逆転の目・後編
絶望的な状況から、ツクモの隠されたる力によって逆転の目が見えてきたルディアとソフィ。しかし、体力的にルディアはあと一回の攻防で体力切れになってしまうという。
だが、彼女らに闘志は充分に残されている。
「まだ、諦めないつもりなのね」
「ええ。隣の人は知らないけど、私は死んでもやるつもりよ。
だから……!」
走る。彼女は走る。
自身の意志を貫くために。
目の前の敵を倒すために。
彼を守るために。
例え、それがどれだけ不細工でも、よろよろとしていても。
愚かでも。
「はああああっ!」
「……カリュ」
「承知!」
向かってくるルディアを止めるために、カリューオンは右爪の斬撃を放つ。
今までのどの攻撃とも変わらないキレとスピード。スタミナの概念などないようだ。
「流水の……如き!」
けれども、ルディアはその攻撃を文字通り《《絡めとる》》。
「なに……!?」
彼女は両足を使って、銀狼の腕をホールドする。力を真っ正面からぶつけるのではなく、受け身になり、相手の力を読み切って利用した。さらには、
「これで!」
短剣を両手で上段に構え、突き下ろそうとする。
しなやかで、洗練された動きの後に大胆で力任せの大雑把な一撃。そこには隙もなく、無駄もなく、まるで静かにゆらりゆらりと身を任せているかと思えば、突如として激しく全てを巻き込む水のよう。
「っ……まだ片腕が残っている!」
それを銀狼は左腕で受け止める。短剣の方ではなく、それを掴むルディアの腕をだ。
互いに力勝負となるが、片腕のカリューオン、両腕のルディア、両方の力は拮抗する。
「これで押し切れるわけないか……!」
「私も魔族の端くれ! 純粋な力では負けはしない!」
「そりゃそうよね。けど……ソフィ!」
「待ってました!」
だが、力の拮抗は第三者によって破られる。その第三者であるソフィはルディアの背中に向かってタックルを繰り出す。もちろんそれはルディアへの攻撃ではなく、
「なに!?」
その先にいるカリューオンへの間接的な攻撃だ。ソフィの力がルディアの力と合わさり、一気に敵へと押し切ろうとする。
「っ……だあっ!」
「きゃっ!」
しかし、その前に銀狼は彼女の短剣を上空へと弾き飛ばす。豪快すぎるほどのローリングソバットを彼女の手に当てて。
「ルディア! 剣が……!」
「分かってる。けど、ここからはアンタの仕事!」
武器を失ったルディア、けれども彼女が攻撃の手を緩めることはない。
「な、何を!」
彼女はカリューオンの懐へと飛びつき、そのまま体を掴む。そして、
「絶対零度!!」
「っ、カリュ!」
自身ごと銀狼を氷に閉じ込める。いや、凍らせたといったほうが正しいか。
ルディアとカリューオンの体、詠唱とともにそれらの熱は一気に奪われていき、動きを止め、霜を表面に作り出し、白に染まっていく。
「……そういうことか」
そして、何を察したのか、ソフィは凍っていく二人に目もくれず、メティスへと一直線に走る。
「英雄さんよ! これで一対一、サシでの勝負だ! 邪魔してくる使い魔さんもいねえから、存分に戦えるぜ!」
「……友人のことはお構いなしですか」
「ふん! アイツとは友達じゃねえし、アレは勝手にやってる事だ!」
なんとも淡白で、彼女らしいと言えば彼女らしい言葉ではある返し。けれども、間違っているわけではない。
「そう。まあ、貴女がどういう人であれ、向かってくるならば、倒すまでです」
メティスが宙をなぞる、と思えばソフィの足元が泥に変わり、彼女の足を沈ませていく。
「うおっ!? さっきとおんなじ手を使いやがって!」
「有効ならば、何度だって使う。それが戦いの定石ではなくて?」
「ちっ! 余裕ぶりやがって! その顔、すぐに崩してやる!」
反骨心を露骨に表すソフィは、泥のぬかるみに抵抗し、なんとか前に進もうとするが、依然として足が遅いままだ。
「っだああああ! こんなもんやってられるか!」
その事に、とうとう頭の沸点に達してしまったのか、声を荒げながらも、彼女はあるものを投げる。
「うおおおりゃああああ!」
「……ついにヤケになってしまいましたか」
メティスに投げた物、それは泥だ。
足元に張り付くそれは、ある意味で無限であり、ある程度近づいている今なら、腕で投げるだけでも飛び道具としてなんとか役に立つだろう。
「しかし、それは私の《《所有物》》。貴女の物ではありません」
だが、メティスが手のひらを向けるだけで、その泥団子たちはピタリと止まってしまう。
「うおりゃ! うおりゃ!」
その結果に目もくれず、ソフィはひたすらに足元の泥を彼女に投げつける。
まるで壊れてしまった機械のように。
「無様ですね。意味もないことを繰り返し……」
しかし、目の前が泥の壁で埋め尽くされ、ソフィの姿が見えなくなったところでメティスは気付く。それは……
——ああ、それは何という分かりやすい目眩しでしょう。
「ラスト!」
その掛け声と共に、泥の壁からソフィの大剣が飛び出してくる。
泥を投げたのはあくまでも牽制であり、目眩し。本命はこちらだったのだろう。意表をつくような一手、それは相手にとって死角であっただろう。
「……言ったでしょう。その泥は私の物。つまりは自由に操れるのだと」
その相手が、英雄でなければ。
貫通された泥の壁、しかし起こったのはそれだけでなく、泥は大剣に纏わり付き、大剣と共に動きを止めていく。
空間を操る魔法使いが、泥の空間を止める。大剣自体を止められなくても、その周りを止めれば良いだけの話だ。
だが、だかしかし、《《彼女の攻撃》》は終わっていない。
「だからどうした! アタシの剣はアタシのだ!」
止まっていたはずの大剣、それは泥を振り払い、またもや動き出す。
「っ……!」
ソフィは泥沼を突破し、大剣の柄を蹴り、真の意味での意表を突いた一撃を放つ。
足元の泥を投げたのは、取り除く意味合いもあったのだろう。
完全に予測もしていなかったその一閃、それはメティスの顔へと狙いを定めていた。避けるには《《左》》へ飛ぶしかなかっただろう。
しかし、ここからいくら彼女の反射神経を駆使しても、避けきれはしない。
ルディアとソフィ、彼女らの絶望の状況が一転、食らいつき、対等なまでに持っていき、サシの状況まで持ち込み、そしてついに……!
「奥の手……隠してたな……!」
ソフィのその一撃がメティスの頭を潰すことはなかった。
いや、もっと言えば、大剣が彼女の体に当たることすらなかったのだ。
大剣の刀身はメティスにぶつかる直前で歪み、まるで彼女と接触する事を拒むかのように曲げられ、迂回させられたのだ。
「やっぱり、『動けない』んじゃなくて、『動く必要がない』のか……!」
「ええ。いくらツクモとは言え、それは《《貴女》》のツクモではありません。ツクモの想いと貴女の想いが別であれば、自身の世界を作り出す力は半減してしまう。
彼女自身が向かってくれば、また別の結果となったでしょうが。
それに、貴女に宿るツクモ、そろそろ限界では?」
メティスに言われて、自身の体を見てみるソフィ。そこには力強い光はなく、薄ぼんやりと光るツクモしかなかった。
そして、その光は徐々に弱くなり、消えていく。同時に彼女の体は、また宙へと浮き、しかも今度は指一本すらも動かなくなってしまった。
「くっ……ルディア……気を失ったか」
「無理にツクモを他人の体に宿していたわけですから、その想いの元となる彼女が気絶してしまえば、その効力は失われるのは当然でしょう」
ルディアは意識を失い、ソフィは動けなくなった。
敗北、そのことがソフィの頭に浮かぶ。これ以上はもう打つ手立てはない。何もできない。待つことしか。
「……へっ、結局のところ、英雄様に勝つことなんて無理だったか」
「あら、らしくありませんね。貴女なら、まだ諦めないと思ってましたが」
「そんな事ない。私だって馬鹿じゃないし、戦況はよく見てるつもりだ。だから……」
その直後、メティスの左肩が斬り落とされる。
「その顔を見れただけで、私達の大勝利だ……!」
ニヤリと、何の屈託もない笑みで彼女は宣言する。
無邪気で満足したという高らかな笑顔は、本当にそう勝ち誇っているかのようだ。
「……ええ、一本取られた。それだけは認めましょう。
では、さようなら。ソフィアネスト」
「うぐっ……!」
しかし、その笑顔も束の間。何がぶつかったのか、突然ソフィの頭が揺れたと思いきや彼女は意識を手離してしまう。
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