37話 追跡者
『○○。そして·····』と言うサブタイの付け方を最近していないなぁと思いますが別にいいですよね!?
あれから1夜明け、紫炎は1人で、王都を歩いている。いや『黒煉』を装備しているので実際は1人では無いのだが、
今日は、ユグとシル、そしてクレンはルファーと共にクエストに出かけている。と言うのも、昨日の買い物で無くなった金を稼ぎに行ったのだ。
まぁ、何かあれば<通信>される予定である。
何気にこうして『黒煉』と2人で行動するのは『終焉ノ迷宮』以来なので、何処か懐かしさを感じる。が、今はそれ所ではなく、
「なぁ、黒煉俺らつけられてないか?」
そう、宿を出てからというもの何処か視線を感じるのだ。それは『黒煉』も分かっているようで、
『そうですね、誘き出しましょうか?』
「そうだな、あの曲がり角を曲がったら擬人化してくれ、無力化して聞き出すぞ」
『かしこまりました』
1つ先の曲がり角を紫炎は、高速で曲がる。その事に驚いた追跡者は、「あ·····」とすぐさま追いかける。
「ぐぁッ! 何!?」
が、当然、曲がれば擬人化した黒煉に手を後ろに回され、無力化される。紫炎はフードを深く被ったその追跡者に近づき、フードを取る。
「はぁ? 何でお前がここに居るんだ?」
そして、目の前に居たのはシリスであった。当然、この場に居るはずの無い第2王女だ。紫炎は驚きを隠せない。黒煉も少し驚いている。
「ッ! なんで分かった」
「そりゃあ、あんだけ気配を感じたら気づくだろ。というかなんで王女様が俺を付け回してんだ?」
正直、シリスの気配がどうとかそんなのは関係ない。何故、シリスが紫炎を付け回していたかだ。
「そ、それは」
そう言って周りを見るシリス。どうやら外では言えない事情ならしい。とりあえず、宿まで連れてくかと紫炎が先導しシリスと共に宿へと向かう。
黒煉が手を後ろにずっと持っているというのもなんなので、しょうがないと紫炎がシリスの手を引くと言う形になった。
当然、王女であるシリスが殿方つまり男に肌を触られると言うのは身内以外には無く。少し頬を紅く染めている。
その様子も相まって、最近何かと冒険者内で噂になっているハーレム野郎がまた新しい女を連れていくと言う変な誤解が増えたのは紫炎には知る由もない。
そんな事もあったが、無事?宿に辿り着いた紫炎。ちなみに、王女とバレないように少し顔に細工をしている。光属性魔法<整形>と言う魔法を使っている。
だが、当然実際に整形をしている訳では無い。簡単に説明すると、人が他人を視認するには光の屈折が必要不可欠である。それで光の屈折を変え、他人の目に入るシリスの顔は全く別人になるという事である。
分かりづらいと思うが、まぁそれは中学の理科を思い返してみてくれ、光の単元で書いてあると思うから·····。話を戻すが、とりあえず紫炎は、それを利用したと思ってくれればいい。
フードを被ってもらうのでも良かったが万が一と言う事もある念には念をだ。
「ここなら、大丈夫だろとりあえず説明を求めたいのだが」
「分かった。順番に説明する」
宿に着き、部屋に入るなりまたもや黒煉が高速で動き、シリスの動きを封じた上で紫炎が問う。
さすがにこの状態では何も出来ないと判断したのかシリスは大人しく話し始めた。
「まず最初に私は、王女じゃない」
おっと最初からぶっ込んで来ました。まぁ正直これは紫炎にとって差ほど驚くことでは無い。テレスとシリスの髪の色、そしてグレスの色を見ると誰でも分かるだろう。
その瞳からも、何処か異質なものを感じる。ユグやシルのような燃えるような赤とは違い、赤と黒が入り交じったようなそんな瞳。
その事も踏まえるとこの告白はそこまで驚くことでは無いと言う事だ。
「まぁ、見てわかるからな。それで?」
「私は最初奴隷に堕ちかかっていた所をテレスに救われて、それから妹という体で王城に匿わせてもらったの」
「何故奴隷に堕ちかかったんだ?」
「·····」
「すまん配慮が足りなかった」
「いえ、大丈夫」
さすがに奴隷に堕ちかかっていた理由までは、話してくれなかったが、それからの事は少しずつ話してくれた。
「そして王城に入ってから気づいた。その異質さに」
シリスが気づいた異質。と言うのは大臣の事であった。曰く、大臣の行いを全て正しいと皆が思っているとのことだ。
「異世界からあなた達を召喚したにしろ、魔王のルファーが王城を攻めたにしろおかしな所がたくさんあった。だけど、私だけじゃ何も出来なかった。王城の皆は大臣が正しいと思っている。そんな中1人でその事を否定しても誰も助けてくれない。だから私と一緒にこの事変を解決してくれる人を探したの」
それで見つけたのが紫炎であったという。だが、シリスが見た紫炎はあの紫炎だ。ステータスが全てにおいて平均以下の紫炎。それのどこに見込みがあったのだろうかと紫炎は首を傾げる。
「あなたのステータスは、確かにおかしかった。あるはずの種族欄。そして異世界人にもかかわらずそのステータスの低さ。だけどだからこそ、そんなおかしな人だからこそこの事変を解決出来るのではないかって」
何気に失礼な物言いだが、まぁ言いたいことは分かる。目には目を歯には歯を、そしておかしな事にはおかしな人をだ。
「そして、早速あなたと接触しようとしたけど無理だった」
そう、紫炎は直ぐに転移をされた。全てが正しいと思っている国王グレスは、大臣の言うことを真に受け、転移を許し、終焉の森へと転移されたのだ。
「そして、勇者達が大臣にどこに飛ばしたのと言う質問に『終焉の森』と答えた時、さすがに耳を疑った。それから急いで助けに行かなきゃと思ったけど、魔王シルファーの事を思い出したから、助けには行かず、クイシーの街に行くことにした」
魔王ルファーの事を知っているのは分かるが、何故シルファーまでもが魔王だとこいつは知っているんだ? この疑問が紫炎の脳裏に過ぎった。そして紫炎はある仮説が頭に浮かぶ。
(大戦の時代を生きた人間はテスタ以外居ないはず。と言う事は人間じゃないのか?)
だが、それが事実となると、相手はどんな種族なのだと言う新しい疑問が生まれる。だが、それが考え終わる前にシリスは話を進める。
「あなた、クイシーの街だ1回会った、ねぇシツさん。エレンと言う女性に会ったよね?」
頭の収集がつかない。確かエレンはクイシーの街のギルドに着く1か月前に雇われていたはずだ。オトルがそう言っていたのを紫炎は覚えている。
「どうやって? と言う顔をしてる。あなただって今日使ったはず <整形>あれは便利」
魔法をまさか使われていたとは思わなかった紫炎。まぁ驚くのはおかしくは無い。何故なら紫炎は自分の魔力量以下の魔力は全て検知出来るからだ。
だが、そこまでこれは驚くことでは無い。魔力量は少なからず誰にでも存在している。それは生物が生きる上で必要であったからだ。そして魔力量にある魔力を使用して魔法は行われる。その魔法に使われた魔力が自分の魔力量よりも下なら検知出来るが、上なら検知は出来ない。
分かりやすく言うと、自分よりも小さいものは見れるが、自分よりも大きいものの全体像は見れないだろう。それと同じである。
そして驚くべきことはここである。ステータスが人外いや規格外レベルの紫炎の魔力量よりも、更に高いという点だ。紫炎にここまで手を引かれて連れてこられた辺り、力は紫炎程では無いが、魔力量だけなら紫炎以上という事である。
「お前、ステータスどうなっているんだ?」
だからこそ紫炎は種族がどうとか忘れて、こんな質問をするのだ。
「ステータス? あぁ、何故か私の魔力量の欄だけ空白だった気が·····」
空白。つまり、測ることが出来ないという事だ。紫炎は全てが数値化出来ずに言葉で表現されている。だが、シリスの魔力量だけは言葉ですら表現不可能と言う事だ。
それはもはや規格外と言うレベルじゃない。それこそ神族に匹敵するレベルである。
「とりあえず分かった。それで結局なんで俺を付け回したんだ? その王城の事変を解決させる為に俺が必要だったからか?」
今、シリスの異質さについて考えるべきではないと知ったのか、紫炎が話題を戻す。と言うか終わらせる。
「そう」
「そうか、まぁ大臣については俺は殺すつもりだ。それで周りの奴らも治るといいな」
「殺す? 本気?」
紫炎の殺すと言う言葉に反応したシリス。だが、紫炎の目は本気だ。そしてその目から伝わる本気度はシリスにも伝わった。
「そう、分かった。なら任せる。思ったより話が早くついて助かった。それじゃあ私そろそろ王城に戻らないと怪しまれるから·····」
そう言って後ろでずっとシリスの腕を掴んでいる黒煉をチラッと見る。どうやら解放して欲しいみたいだ。その意図が分かった紫炎。目配せで黒煉に解いてやれと伝える。
そして、フードを被り、扉を出て去っていくシリスを見ながら、紫炎は黒煉に尋ねる。
「どう思う? まず人間じゃないと見て間違いないようだけど·····」
「はい、私も聞いていましたが、ステータスが空白の種族なんて神族以外聞いた事がありません」
「だよな。とりあえず大臣は必ず殺す。だが、まずはS級が先だ。それでいいか?」
「私は、ずっとマスターについて行くと決めた身ですので、どのようなご決断をなされても私は付き合いますよ」
「ありがとうな」
そう言って、黒煉の頭に手を置き、その綺麗な黒髪を撫でながら笑顔を見せる紫炎であった。
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