在だという事の証明。
「なるほどね。でもお前手加減してるだろ?」
「シツさんこそ、相手が手加減しているのに僕も本気を出す訳にもいかないからね」
どうやら、紫炎の制限にも気づいたようだ。
「まぁ、シツさんも十分いやと言うか、僕みたいな奴じゃないのに、その力はもう完全にアウトでしょ」
紫炎の手加減にも気づいたゼロは声のトーンを落とし紫炎への感想を言う。そして、一転しクレンに向かい、求婚をする
「クレンちゃんも、僕と結婚して欲しいぐらいだよ」
「うへっ!?」
先程から『ヴァレンシュタン』で切りつけ、だが、紙一重で避けられ、息が上がっているクレンが奇怪な声を上げる。
「·····残念ながらダメだ。お前じゃあ任せられない」
「ふふっ。どうすれば認めてくれる? お義父さん?」
紫炎がかぶりを振って否定するが、何やらゼロにとっては本気のようで諦めてはいない。
「僕と結婚できる女の子なんていないと思ったけど案外いるもんだね。ほらあそこの人達も」
そしてゼロは顔をルファー達に向ける。
「はーれむ? ってやつでも作ろうかな」
無邪気な笑みを浮かべ、でもどこか本気を思わせる瞳で紫炎に向き直る。
「じゃあ、俺を倒してからでも口説きに行けよッ! <制御解除>」
直後、濃密な力の渦が闘技場を埋め尽くす。先程まで熱血な歓声を上げていた観客はいつの間にか押し黙り、蒼白な顔で試験を観戦している。
「ハハハッ、嘘でしょ!? それが本気? シツさん」
「あぁ」
その白髪が揺らめき、瞳は爛々と輝く。ケルベロスのロングコートは風がないのにも関わらずはためく。
放たれるそれは、ゼロが見せた殺気よりも濃密だが、それには一切殺意が無く、ただ単に純粋なる力が具現化している。
そして腰に差し、今まで1回も抜かなかった魔剣『黒煉』を抜き、紫炎は本気度を示す。
『ようやく私の出番ですね?』
「あぁ、よろしく頼む『黒煉』」
そんな紫炎に冷や汗を流しながら見つめるゼロ。
「その剣怪しいと思ったら、やっぱり魔剣だったかぁ〜」
「そうだ。俺の自慢の愛剣だ。受け止めきれるか?」
「さすがに素手じゃ無理だね<武具顕現>」
そして、魔法陣が描かれ、そこから穢れひとつない純白な大剣が顕現される。その剣から放たれる猛烈なるプレッシャーはサミリアに迫るほどだ。
見れば、クレンは倒れ込み、ムートなんかはその絶大なる力に気遅れ、尻もちをつき、顎をカクカクと激しく動かしている。
紫炎はゼロとやり合う前に、クレンの元へ向かい、言葉を口にする。
「クレン。俺これからあのふざけた奴ぶっ飛ばしてくるから、危険だしここから出るなよ?」
そう言って、<聖武具>をかけた後、<魔素障壁>を何重にもかけ箱型のシールドを造る。
<魔素障壁>は名の通り、魔素で創り出す障壁だ。属性区部は無く、込めた魔力量が多ければ多い程絶大なる強度を保つ。
「ふふっ。準備は良い?」
「焦るなよ。俺はまだ勢力を揃えてないぜ?」
そうして描くは契約魔法陣。そこから出現する2つの人影、精霊王、ユグとシルである。
「楽しい対決が久々に出来るの♪」
「ふふっ、私達を呼ぶなんて勝つ気満々じゃない?」
「当たり前だろ? その為にも力を貸してくれッ!」
その紫炎の言葉に「「もちろん」」と声を揃え、返事をするユグとシル。
「ハハハッ、まさか精霊王と契約しているなんて本当に何者なのかな?」
「自分でも疑わしいけどな。まぁ負ける気はサラサラない本気で挑もうじゃないか」
いつの間にか、弟子同士の対決が、ゼロと紫炎の対決になってしまったが、ここから両者本気の戦いが幕を開けたのであった。
神族と魔人、そして魔神についての説明を入れましたが理解出来たでしょうか? 魔素や魔法等の理論と言うか原理の時もレベルやステータスの出来方も1から考え、この小説に書いているのですが如何せん伝わっているか不安になります。
誤字脱字、日本語の不自然な部分があればご報告下さい。




