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五話 決闘!? 誇り高き剣士ジュリアス


「まるで、天の神様が僕の試合を祝福しているかのようだ」


 ジュリアスがそう陶酔するほどの、絶好の体育日和である。

 研究に没頭し時を忘れてしまうような魔法使いでも、つい散歩をしようかと思い立ちそうな晴天だった。


 マルコは剣を片手に、パラティウム帝立学園の校庭に突っ立っていた。

 学園が貸し出した刃のない模造剣の先で、地面をトントンと、剣身の硬さを確かめるようにつつく。


「武器に変なところはないな……」


 小さく独り言を漏らす。

 自分の剣にヒビが入っていて試合中に折れる、という展開ではなさそうだ。

 慎重であった。


 服装は制服のまま。

 この制服は戦闘にも使える、丈夫な品物だそうだ。

 防御力はさほどないが、魔力を通すと復元する高級品だ。


 衆目の中、対峙するは金髪碧眼の美少年ジュリアス・デルバイネ。

 彼の手にする騎士剣は、マルコが持つ剣より少し大きい。

 こちらも刃の付いていない模造剣である。


 体育の授業では主に戦闘に関する訓練が行われる。

 皆で柔軟とランニングを終え、今は自由組み手の時間だ。


 入学早々、いきなりの手合わせに体育の先生は感動していた。


「いいぞ! 情熱的だ! 今年の新入生はやる気があって実にいい!」


 体育の教師は現役を引退したとはいえ、根っからの騎士であり、試合、決闘、大好物なのだった。


「覚悟は決めたかい、スライム使い君。今更怖じ気づくこともないさ、もとから勝敗は見えているのだから」


 ジュリアスは前髪をかき上げ、剣を構える。


 マルコは思った。観客と化している生徒達は、授業中だというのにのんきに見学していていいのだろうか?


「二人とも気合いを入れろっ!」


 審判役を買って出た先生が発破をかける。


「そういうノリなのか、なるほど!」


 マルコは納得した。

 帝都の住人はイベント好き。

 そこは魔都と何も変わらないようだ。


「マルコ、諦めんなよ!」


 俺が代わろうか、といってくれたオキアの応援を受けて、マルコも剣を構えた。


 オキアはイケメンだけどいい奴だ。

 もう友達と言っても過言ではあるまい。


「よし! 二人ともルールはわかっているな!」

「「はい!」」


 教師の声に、マルコとジュリアスの返事が揃う。


 ルールはいたってシンプルだ。

 頭部への攻撃は禁止。勝敗の決着は降参、もしくは審判の判断。


「よし! はじめっ!」


 号令とともに、ジュリアスは余裕を示すように、無防備に両手を広げマルコに笑いかけた。


「先手は譲ってやろう」

「それでは、お言葉に甘えて。スライム召喚!」


 わざわざ口に出さずとも召喚できるのだが、観客にわかりやすいよう心がけるマルコ。


 召喚されたスライムは前回同様、丸餅型でプリンちゃんだった。

 青い体もそのまま、そう、枕用に開発したスライムそのままである。


 枕が戦えないと誰が言っただろうか。少なくともマルコは言っていない。

 レベル八三のスライム使いが召喚する枕は、最高でレベル八三相当の枕にだってなれるのだ!


「ハッ、またそれか。……それで準備はいいのかい?」

「問題ない。行けっ! スライム!」


 口に出さずとも自由に動かせるスライムを、やっぱりわかりやすいようにと、マルコは声で指示を出す。


 スライムは前進した、プヨンプヨン跳びはねて。


「「「嘘ぉぉおおお!?」」」


 ギャラリーの意表を突く、あざとい移動法だった。


 普通、スライムの移動法といえば、地面をどろどろ這うか天井からびちゃりと落ちてくるかだ。

 スライムの好感度を稼ぐため、マルコは日々研究を重ねている。


「ちっ、ふざけるなあああ!」


 ジュリアスが剣を上段に振りかぶった。

 練り上げた闘気が剣に伝わっていく。


「ほう」


 思わず審判役の教師が唸った。新入生とは思えぬ、しっかり闘気を込めた剣は模造とはいえ容易く人の命を奪うだろう。

 それでも教師が落ち着いているのは、高レベルのスライム使いの噂を耳にしていたから。


 跳びはねるスライムに合わせ、ジュリアスが気合いと共に剣を振り下ろす。

 その寸前、スライムの速度が急激に上がった。


「なっ!? ぐぅっ!」


 腰へ体当たりを受けたジュリアスが呻く。


「すげえ! 動きが変わった!」

「あのスライム、知能があるのか!?」

「それまで顔の高さまで跳ねておいて、直前で弾道が低くなるとは……やりおる」

「いいよ、可愛いよスライム!」


 最後の声は魔物使いの少女ルカだ。


 そんな声の中、審判は悩んでいた。

 ……スライムの体当たりをどれくらいの有効打として扱うべきかわからなかったのだ。


 騎士生活十五年、教師生活八年。


 スライムに飲み込まれたり溶かされたり、窒息したりといった話なら聞いたこともある。しかし、スライムの体当たりとは。


 むむっ、と想定外の出来事に思い悩む審判。


「このっ!」


 スライムと闘うジュリアス、その顔からは試合が始まる前の余裕はもう消え失せていた。


 スライム相手に後れを取ったなど恥以外の何物でもない。


 剣を躱され、体当たりを受け、そして、激闘の末、ジュリアスの剣がスライム(枕用)を両断する!


「「「ああっ!」」」


 プルプルスライムがやられた!


 固唾を呑んで見守る生徒達から、落胆の声があがる。

 目立たぬよう人影に隠れようと、さりげなく無駄な努力をしていたシルフィが予想外の出来事に瞠目する。


 ジュリアスに賭けた生徒も、貴族の子ら数人を除けば、賭けに負けるのが嫌だから、貴族に睨まれるのが嫌だからジュリアスに賭けたにすぎない。

 心情的に愛玩系スライムの味方をしていた生徒も多かったのだ。


 しかし、次の瞬間、生徒達は予想を超えた光景を目撃する。


「まだだ、ジュリアス。まだ俺のスライムは動けるぞ」


 真っ二つになったスライムは大きさを半分ほどに変えて、さらに果敢な体当たりを敢行したのだ。


 二体がかりで。


「ぐはっ!」


 二体のスライムが前後左右、縦横無尽に飛び跳ね、翻弄され連打を食らったジュリアスは、ついに膝をつく。


「くそっ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 スライムの攻撃がぴたりと止まった。

 審判が試合を止めようかと迷う。


 だが、ジュリアスの瞳はまだ死んではいなかった。


「うぉぉおおおおおお!!」


 審判が勝敗を告げようと手を上げる寸前、ジュリアスは咆哮した。


 残された全ての力を振り絞り、マルコに向けて突進する。


 その刺突は鋭かった。

 全身全霊の、ありったけの力を込めたその一突きは、現役の騎士にすら匹敵するだろう。

 目を見張るほどの速度に、多くの者は虚を突かれた。


 勝敗が覆った。


 そう思われた中、マルコは……。

 スライムで対処をすべきか、自分が相手をすべきか迷っていた。

 全てスライム任せで本人は何もしなかった、と見てとられるのも侮られかねない。

 スライム使いが見下されるのも嫌だが、自分が馬鹿にされるのも御免だ。


 マルコは自身の手で終わらせようと、半身になり剣を構える。


 この刹那に過ぎない計算は、実力が近い相手なら致命的な隙となっただろう。


「おおぉぉぉぉぉぉ!」

「よっ、と」


 無論、この場においてそのような隙となることはない、両者の力は隔絶している。


 マルコはジュリアスの突きに剣を合わせ、絡め取るように跳ね上げた。

 全力の刺突を逸らされ、力を利用され、ジュリアスの剣は無情にも持ち主の手を離れ天高く舞い上がる。


「なっ、馬鹿な!?」


 ジュリアスが驚愕する間も、マルコの動きはよどみない。


 がら空きになったジュリアスの胴に、剣の平がたたき込まれる。


「がはっ……」


 ジュリアスが脇腹を押さえ倒れた。

 審判が慌てて手を上げる。


「そ、それまで!」


 おおっ!! と歓声が巻き起こった。


「すげえじゃん! 最後のどうやったんだよ!」


 自分が勝ったかのように大喜びするオキアに応じつつ、マルコは首をひねる。


「……あれっ? ジュリアス、魔法剣士なのに魔法を使わなかった?」


 この試合をスライム使いのデモンストレーションとみなしていたマルコは、ジュリアスも当然のように魔法を使うと思っていた。

 だから魔法を使わぬまま終わってしまった事に拍子抜けしていたのだ。


 しかし、剣を振るいながら魔法を行使するというのは非常に難しいことである。

 それこそ一流に足を踏み入れる領域の話なのだ。


 魔王軍の化け物達に囲まれて強くなった、魔法の才能が欠片も無いマルコにはそれがわかっていなかった。

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じゃない孔明転生記。軍師の師だといわれましても
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