18話 最後の修行 後編
今回で修行が終わりです。
精霊王であるユグとシルと契約した紫炎は、早速、魔法を行使する。
今回使用する魔法は、闇属性最上級魔法<闇>である。
最初は、初級魔法にしようと考えたが、ユグが、精霊王に”不可能の三文字は無い”と言ったので最上級に決めたのだ。
何故最初は初級にした方が良いのかと言うと、イメージが上手く伝わらないからである。が、精霊王としてはそんなの関係ないみたいだ。
「<闇>」
一応、無詠唱だと失敗する可能性もあるので詠唱省略で魔法を行使する。
<闇>は名前の通り闇を意味するのだが、この闇、使い勝手が良い。防御に回すのもいいし、攻撃に回してもいい。全てはイメージ次第なのだ。
そして、今回使用するのは攻撃に回すバージョンだ。攻撃のバリエーションも豊富で、イメージ次第で最強にも最弱にもなる魔法、それ故の最上級と言ったところか
実際、非常にイメージがしにくい魔法なのだ。
これをユグとシル、そして紫炎がイメージを供給し合えるか一番の問題点なのだが果たして
そして<闇>が行使される。
今回イメージしたのは黒炎だ。広範囲に炎を出すイメージである。ドラ○エで言う火炎の息みたいなものだ。
瞬間、紫炎の手から物凄い勢いで黒炎が放たれる。それは、広範囲に真っ白な世界を焼き尽くさんと言わんばかりに
「凄い、なにこれ凄いよシエン!」
黒炎のあまりの凄さにサティが叫ぶ。見ると、シルファーも驚きを隠せない様子であった。
最初から、最上級魔法が精霊魔法で使えるとは思っていなかったのだろう。
そんな二人には悪いが、多分無詠唱でも行えると思う。理由としては、紫炎は今シルと手を繋いでいる。魔力をイメージとして体外に出すようにして、シルにイメージを送るのだ。
シルとユグは二人で一人である。という事は、二人の間で紫炎のイメージが供給されるのだ。
結果、魔法を行使するユグに紫炎のイメージが送られ最上級魔法が発動できたという事だ。精霊王様々である。
「すげぇな、精霊王って。いや、この場合ユグとシルが凄いのか?」
「ん♪ 私たちが凄いの」
「当たり前でしょ、こんなの朝飯前よ!」
ユグの口調が砕けている理由は、紫炎がお願いしたからだ。元々、見た目で舐められないようにと口調を変えていたらしく、
先程紫炎にバレたのでもう隠す理由がない。
どうせならいつもの口調が良いなとお願いしたらこんな口調になったのだ。
「本当に凄いよ、シエン。これじゃあ、私も負けていられないなぁ〜」
「まだまだお前に抜かれる訳にはいかねぇよサティ」
そんな紫炎達に近づいてくるサティと軽く会話するが、紫炎の頭は今後の予定でいっぱいだ。今の魔法。ユグとシルを逆にしたらどうなるか? 無詠唱は本当に出来るのか? それらを検証していく内に気づけば一ヶ月が経っていた。
「セイヤッ」
「以前より断然スピードが増してるな」
今は、日課のサティとの模擬戦をやっている。
前は風圧で首元が切れたが、多分今やったら、ざっくりいっちゃうんじゃないかとも思える。
(だが、やっぱりサティには勝ちをやらねぇ、いかに制約がかかっているとはいえ、こっちも男としては負けられねぇからな)
「ユグ、シル、来てくれ」
「任せなさい」
「任せてなの、お兄ちゃん」
「<束縛>」
ユグとシルを呼んで魔法<束縛>を発動する。<束縛>は、束縛系魔法、闇属性に属する魔法なのだが、<束縛>自体は各属性にある。
今回は闇属性と言う事だ。闇なら、相手を束縛するだけだが、これが火だったら火で相手を束縛させる。
「あっ、<束縛>はせこいよ、ズルだ!」
「いや、<束縛>も立派な魔法だッ!」
束縛を使ったことによりサティが講義の声をあげる。まぁ、身動きを取れなくする魔法なのでチートなのだが、紫炎の言う通り立派な魔法である。
こうして紫炎はサティを抱きかかえ勝負が終わった。
何故、抱きかかえるのかと言うと二年前、現実では二日前のあの対決の時抱かれたのを根に持って、『抱かれなければシエンよりも強いことが証明できるからっ!』と言う理由で勝負の勝ち負けはこれで決まるようになった。
なんともおかしな判定だが、
サティを抱っこできるのだから紫炎には実質メリットしかない。
(だけど、抱っこする度、顔を赤くしてるからあたり物凄く怒ってんだよなぁ。ハハッ凄く悲しい)
なので紫炎はすぐに降ろす。
すると毎回紫炎の胸をポカポカ殴ってくるので、余程屈辱的なことなのだろうと更に紫炎は勘違いする。
サティを降ろした瞬間、いつも通り紫炎にシルが抱きついてくる。そんなシルの頭を撫でながら、サティから負わされた精神的な傷を癒す。
「シルは可愛いな」
「ん。シル可愛いの」
「ユグもこっち来いよ。今回も助かったぜ、ありがとうな」
「ふんっ!精霊王は気安く、抱かせたりしないのよっ!」
そうユグは言いながらチラチラと紫炎に目線を向ける。どうにもユグは天邪鬼のようで自分がやって欲しい反対のことを言うのだ。
紫炎も、最初はめんどくさいなと思ったが、慣れれば可愛いものだ。シルを抱えながらユグの元へ行き、優しく抱きかかえ、耳元に労いの言葉を言う。
「さっさと降ろしなさいよ」
やはりユグは拒絶するが、その体は降ろさないでと物語っている。腕は紫炎の首元に巻き付け、頬は緩みきっているのだ。
”これを可愛いと言わずなんと言う!”
紫炎は、あの時厳ついおっさんの精霊と契約しなくて良かったと本気で思うのであった。
「ふんっ、まぁ私が可愛いからしょうがないわね。私達を戦いで使ったら毎回抱っこすることを許してあげるわ」
さりげなく自分の要望を紫炎の要望とすり替える辺り可愛さを感じる。
やはり”可愛いは正義”であった。
「お兄ちゃん頭撫でてなの」
シルもこんな可愛い事を言ってくるようになった。先程からサティの目線が痛いがしょうがない、所詮男とはこんなもんさ。
が、とりあえず、二人を降ろして、
「次は二人と戦いたいんだけどいいか?」
「ん。いいの」
「当たり前でしょ、今日こそぶっ飛ばしてやるんだから」
こうして次は精霊王との模擬戦に入る。
そして二人と戦う上で驚いたのが、ユグは魔法で、シルが大剣を武器に戦うことである。
最初見た時は、びっくりしたものだ。まぁすぐにこんな余裕が無くなってしまうのだが。
まず、ユグが身体能力強化をシルに<付加>して、シルが大剣を担ぎ紫炎に攻撃をかます。
「えい!」
その可愛い声とは裏腹に物凄く速い一撃が紫炎に向けて襲いかかる。これには流石に避け、すかさず<束縛>をかけるのだが、なかなかシルの動きを封じられない。
そしてシルにばかり目を向けると、ユグが魔法を放ってくる。
「喰らいなさい。<雪月花>」
そう言ってユグが、創造魔法<雪月花>を放ってくる。
雪月花とは三種の攻撃魔法が飛んでくるのだ。
雪をモチーフにした魔法<細雪>
月を模した剣の魔法<月影>
花びらを使う魔法<千本桜>
もちろん三つともユグの創造魔法である。
それをいっぺんに紫炎に叩き込むのだからこの状態だと危険である。
「<制御解除>」
瞬間、サミリアにも見せたあの強烈な力が湧き上がる。シルファー達にかけられたこの制約だが、任意で解除出来るのだ。
その状態で、ユグの後ろに回り抱きかかえ、その流れでシルが紫炎を見失っている隙に捕まえる。
「捕まえた」
「んー、やっぱりお兄ちゃんのその強さ反則なの」
「そうよっ、制御解除なんて使わないで戦いなさいよッ!」
「いや流石にそれは死んじゃうから」
流石に精霊王相手に手を抜いた状態で勝てるわけが無いそれだと100%負けるというか死ぬ。
「ボクも早くシエンに、制御解除使わせたいなぁ」
「お前にはまだまだ解放しねぇよ」
「むぅー、絶対解放させてやるんだからっ!」
こんな日常も終わりを告げる。最後の修行の三日目が終わったのだ。
この三年間で、精霊魔法の他にも色々な魔法を覚えた。しばらくは制御解除をしなくても十分戦える。
「じゃあ、シエン次は私の里に来てね。待ってくるから」
そう言ってサティは里に帰っていった。なんでも早く強くなった自分をクロリアに見せたいのだそうだ。
(旅のついで里に寄るのもいいかもしれないな)
ユグとシルは、このまま紫炎達の旅について行くらしい。精霊界はつまらないらしく、王の仕事もほとんど無いので紫炎に付いてきたいとの事だ。
こうして紫炎達は現実世界に戻ってきた。
「お帰りなさいませ、マスター。と言いたいのですが、その抱えているお二人は一体誰なんでしょうか?」
「御主人様お帰り。ん? その子たちだぁれ?」
「お帰りなさいシエンさん。あとその子たちは誰でしょうか? 是非詳しく話を聞きたいです」
「お帰り! セ·····シエン。後、聞きたいんだけどその子たち誰?」
黒煉、サミリア、テスタ、ルファーとそれぞれ見知った顔が紫炎達を出迎えた。
「こいつらは、俺の契約精霊で、名前は」
「ユグ、精霊王ユグよ!」
「ん、シル、精霊王シルなの」
お互いに自己紹介が済んだことでユグとシルを女性陣の所へ向かわせる。
紫炎は、シルファーに呼び出しを食らった。そして二人は、ユグ達の部屋から少し離れた所に行く。
「ようやく終わったな。これで多少は戦えるでは無いか?」
「そうだな、ありがとう。シルファーのおかげであいつらを守れそうだ」
そう言って、外の景色を見ながら、二人は会話を続ける。
「あの頃のお前は、あれ程雑魚かったのに、
今ではクロリアの娘を倒す程か·····感慨深いな」
「あいつじゃあ話にならねぇよ。が、成長スピードは早かった。あれなら直ぐにこの状態の俺を抜かされそうだ」
「ふっ、世界で3位の強さを誇るサティを雑魚呼ばわりか」
なんと、どうやらサティは世界で三位の実力だったとは。ちなみに異種族混合大会とやらの三位だったらしい。
「サティが、三位だったら俺は余裕で世界一位になれるぞ?」
「その通りだな、お前は多分だがこの世で一二位をを争うほどに強い」
「そうか」
「そうなのだ。そしてそんなお前に本当に最後の教えだ。魔王とは常に傲慢であれ、だが、傲慢になりすぎるな、いきすぎた傲慢は高慢となる」
「傲慢ね」
「そうだ。魔王とは常に相手よりも上ではならない。下に見られてならないのだ。だから常に傲慢であれ、だが、高慢にはなるなよ、高慢は自滅を招くからな」
「わかったよ」
「後、忘れてたがお前に名を授けなきゃな、お前の名、シツってどうだ? セツと言う勇者は、確かに我の知人であった。セツと言う謎を求めるのならばルファーの事も分かるだろう。そんなセツとシエンという名を文字っただけだが良い名だろう?」
「シツか、気に入ったよありがとうな」
本当の最後の教えを受けた所で、紫炎達は魔王城を去っていったのだった。
急スピードで、ヒロイン達が増えていく、もう少し溜めた方が良かったでしょうか?まぁ今頃考えた所で後の祭りですが·····
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