表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/171

29話 リベンジ


 地下牢、というか高級宿泊施設の改善アンケートに、「換気」と記入してから、マルコは出所した。

 開放感に後押しされるように空を見上げれば、小さな雲がのびのびと流れていた。

 快晴だ。


「やっぱ、外は違うな」 


 そうつぶやいて、大きく息を吸いこむ。

 待遇はよかったのだろうが、やはり元地下牢は元地下牢、息苦しさまでは改善しきれていなかった。


 ――さっそくリベンジといこう。


 前回は名刺のせいで失敗したが、「スライム使いのフレーチェを鍛える」という依頼そのものが失敗に終わったわけではない。


 意気込んで白い街並みを歩くマルコの服装は、いつもの冒険者風である。

 白黒ボーダーな囚人服はすでに着替えている。

 いっしょに依頼を受けたはずの、シルフィの姿はここにはなかった。

 次期聖女のスケジュールはみっちり詰まっているらしい。


「夕方までには、全部終わるはずですけどね」


 シルフィは肩を落としてそういっていたが、本当に終わるのかはわからない。


 ……そもそも、スライム使いの育成に、シルフィは関係ないんじゃないか?


 ふっと浮かんだその疑問は、フレーチェの店が見えてきたところで、頭の片隅に追いやられた。

 マルコがスライムエステ『スリードロップス』の扉を開くと、


「いらっしゃ、ぁっ!?」


 紫髪の人形のような、かわいらしい店主が、猫なで声をだしてから動きをとめた。

 瞬時に、紫水晶(アメジスト)の瞳がつりあがる。


「また来やがったですか!」

「ま、待て! これを見ろ!」


 いきり立つフレーチェを押しとどめようと、マルコは手を前にだした。

 その手につかまれた、青くきらめく透明な物体を見て、フレーチェは目を見開いた。


「そ、それは……まさか!?」

「そう、スライムだ!」


 名刺がだめなら、実物で勝負すればいいのだ。

 そう考えたマルコは、スライムを誇示するように見せつける。

 蒼穹(そうきゅう)を詰め込んだ宝石箱のごとき、気品あふれる姿を、フレーチェは食い入るように見つめた。

 しばらくして、フレーチェは受付カウンターに手をつき、がっくりとうなだれる。


「くぅ、……負けた」


 同じスライム使いである。

 彼女がなにに衝撃を受けたのか、マルコにはよくわかる。

 色、形状といったひとつひとつの要素から、力量の差を感じとったのである。

 勝った。と誇ることなく、マルコは歩みよって、


「さあ、手に取るがいい」


 えらそうに言った。

 第一印象が最悪だったとはいえ、最初が肝心なことに変わりはない。

 フレーチェは十七歳。マルコよりふたつ年上である。

 師の威厳を確保するためには、少しばかり背伸びも必要だろう。

 マルコの差しだしたスライムに、陶磁器を思わせる白い手がわなわなと伸びた。


「クッ、……この色つや、手触り……なにが望みですか?」

「まずは客として、この店の力を見させてもらおうか」


 スライム使いでありながら、聖都で店を構えるフレーチェ。

 彼女がスライムを使ってどんな商売をしているのか、興味があったのだ。

 しばし見つめ合うと、フレーチェは作り物のように冷たい表情で、


「当店は女性専用となっております」

「……出直してきます」


 マルコは二度目の撤退を強いられた。






 宿に戻ると、帝國の皇女ヘルミナが見るからに高価そうな反物(たんもの)を検分していた。

 美しいものに目がない皇女様ではあるが、そのわりに退屈そうな、冴えない表情を浮かべている。

 マルコがそっと協力を要請してみると、ヘルミナは眉をひそめた。


「わたくしもシルフィと同じ、いえ、この地では、それ以上に素性を隠さなければいけない立場ですのよ」


 そう返してから、ヘルミナは手にした朱色の反物に視線を落とす。

 テーブルの上に並んでいる色とりどりの見事な反物は、宿の従業員に買いに行かせたものである。

 従業員を使いにだしたのは、ヘルミナたちが街中を出歩くわけにはいかないからであった。


 一行は聖騎士たちに顔を知られている。

 街中を聖騎士がうろついている今、外を出歩いてばったり再会したら目も当てられない。

 もし帝國の皇女が捕まりでもしたら、さぞや面倒くさいことになるであろう。

 もっとも、マルコが同行していれば捕まる心配もないのだろうが、だからといって、姿をさらして揉め事を起こすこともない。

 騒ぎを起こすのが得意な皇女様は、当然のごとく、騒ぎを起こさないすべもわきまえていた。

 ヘルミナは外出しない。となると、その護衛のロロも当然のように却下。

 もとよりマルコの頭の中には、ロロに女性らしい頼み事をするなんて発想は、かけらも存在していない。


 ということは。


 マルコの視線は、従魔と遊んでいる魔物使いの少女、ルカに向けられた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。よければこちらもよろしくお願いします。
じゃない孔明転生記。軍師の師だといわれましても
上のタイトルクリックで飛べます。
>cont_access.php?citi_cont_id=6250628&sizツギクルバナー
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
フレーチェ編、何がしたいのかよく分からないな……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ