31話 王国までの道のり
「そう言えば、イフリートどうしたよ?」
朝の1件が終わり、無事?全員を起こした紫炎は、溜息混じりにそんな言葉を口にする。
「え? イフリート、紫炎の所に行ったんじゃないのかい?」
その言葉に驚きの言葉を返した光。自分の主に何も言わずイフリートは何処に言ったのだろうか?その問いに対する答えはウンディーネが知っていた。
「イフリートなら、急用が出来て今は一足先に王国に居ますわよ」
ウンディーネが言うイフリートの用とは何なのか皆目見当もつかない紫炎は、しょうがねぇとばかりにクイシーの街を出発する。
S級試験は1か月後に控えている。王国まで時間が少しかかるので早めに出ようとしてたのだ。
「クレン調子はどうだ?」
「凄く良いよ」
行きはオトルに馬車を用意して貰い、数十分進んだ頃に紫炎がクレンに調子を聞き出す。正直まだ試験は先なのだが、話す話題が無くそんな事を聞くしかなかったのだ。
何故なら、今、クレン以外の女性陣プラス勇者陣が王国まで競走を行なっているからである。
事の始まりは、姫の一言からであった。
「と言うか、馬車無くても紫炎達なら余裕で王国まで走れるんじゃないの?」
朝の1件もあるのか挑発気味にそんな事を口にする姫。当然、紫炎の実力をそこまで知らない、光と悟は驚き
「そうなのか、紫炎?君はどこまで強くなっているんだ!? だが、まぁ君がそこまで出来るのなら僕はそれを超えていくよ」
「光。お前だけカッコイイ姿を見せねぇぞ、聞けばこの女性陣はまだ紫炎の彼女じゃない。なら俺の実力を見せる時だな」
そんな事を口にするのだ。馬鹿なのか?とツッコミたくなるがあいにく2人は頭は良いのだ。
精霊王を賭けた勝負を終えた頃から、光は紫炎に対抗心を燃やしており、悟は、どこかの梓人の様に女性陣達を惚れさせようと実力を見せたがっている。
「きゃー、悟君。頑張って〜」
彼女であるウンディーネがこの調子じゃあ止める人は居ないらしい。
「私達、今まで余りセリフも見せ場も無かったし、紫炎君に私達の実力を見てもらおうよ千歌!」
「うん、見せる」
セリフが再会してから色々と出番が少なかった2人も乗り気になり、
「じゃあ、私も走るわ。勘違いしないでよね紫炎に見せる為じゃないんだからッ!」
発案者である姫も2人に負けじと準備運動をし始める。
「はぁ? 俺とクレンは走らないからな!?」
「は? 何でよ」
「クレンは、試験に出てもらうし、俺は馬車を借りちまったからな使わなくちゃ申し訳ねぇだろ?」
そんなハイテンションな彼らについていけない紫炎は早々と勝負を降り、
「マスター、私達はどうすれば?」
同じくついていけない黒煉達は、一応念の為に護衛について貰い。
「じゃあ、よーいドンッ!」
競走が始まったのだ。
あれから数十分間、黙りだったので、さすがに会話はしようと話題を探したのだが、S級試験の話しか出なくて、しかも、一言二言で終わってしまった。
(何か話題って無いのか?クソッ!こうなるなら誰か1人ぐらい残せば良かった)
変わらない景色の中、紫炎が葛藤を繰り広げていると、クレンがふと言葉を漏らす。
「ねぇ、シエン様。私、この試験が終わったらどうなるの?」
漏らした声は、不安そうな声。クレンを買った理由が弟子なのだから、試験が終わった段階でその役目は終わる。この世界の一般常識からすれば用無しは売られるのが当たり前なのであるからしてクレンの不安が増す。
しかも、忌み子と言う理由もない今では、高値で売れる。用無しに割く時間も、食費もないと豪語する世間では売るのがベターである。
実際、紫炎が国外追放されたのは、用無しと戦力外と判断されたからである。そんな不安めいた問いに、紫炎は困った奴を見る目で、
「なんだ? 俺達に付いてこないのか? もしかしてラヴァンに戻りたいのか?」
ラヴァン、獣人国の名前である。クレンは、ラヴァンの王国であるクレファンスの兵に両親を殺されている。復讐を果たしたいと言う思いがあるのかと紫炎は質問で返した。
「いや戻りたいけど、私が試験を勝てば、シエン様はS級冒険者だよね? という事は私は用無しになる。だから私を売るのかと思って·····」
俯き、暗い顔でクレンは、ポツポツと語る。語尾は既に力が無く、前髪で隠れたその瞳からは薄い涙が目尻に浮かんでいる。そんなクレンに紫炎は、
「売らねぇよ」
ただ一言。その言葉に、ばっと顔を上げ、目を丸くして紫炎を見つめるクレン。そんな彼女の様子に気づかず紫炎は話を続ける。
「と言うか俺がお前を売るとでも思ったのか? 心外だな。この世界の常識はどうなのか分からないが、少なくとも俺は見捨てねぇよ。だから安心しな」
そう言って、クレンの頭をくしゃくしゃに撫で回す紫炎。そして笑顔を向け、最後の言葉を口にする。
「それと、獣人国は少なからず行く。その時まで待ってくれよ。お前の両親の仇手伝ってやるからよ」
決め手であった。今まで呆けていたクレンの顔は、クシャりと崩れ、その瞳から涙が溢れる。呪いを解いた時よりも大声で泣き叫ぶ。
「おい!? 大丈夫か?」
慌てふためく紫炎は、とりあえずその少女の体を抱き、背中を優しくさする。
腰に差した2つの恐ろしい細剣『ヴァレンシュタン』の持ち主で、そのステータスは紫炎に迫る程の脳筋に育ったとしても、
たかが11の少女である。そんな少女は、両親を奪われ、仇を取ろうとも取れなく、終いには呪いがかかり、心を許せる人なんて誰も居なかった。今まで我慢してきた事があったのだろう。隠してきた事があったのだろう。
そんな彼女が主の存在を確かめる為にその両手を紫炎の後ろに回す。そして力強く抱きしめ、嗚咽を漏らす。
「安心したか?」
嗚咽が、涙が収まっていく。目元は赤く充血し、が、まだ力強く主を抱きしめるクレンに紫炎は聞く。
「ありがとう、シエン様。でももう少しだけこのままで居させて」
不安な要素も無くなり、自分の復讐にも手を貸してくれると約束してくれたが、駄々をこねる子供の様に、もしくは小悪魔の様にクレンは甘えた声で紫炎の耳元で囁く。
「·····ったく。良いぜ。好きなだけしな」
その言葉に一層力を増し、抱き締めるクレン。
「お兄ちゃん。私達の事忘れてるの?」
「ったく、本当に馬鹿ね」
すっかり忘れ去られた精霊王。実は、最初からこの馬車に乗っていたりするのだが、皆、競争に出発したと勘違いした紫炎は、そんな2人には気づいてなかった。
「2人共居たのか? てっきり競争に参加したのかと·····すまん」
「ん、別にいいよ。でも私もギューってしてねなの」
「ッ!私にもしなさい! それで許して上げるわ」
「では、ユグ様とシル様もどうぞ、ずっと可哀想だったから」
どうやら最初から2人の存在に気づいていたクレンは、名残惜しそうに、少し場所を空け、そこにシルが入り、ユグは出遅れてしまって紫炎に抱きつけなくて悲しんでいたのでそっと手で抱き寄せ頭を撫でる。
速攻で、幼女ハーレムを築いた紫炎は、馬車を王国に向けて走らせたのであった。
ようやく第二章の王国編の舞台である王国、クーヴァ王国に向け出発しました。本当は盗賊とかを登場させようとしましたが、クレンの回にしました。最近幼女成分が高いので、次は、別の成分をぶち込もうかと思っております。
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