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08話 聖剣


 ヘルミナは、危機においても冷静でありつづけたつもりだ。

 だが、その平常心も、一瞬で行方をくらましてしまった。


 思いがけない救援である。


 いてくれたら、と思うことはあった。

 でも、このタイミングで、上から来るのは想定外すぎる。


 皇女様は目と口を丸くして、


「マルコっ!?」

「ああ。って、誰っ!? いや、わかるけど……ええっ?」


 頭に葉っぱをくっつけたマルコも、黒髪のヘルミナを見て、行方不明の赤いドリルに驚き、目を丸くした。


 束縛から解放されたジュリアスがすぐさま立ちあがり、あきれたように首を振る。


「君は、魔大陸に行ったんじゃなかったのか……」

「助かった。いやマジで。もう終わりかと思ったぜ」


 そういって、オキアは口の中に入った土をまずそうにペッと吐き出した。


 彼らの口元には、そろって笑みが浮かんでいた。

 常識にとらわれない登場のしかたも、マルコだからしょうがない、という苦笑ではあったが。


 結果として、状況が大きく好転したことだけは間違いないのだ。


「とりあえず、こいつらを倒せばいいんだろ?」


 マルコは髪にひっついた葉っぱを取り除いて、軽い調子で敵を見やった。


 その視線が剣聖で止まる。


 剣聖はマルコの姿を見た瞬間、とっさにエクスカリバーンを抜いていた。


「君は、……何者だ?」


 それまで見せることのなかった、鋭い眼光でマルコを睨みつける。

 長く任務をともにしてきた、聖騎士たちですら震えあがるほどの剣気を受け、


「ただのスライム使いだ」


 マルコはわずらわしげに眉をひそめた。


 ただの? この場にいる人物の四割ほどが首をかしげた。


 一方、聖騎士たちのあいだには、冷ややかな笑いが広がる。


「スライム使い?」

「ふふ……」


 マルコが無手なのを見て、聖騎士たちは気を取りなおしていた。

 意表をつかれこそしたが、あくまでもそれだけだろう、と判断したのだ。


 やはり聖国でも、スライム使いの立場は思わしくないらしい。


 マルコは鼻の頭をかいた。


 それならそれで、この場で思い知ってもらうのも悪くはない。

 こういうときのために、とっておきの台詞が用意してあるのだ。


「ここは俺にまかせて、先に行け!」


 残念ながら、その台詞はさきほどロロに使用されたばかりであった。二番煎じである。


(のが)すわけないだろう」

「子供のお遊びじゃないんだ」


 どうやら誰の心にも響かなかったらしい。

 聖騎士から失笑がもれる。


 ジュリアスとオキアを取り押さえ、マルコに蹴飛ばされ、包囲の一角は崩れていた。

 だからといって、一行を逃すほど甘くはない。


「なんだ。どっかで見たことあるような剣を持ってると思ったら、……聖騎士か」


 ちょっと不満気味なマルコが、今さらな指摘をした。

 すると、剣聖は不快そうに眉間に皺をよせる。


「少年、見苦しいはったりはよせ。少しでも気を引こうという気概は買おう。だが、多少腕に覚えがあるていどで、我々を相手にできるとでも思っているのか?」

「やってみなきゃわからないと思うぞ。剣聖シャルシエル」

「えっ?」


 ルカの小さな驚愕が、やけに響いた。

 今度の指摘は、聖騎士たちの余裕を凍りつかせていた。


「なぜ私の名を知っている? ……聖騎士、いや、覚えがない。貴族絡みか?」


 剣聖の目が、マルコを値踏みするよう、細められた。


 当代剣聖の秘密。双子の剣聖。

 裏の剣聖シャルシエル、その存在を知る人物はかぎられている。

 聖騎士か、聖国の中枢にいる貴族にしか知らされていないはずの秘密なのだ。


「いや。相手が剣聖と知ったうえで、余裕があるんだと主張したかっただけなんだけど。……なんで動揺してるんだ?」


 マルコはかえって困惑していた。

 正直、名を指摘しただけで、こんな反応が返ってくるのは予想外だ。


「なぜ知っている?」といわれても、目玉スライムの力でステータスを鑑定しただけである。


 シャルシエル

 種族 人

 性別 男

 年齢 三三

 適性 剣聖(ソードマスター)

 レベル 六七

 称号 裏の剣聖


 ――裏か? 裏がポイントだったのか。

 まあいい。とマルコは仕切りなおす。


「驚くのは、これを見てからにするんだな!」


 マルコとしては、これから見せるモノで驚かせる予定だったのだ。


 思惑を外された、というよりも、ひとりで勝手に踏み外したマルコの手が、なにもない空間をまさぐる。


 空間収納(スライムストレージ)、虚空から、ひとふりの剣があらわれた。


 華美な装飾の施された白い鞘は、聖騎士たちの持つ剣とよく似ていた。

 聖騎士たる彼らが、その剣を見間違えるわけがない。

 彼らの栄誉は、常にその剣とともにあるのだから。


「カリバーン!?」

「馬鹿な!」

「なぜ聖騎士でもない貴様がその剣を持っている!?」


 聖騎士たちの動揺が膨れあがる。


 マルコは見せつけるように、騎士剣をすらりと抜いた。

 流麗な鞘が地面に投げ捨てられ、聖騎士がギョッと目をむく。

 しかし、その視線も即座に、マルコが手にする聖剣の放つ、豊潤な輝きに吸い寄せられる。


「これがただのカリバーンじゃないのは、ちゃんと見ればわかるんじゃないか?」


 鏡のように気品のある剣は、剣聖が手にするエクスカリバーンよりも輝かしく、清浄な光を放っていた。


 目を疑いながら、聖騎士がうめいた。


「エ、エクスカリバーン? まさか、そんなはずは……」

「そう、これが本物のエクスカリバーンだ。そこの剣聖が持ってるまがい物じゃない。伝説の騎士アゼルが持っていた正真正銘の、光の聖剣だ!」


 もともと聖剣エクスカリバーンはその所有者、当時の聖国筆頭騎士アゼルとともに、二百年以上前に魔大陸で消失している。


 剣聖が持つ今のエクスカリバーンは、あくまでカリバーンの中で最も出来がよいだけの代替品(だいたいひん)にすぎない。


「まさか、本物のはずがない……」

「退魔の騎士アゼルは魔大陸で死んだはずだ!」

「に、偽物だ! 見た目だけならなんとでもなる!」


 ふんッ、とマルコは鼻で笑い飛ばした。


「この剣こそ『災果てのダンジョン』でアゼルの亡霊から貰い受けた、本物のエクスカリバーンだ!」


 貰い受けたはいいが、実のところ実戦で使ったことはない。


 長大な騎士剣は、マルコにとってあまり使い勝手がよろしくないのだ。


 それに、抜いただけで光る剣なんて、扱いづらいではないか。

 そんなふうに思ってしまう、マルコが間違っているのだろうか?





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じゃない孔明転生記。軍師の師だといわれましても
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