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2話 ステータス確認




「ステータス」


 その言葉と共に、紫炎の目の前には数値の描かれた薄い板状の物体が出現した。



黒井 紫炎 16歳

職業 勇者?

称号 転移者

レベル 1

攻撃 100

防御 100

抵抗 100

魔攻力 100

魔力量 100


 内容的にそれがステータスであることを理解し、テレスの言葉に耳を傾ける。


「この世界の平均は500です。勇者様達は、異世界人ですので、平均のステータスの二倍ぐらいあります。自信を持ってください貴方様たちはこの世界で最強を狙えるぐらい強いのです」


 テレスの説明を聞いた紫炎は違和感に気づいた。


(どういうことだぁぁああ! 強いんじゃないの!? 数値がオール100って最早、一周まわって偉業じゃね? しかも、勇者に疑問形がつくんじゃねぇよ! もっと自信もてや!)


 そんな紫炎の嘆きとは裏腹に、光の方が騒がしくなる。視線を飛ばせば、大臣やら兵士やらで囲まれている光を見つけた。


「おぉ! 勇者の職業にこのステータスは、まさに、最強と言っても過言ではないですぞ」


 どうやら世界が求めていたのは光の方だったらしい。大臣の言葉とそのステータスがその証拠である。


四島 光 16歳

種族 人間

職業 勇者

称号 転移者 天に愛されし者

レベル 1

攻撃 1000

防御 1000

抵抗 1000

魔攻力 1000

魔力量 1000


(おかしいだろうが! えっ? 勇者の後に疑問形は付き物だろ。ステータスもだよ! 俺の十倍はさすがにおかしすぎるだろ。えっ? 俺の事嫌いなんですか? 天は俺のこと嫌いなんですかって!)


 そんな紫炎に追い討ちをかけるかのように、次々に大臣の声が聞こえてきた。


「おぉー、今回の転移の結果は凄いです! これこそ神が我々にお与えになった慈悲というものなのでしょうッ!」


 大臣の狂気にも似た力説にグレスが頷く。だが、それもうなずける。それ程までに他の者もステータスが高いのだ。


中島 悟 16歳

種族 人間

職業 剣士

称号 転移者 剣豪

レベル1

攻撃 1000

防御 500

抵抗 600

魔攻力 500

魔力量 500


黒川 姫 16歳

種族 人間

職業 武闘家

称号 転移者 武の神に愛されし者

レベル1

攻撃 1000

防御 1000

抵抗 500

魔攻力 100

魔力量 100


雨宮 千歌 16歳

種族 人間

職業 回復士

称号 転移者 女神の加護

レベル1

攻撃 100

防御 500

抵抗 1000

魔攻力 500

魔力量 1000


白崎 萌衣 16歳

種族 人間

職業 魔法師

称号 転移者 魔法の天才

レベル1

攻撃 100

防御 600

抵抗 400

魔攻力 1000

魔力量 1000




(美形じゃないってだけでここまで変わってくるんですか!? 天に愛させるコツはやっぱ顔かよ、畜生!)


 紫炎は激しく落ち込んだ。ここでグレスが簡易的なステータスの説明をし始めた。


 曰く──


 攻撃とは、攻撃力を指し。


 防御とは、防御力を指す。


 抵抗とは、状態異常にかかりにくくなるための力を指す。


 魔攻力とは、魔法による攻撃力を示す。


 魔力量とは、魔力の量を示し、加えて魔力量とは才能であり例え、レベルアップしてもそれは変わらない。


 他にも、称号とは、神が認めた者に与える二つ名みたいなもので、中にはステータス補正をしてくれる効果をもつ称号もあったり、能力を与えるものもあるのだという。


 例を挙げるとこの『転移者』だが、異世界から召喚された者に与えられる称号で、効果は世界の言語への理解、そして喋ることである。


 グレスの説明の通りならば、紫炎は無能──最弱である事が伝わってくる。それは本人が一番理解しているらしく。


(やばいッ! 俺の無能さがえぐい。俺TUEEEEの欠片もないじゃねぇか!)


 紫炎が焦っていると、グレスがステータスの開示を迫ってきた。


「あとは、貴方だけだ。ステータスを見せてくれないか?」


(待って、待って、待って! 俺やばい!)


 冷や汗が頬を伝い、次第に呼吸が荒くなる。


「ちょっと、早くしてくれない? あんたをずっと待っているんだけど? ステータスの提示すら出来ないなんて、とんだ無能ね」


 姫の言葉がグサリと刺さる。


(クソっ、意を決して行くしかない!)


「こっ、これが、俺のステータスです」


 そして紫炎はスマホをスワイプするようにステータスをグレスの方へ向けた。


 各々が紫炎のステータスを見て、目を見開くがそんな中、悟が紫炎の肩を叩く。


「まぁ、これから強くなれば良いさ」


「まさか、本当に無能だなんて、つくづく呆れる男ね」


 悟に続いた姫の言葉はいつも通りの辛辣なものであるが、彼女も彼女で紫炎のことを想っての言葉である。


「さすがに酷すぎ。でも大丈夫」


 千歌の言葉は短いが故に気持ちは乗っている。


「大丈夫だよ、私が守るから」


 天使かと錯覚する程に可憐な笑顔を浮かべ、萌衣はファイトと拳を軽く握る。


「そうだ、気にしなくていい、僕らが守るよ」


 さすがと言うべきか。先程、酷く嫉妬していた紫炎とは違って、優しく光は紫炎を励ました。


(いつも通りだ。良かった·····)


 紫炎はもしかしたら心の底で不安を抱いていたかもしれない。いや、ステータスの低さで不安は元からあったが、そうではなく、幼馴染からの拒絶に紫炎は心底不安を抱いていたのだ。しかし、それも杞憂に終わり、紫炎がホッとしていると、またしても大臣が声をあげた。


「これはなんと酷いことか、他の方々がここまで神に愛されていると言うのに、この男のステータスは全く神に愛されていない。しかも、神聖なる『勇者』の称号に疑問符だと·····王よこの男は、この国から追い出すべきでございます」


(は?)


「さすがに大臣よ。それはいささか酷なものでは無いか」


 突然の大臣の申し出に紫炎のみならず、グレスもテレスもこの場にいる者たちが困惑した。しかし、そんな彼らに大臣は続け様に告げる。


「いえ、王よ。ここで迷っていてはダメでございます。その甘さが、後々我々の足を引っ張るのです」


「だが、それはあまりにも酷いでは·····」


「王よ決断下されッ! これから王は多大な人を犠牲にしてでも、魔王ルファーを倒さなければなりません。ですが、犠牲をそこまで甚大にしたくないのは私も同じでございます。ですので今のうちから、足でまといは即刻消去しなければならないのです」


「だがッ!」


 どことなく焦りを感じる大臣の言葉に、グレスは渋るが。


「何も殺すという訳ではございません。国から追い出すだけです。死にはしないでしょう」


 この一言に、グレスは納得した。いや、()()()()()()


「それもそうか。では大臣よ転移魔法を発動してくれるか?」


「了解しました」


 大臣はそのまま紫炎の元へ歩む。


「無能者よ、恨むのなら己のステータスの低さを恨みながら死ぬのだな」


 呆然としていた紫炎の耳元に、誰にも聞こえないよう大臣はそう呟いた。


「お前ッ!」


 カッと頭血が登り、紫炎は握り拳を作り、殴りかかろうとしたが、金縛りにあったかのように体が途端と動かなくなった。


「逃げようなんて思わないでください。大丈夫ですよ? ()()死にはしないでしょうから」


 大臣の下卑た笑みが紫炎を絶望のどん底にへとたたき落とした。


 それは、決して逃げられぬ絶望。自分のステータスではこの世界を生きられないという絶望。そして死ぬ事への絶望。その全てが紫炎を襲った。


 だが、それと同時に憎しみや怒りが心の底から湧き上がる。


「おい、クソ大臣! てめぇはこの手で絶対殺す。ステータスが低くても、足掻いて、足掻いて絶対にッ!」


 紫炎の心が黒く染まっていく。それは白紙にインクが広がっていくように、黒く、黒く。


 だが、そんな紫炎の叫びを何とも思わないのか、大臣は飄々と演技じみた言葉をペラペラと並べる。


「なんて野蛮なのでしょう。これは即刻追放しなければ·····」


 他の者から見れば、途端と豹変した紫炎に意識が向き、大臣のことを疑いもしない。


「一国の大臣にその言い草。お主の心はどうなっておるのだ」


 グレスの言葉が紫炎に更なる怒りを覚えさせた。


(ウザイ、何も知らないくせに·····)


 果てしない怒りが渦巻く。


「お前は、変わってしまったのか?」


 その言葉が先程の安心感を塗りつぶし、紫炎に更なる憎しみを覚えさせた。


 二人の問いが紫炎の心に負を生み出し、黒く染まった心に、果てしない怒りと憎しみで形成された巨大な闇が生まれた。


 今まで共にしてきた友が自分を信じてくれない。光は人が良すぎる。良くも悪くも良すぎるのだ。


 だからこそ大臣の言葉も、今までの紫炎もどちらも信じている。


 そして最終的に大臣の方を信じ、変わってしまった紫炎に質問したのだ『変わってしまったのか?』と。


(何で俺を信じない。大臣が俺に何かしたのだと疑わない。俺らの友情はそんなもんだったのか!)


 確かに紫炎は変わってしまった。しかしながら、それには理由があり、大臣が元凶である。何故その可能性を信じなかったのだ、と。紫炎は動かなくなった体を震わせた。


(なんで俺は責められる? 俺が何をした? ステータスが低かっただけじゃないか)


 おかしい。おかしいのだ。突然のグレスの変化もそれを不思議と思わないテレスも、紫炎の変化に大臣が関与しているという可能性を疑わなかった友人も。まるで紫炎を殺そうとばかりに事態が急変している。


 ステータスが低くてもサポート出来ることがあるかもしれないのに、食料が無駄だと言うのならその分働くというのに、その考えをせず。ただ、ただ紫炎を追放しようとする。


 だから紫炎はその理不尽さを恨んだ。


 そして紫炎の闇は心の底に根深く根付き、歪な形に変形した。


(称号 『絶望シタ者』、『理不尽ヲ恨ミシ者』を取得。それにより能力 『絶望』を取得)


(この声は何だ? 直接、俺の頭に·····)


 謎の声に疑問を浮かべながら、紫炎は発動された転移魔法によって王城から姿を消した。

誤字脱字、日本語の不自然な点があればご報告下さい。

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