19話 勇者サイド
勇者sideです。
久しぶりの三人称です。
時は三ヶ月前、紫炎が転移させられた時にまで遡る。
「本当に消えちゃった」
そう言って第一声をあげたのは千歌であった。それが静寂に包まれる玉座の間に響き渡る。何処と無く心ここに在らずという感じるのは誰にでも分かることである。
「彼を何処に飛ばしたのですか?」
そんな千歌を尻目に、冷静そうにだが、僅かな怒気を含めた声で光が大臣に問う。
「どこも何も終焉の森だよ」
「なんと!大臣よあの森に飛ばしたのか!?」
「王よ落ちついてくだされ」
「お主何故あのような森に·····」
大臣が言った『終焉の森』という言葉に驚きを隠せないグレス。そのことを不思議に思ったのか悟がグレスに聞く。
「終焉の森とはどのような場所なのですか?」
「終焉の森とは、かつて大戦の戦地で、並外れた力を持つ魔物の巣窟『終焉ノ迷宮』がある森だ」
そう言ってグレスは『終焉ノ迷宮』について語った。
曰く攻略不可能とまで言われているダンジョンだと。
曰く化け物の巣窟だと。
曰く誰も近づかない危険なダンジョンだと。
これを光を初めとする勇者組は息を飲むように聞いた。だが萌衣は落ち着きのない声で提案する。
「だったらすぐに助けに行かないと」
「ダメです」
そう言って萌依の提案を却下したのはテレスだ。
「あそこは、遊び半分で近づいては行けない」
次のそう口にしたのはシリスである。その声には真剣味も帯びており本気で萌衣の事を案じての事であろう。そして、冷静に事実を伝える。
「今の貴方達ではすぐに死んでしまうから」
「そんなの誰が決めたの!?」
当然、萌依は冷静では居られなかった。何故、そんな事を言われなければいけないのか、と萌衣には『終焉の森』の怖さを知らない。だからこそこの発言が出来るのだ。
「私だけでも紫炎君を助けに行く!」
「ダメだ!萌依落ち着け!」
そんな落ち着かない萌依を光が落ち着かせる。
「ありがとう光君。でも·····」
「わかっている。紫炎を必ず助けに行くだが、今の俺たちでは死ぬんだ」
「でもッ!」
「落ち着け! 萌依。だから強くなろう! みんなで! それでいいよな? みんなッ!」
そう言って光は他の人達に振り返る。
「最短で強くなろう。普通なら無理でも俺たちは勇者だ。友達一人守れずなんだと言うんだ」
「そうだな」
「任せなさい」
「任せて」
各々光の提案に賛成する。そして、最後の一人に向き直り今なお焦っている萌衣に聞く。
「それでいいな? 萌依」
「·····うん·····」
この時、そんな彼らを下卑た笑みを浮かべながら見る大臣を誰も見ていなかった。
そして、あれから三ヶ月経った。
「どうかな?、イフリート」
「なかなか良いでは無いか」
そう言って光の評価を述べるは、火の上級精霊イフリート。見た目は中年の男性で赤髪だ。つり上がっている瞳はこれまた燃えるような赤色である。
そして溢れ出る気迫は物凄いものだ。つい最近光が精霊魔法で呼び出した精霊である。そんな光の少し奥で悟が稽古をしている。
「これでどうだ!」
「素晴らしいわ、さすが私の悟君ね♪」
悟の相手をしているのは、水の上級精霊ウンディーネ。容姿は二十歳ぐらいの美女である。綺麗な透き通る青髪が美しい。こちらも最近呼び出した精霊である。
「ウンディーネのおかげだよ」
「あらっ! 嬉しいことを言ってくれる子ね」
ウンディーネより渡されるタオルで汗を拭う悟。そして自分の褒め言葉にウンディーネが頬を染める。二人の醸し出す雰囲気はリア充のそれである。
「千歌ちゃんお願い」
「任せて」
「千歌ぁーそっち終わったらこっちもお願い」
リア充の隣で会話しているのは、女子三人組だ。魔法師である萌依と武闘家である姫、そして回復士の千歌の三人。どうやら萌依と姫が模擬戦をしその手当を千歌がしているというところだ。
三ヶ月間、紫炎救助のために必死に力をつけていた五人はそれぞれ格段に強くなっていた。そんな彼らのステータスはこうだ。
四島 光 16歳
種族 人間
職業 勇者
称号 転移者 神に愛された者
レベル75
攻撃 350000
防御 98000
抵抗 1000
魔攻力 1000
魔力量 1000
中島 悟 16歳
種族 人間
職業 剣士
称号 転移者 剣豪
レベル70
攻撃 250000
防御 50000
抵抗 600
魔攻力 500
魔力量 500
黒川 姫 16歳
種族 人間
職業 武闘家
称号 転移者 武の神に愛された者
レベル 84
攻撃 560000
防御 550000
抵抗 500
魔攻力 100
魔力量 100
雨宮 千歌 16歳
種族 人間
職業 回復士
称号 転移者 女神の加護
レベル 84
攻撃 50000
防御 70000
抵抗 1000
魔攻力 7000
魔力量 1000
白崎 萌依 16歳
種族 人間
職業 魔法師
称号 転移者 魔法の天才
レベル 85
攻撃 50000
防御 75000
抵抗 400
魔攻力 850000
魔力量 1000
とここまで成長している。何気に女子三人組の成長が一番すごい。ちなみに疑問に思うだろう。この抵抗力、魔力量の変化の無さだが、これには理由があるのだ。
まず抵抗力をあげるには危険を侵さなければならないということだ。毒の抵抗力を上げたいなら毒を口に含ませる。麻痺なら麻痺をとそれぞれを体験しなければならない。
だからこそ、そんな危険を冒すのなら修行に当てるべきだと抵抗力をあげることを全員諦めたのだ。
それともう一つ魔力量に限っては才能である。これは周知の事実である。変わることは無い。一つの例外を除いて·····それは称号によるステータス補正だ。
称号によるステータス補正では魔力量も補正される。だが、そう言う称号は珍しい。当然、勇者達である光達ですら貰っていない。
「ではグレス様。急いで紫炎を助けに行ってきます」
「うむ、よろしく頼む」
「それと大臣様、もしも生きてたらあの条件呑んでもらいますからね?」
「わかっている。もし生きていたら王城に匿うという話は忘れていない」
そう大臣には納得してもらう為、光達は、こういう条件を出した。
もしも生きていたらそれを力と認め、王城に匿うことを受け入れるということだ。何故、このような条件を出したかと言うと、イフリートからの証言で紫炎が生きていると知っているからだ。
この条件はグレスはすぐに納得したが大臣は渋々この条件を受け入れたという所だ。その事で少し気になったのだろうか光が釘を刺しておく。
「では、勇者様達。魔王討伐の件もございます。出来れば一ヶ月以内で戻ってきてください」
そう言ってテレスが見送りに出る。不思議な事にシリスは見送りには来ていないようだ。まぁそれも気にすることでは無い、と光達が出発する。
「では行ってきます」
そう言って勇者一行は歩み出した終焉の森へと。
イフリートはユグとシルを呼び出す前に紫炎が失敗した精霊ということです。不安でしたので、ここで言っときます。