1話 異世界転移
初めての投稿です。
徐々に足元に展開し、広がっていく幾何学的模様──俗にいう魔法陣に、怒りのままに叫ぶ少年──黒井紫炎。
紫炎は眼前に立つ、肥満体の男性こと大臣に向け殺意を瞳に孕ませながら、睨みつける。
ステータスが低いというだけで切って捨てる大臣を憎み、そして、そんな現実を押し付けるこの世界を恨み。
そんな、自分の変貌にただただ驚いてばかりの友人に怒りを覚え、己が心を黒く、ただ黒く染めながら、紫炎は魔法陣から放たれる魔力の粒子に身を包ませる。
消えゆく意識の中、紫炎の脳裏には走馬灯の如く今までの経緯が駆け巡った。
* * *
週末の金曜日。
それは学生にとって、一週間の終わりの日であり、必然と胸が高鳴る日だ。
そして、それは、紫炎にとっても例外でなく、今日の今後の予定に心を躍らせていた。
「今日は、明日まで徹夜だな。あのゲームを攻略しねぇーと。そして、後は──」
そんな紫炎の目の前ではこのクラスではいつも通りの光景が広がっている。
このクラスは男子、紫炎含め十九人。
女子、十九人からなるクラスである。
そんなクラスは大きく分けて二つのグループに分かれていた。
一つ目のグループは、四島 光と中島 悟の二人が中心、いや実際は光が中心のグループである。
男女の比率としては女子の方が若干高めと言ったところか。
そうなる要因としては、彼らの容姿であろう。
光は、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能の女子にモテる三拍子が揃った完璧超人と言い表せる人間だ。
悟は、光と見比べると容姿は劣るもの、性格が人気を呼ぶ。
もちろん、光も性格も悪くないのだが、悟はムードーメイカーなのだ。さらに、ふざけ、場を盛り上げるだけでなく、しっかりするときはするので、相談されることが多い。クラスメイトに『頼れる兄貴』として通っている。
二つ目のグループは、黒川 姫と白崎 萌衣の二人が中心のグループである。
こちらは比率として男子が高めだ。
男子が集まる理由はもちろん彼女たちの容姿にある。
姫は艶やかな黒髪をツインテールにまとめ、控えめながらも実っている双丘。さらに、勉強が出来、故に、勉学を教えてもらおうと人気が高いのだ。ちなみに、教える上手さは教師顔負けである。
性格はいう程悪くない……というのも、紫炎には厳しいのだ。原因はあるのだが、これはまた別の話である。
萌衣は、光が学校を一二を争う程のイケメンなら、学校で一二を争う程の美少女である。腰まである亜麻色の髪。たわわに実った双丘。そのルックスは下手なモデルより良いかもしれない程だ。
さらに加えて、萌衣は人望が厚い。
光も悟もその容姿や性格から人望もあるが、萌衣には負けるだろう。
同性や異性はもちろん。しっかりとした性格のため教師や、時に地域の方に頼られる。そんな彼女を『女神』と呼称する人も多い。
そんな人気のある四人からなる、巨大なグループだが、そのいずれのも属さず、ただ黙々と本を読み続ける少女が一人──雨宮 千歌である。
ダークブラウンの髪を短く切りそろえ、幼児体型とも言える体つきをしている。
彼女の本好きは、朝、昼、放課後、一日のほとんどを本に費やす程で、それ故かコミュ症がひどい。もともと無口な方なのでそこまで支障はないが、紫炎なんてまともに口を聞いてもらうまで、一二ヶ月は要したものだ。
ちなみにだが、普段その長い前髪を払うと、超がつく程の美少女に変貌を遂げるのだが、これはあまり知られていない。
千歌含めた五人と、紫炎は小学校からの仲だ。幼馴染とも言うだろう。
そんな、幼馴染故か、昼はこのメンバーで過ごすことが多い。
そして、この日も例外なく紫炎はこのメンバーと昼を共にする。
彼らが良く、昼で過ごすのは屋上だ。
人気が高い屋上だが、紫炎と千歌を除く四人に気を使って、人が来るのが減り、今ではこのメンバーの特等席と化している。
昼の過ごし方といえば、昼ごはんを共に食した後、紫炎たち男子組はゲームを、女子組は世間話や恋バナを話すことが多い。この時は千歌も、読書でなく、姫たちと行動を共にしている。
それがいつもの日常であり、そして今日もそれが続くと思っていたのだが、そうはいかなかった。
いち早く、異常に気づいたのは紫炎だった。
「なぁ、この光ってるのって……何だ?」
突然、姿を見せたそれは屋上全体に広がった。
それは、淡く光始め、そして──
「これヤバくねぇか·····おいっみんな逃げろッ!」
悟がそう口にした時は既に遅かった。
そもそも、紫炎たちが居た所から、出入り口まで距離がある。最初から、避けることは不可能だったのだ。
そして、紫炎たちはそれから放たれた光に身を包み込んだ。
* * *
紫炎が、目覚めた先に広がっていたのは、見慣れた屋上の光景ではなく、洋風な部屋だった。
だが、置かれている家具や、今、紫炎が寝そべっているこの床は、いかにも高級ですよ感が漂っている。
次いで、辺りを見渡すと紫炎と同じく寝そべっている光たち。
(良かった。無事か)
上体を起こして、見ると。
自分の周りに、兵士と思われる、白甲冑をまとった者が囲っていた。
(この人たちは一体……)
紫炎が思考を走らせていると、唸り声が耳に入ってくる。
「ん、んぅぅん」
可愛らしい声をあげて、意識を取り戻したのは姫だ。
まだ、完全に意識がもどってないのか、ぼーっと辺りを見渡す。
しかし、その異常性に気づいたのか。
「ええぇ!! こ、ここは……どこよ!」
その叫び声に反応して、次々と意識が覚醒していく。
全員が起き、辺りの異常に気づいた頃、美声が耳に入ってきた。
「ようやくお目覚めになられましたか……」
その声に反応し、兵士たちが、紫炎たちの視界からどく。
その先にあったのは。
赤いカーペットが敷かれ、階段の奥。男性と女性が二人いる。
男性は豪華な椅子に腰掛け、女性たちはその左右に立っていた。
「あの……ここは、一体……どこなのでしょうか?」
光が躊躇いがちに問う。
「ようこそ、ステイシアへ……ここはクーヴァ王国、王城『謁見の間』でございます。勇者様」
黄金の如く煌く金髪を腰まで伸ばし、蒼穹のように澄んだ青の瞳をした女性。
そのルックスは凄まじく、その豊満に実った双丘は、世の男性を骨抜きにするであろう魅力がある。
それは、例外なく紫炎にも適用され──
(なんだあの胸、エロすぎるだろ!?)
彼女の胸に、先程まで真剣に思考にふけっていた紫炎は、即座に健全な男子高校生として、通常運転にもどる。
そして、そのまま吸い込まれるように、視線はその胸に行き、凝視する。
「ステイシアに勇者ですか? すみません、なにぶんここに連れてこられたばかりで情報に乏しくて……」
そんな紫炎なんぞ、知る由もなく光は真剣そのものの目つきで問う。
纏う雰囲気から、彼女がこの場に置いて高貴であると察したので、その言葉使いは自然と敬語に変わる。
「すみません。私も召喚に成功したので、気が高まっており、気づきませんでした。……では、気を取り直して、既に察しておられますでしょうが、ここは、先程まで貴方たちが住んでいた世界とは、また別の世界で名をステイシアと言います」
至らぬ事があったと反省した様子の彼女は、続けざまに語る。
「そして、勇者なのですが、これは我々の救世主となる者の名です。これは、我が国の大臣であるこの方に説明を頼みます。では説明を──」
女性に促されたある男性が前へ進み出る。
肥満体のちょび髭の生えた男性だ。
「では、説明に入らせてもらいます。今から昔、かつてこの世界には大戦が行われていました。それは、凄まじく、我々人間は窮地に立たされました。相手の大将である魔王と呼ばれる者の力に、人間は適わなかったのです。ですが、その時、天がいえ、神が我々に光をお与えになったのです。それは、勇者の召喚でした。異世界より、魔王にあい対する力の持ち主をこちらの世界へと召喚し、大戦は幕を閉じました」
思わず、握りこぶしを作るぐらいに、熱く語る大臣。
「時は流れ、平和的に過ごしていた我々にまたもや、脅威がたちはばかりました。魔王は、あの大戦の悲劇を繰り返さんと、我々に敵対してきたのです。ならば、あの時のように、返り討ちにするべく、かつて神が行ったとされる『異世界召喚の儀』を執り行い、今に至るという事です」
大臣は役目を終えたのか、後ろにへと下がった。
「申し遅れました。私は、このクーヴァ王国、第一王女、テレス=クーヴァでございます」
テレスの横、つまり、椅子いや玉座に座っていた男性も立ち上がり、自己紹介をする。
「我はこの王国の王。グレス=クーヴァだ」
最後に進み出たのが、無表情な女性。
照明を反射し、光輝く銀髪を短かく切りそろえ、小さくツインテールにまとめており、双丘はテレスと対照的な貧乳……いや、これは絶壁と表現するのが正しい。
「シリス。第二王女。よろしく」
淡々と告げるシリス。
そして、それだけ言うと定位置に戻った。
「急な話だとは思いますが、この国を、いや世界をお救いしてはもらえませんか?」
いつの間にか、階段を降り、紫炎の目の前まで来ていたテレスは紫炎の両手を握り、目元をうるつかせる。
懇願してくるテレスに紫炎は、どう対応していいものかと反応に困る。
そして、遂に耐えられなくなった紫炎は──
「こ〜う。助けてくれ〜」
そんな紫炎の言葉で、仕方ないなと光が代わりに返事をする。
「引き受けましょう。ですが、報酬と言ってはなんですが、私共を元の世界に戻してもらってよろしいでしょうか」
「もちろんでございます」
光の頼みに、答えたのは大臣だ。
どこか、必死さも感じ取れるのは、それぐらいこの国が、世界が危険だからだろう。
「では、お願いします。事後報告だが、これで良かったかみんな?」
たしかに、遅い報告だが、しかし小学校からよく知る光が示す答えはわかりきっていたので、他はそこまで驚かない。
「その性格直さないと、後々、面倒なことになるぞ?」
しかし、驚かないだけで注意はするが、光は困っている人は見捨てない正義の味方のような性格をしているが為に、昔からその尻拭いにも似た事を、紫炎たちはやってきた。
それで、実際助かった事もあるが、困っていることも多い。
が、しかし、テレスにとってそれは救いで──
「ありがとうございますっ!」
その綺麗に整った顔を、気色一色に染めながら、喜びをあらわにする。
「では、各お部屋に案内する前に『ステータス』と呼ばれるものを確認させてください」
そして、テレスは右手を宙に浮かし、一言。
「ステータス」
すると、ゲーム画面でもよく見る、あのステータス画面が展開された。
「このように、一言『ステータス』とおっしゃってくだされば、魔力の粒子がステータスを表示しますので」
そして、紫炎にとって運命の分岐点とも言える、ステータス確認が始まった。