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四三話 ドラゴンスライム反省会!


 数は暴力だ。と、マルコは痛感していた。


 他愛のない、からかいが、中傷となり、陰口となっていく。

 越えてはいけない一線を越えてしまうのも、数が集まるからだ。


 そこに多くは必要ない。

 一人に対し三人も集まれば、黒いモノも白くなる。


 本来、何とも思わないような、明日には忘れそうな些細なことすら人格否定、存在否定へと加速する。

 特に学園のような閉鎖空間でのそれは、人を傷つける恐ろしい武器となるだろう。

 教師が混ざるとなれば、一生徒にとっては絶望的だ。


 何故、マルコがこんな柄にもないことを考えているかというと――


 朝のホームルームを終え、ホリー先生が扉の向こうに消える寸前、マルコに送った視線が一瞬、凄く冷たかった。

 ホリー先生はすぐに困ったような顔に戻ったが、マルコにははっきり見えてしまったのだ。


 理由は明白だった。

 ドラゴンスライムの件だ。

 怪我をさせた相手が、皆に敬愛される『メティスレイヒェの天使』だったのが、とにかくまずい。

 シルフィに嫌がらせをしたら、その日から一族郎党、回復魔法による治療がいっさい受けられなくなる、という噂すらあるほどなのだ。

 マルコは自ら配合したエリクシールスライムを召喚できるから問題ないのだが、そういう問題ではない。


「よかったねーシルフィ。傷跡が残らなくて」

「ふふっ、鼻の頭をすりむいただけでルカも大げさですね」


 シルフィは指で鼻の頭をさすった。

 そこに傷跡は全く見られない。

 体育館の天井からダイナミック顔面着地して、鼻の頭をすりむくだけで済むとは、やたら頑丈な聖女である。


 もちろんマルコ、そんなこと口には出さない。

 言ったら、周りの視線がさらに冷え込むことは目に見えている。

 無闇にひんしゅくを買う愚は避ける。

 マルコは雰囲気に抗わず、やり過ごすつもりだ。


 レベルが高いといってもシルフィはあくまで神官、身体的なステータスだけ見ればオキアやジュリアスとそこまで大きな差はない。

 それでこれだけ頑丈となると、気の扱い方が上手いか、とっさに魔力障壁を展開したかのどちらかだろう。あるいは両方かもしれない。


「あのドラゴンスライム、すっげー強かったからな」

「修練不足を思い知らされたよ」


 へこたれる様子のないオキアはあっけらかんとしているが、ジュリアスは肩を落としている。


「実際マルコから見て、私たちでは太刀打ちできない相手でしたか?」

「いや、そんなことはないぞ」


 シルフィの質問に、マルコは明確に否と答えた。

 あのドラゴンスライムがドラゴンを再現していたならともかく、あれはあくまで大トカゲだ。


「ジュリアスは相手より速く動いて先手を取れていた。オキアも傷をつけることは出来ていたんだ。目を狙って視力を奪えていれば結果は違ったかもしれない。ルカがガウルの氷のブレスでそれを支援できれば可能性はあったはずだ」


 シルフィは自分へのアドバイスを急かすように、マルコをじーっと見つめている。


「シルフィは……基本魔法使いなんだから、至近距離で戦うにしろ魔法は使わないと。俺が参加してなかったから、三人目の前衛というよりは遊撃の動きをしたほうがよかったな」

「遊撃ですか……」


 むむむ、と考え込むシルフィ。


 なぜシルフィは撲殺にこだわるのか、それともあの黄金メイスが呪われているのだろうか、とマルコは不思議がる。


 マルコは知らないことだが、実は魔物を倒す際に、より近く、より直接的なほどレベルアップしやすいと記した書物があるのだ。

 決して撲殺に取り憑かれているわけではない。


 ただし、シルフィは殺れるものなら拳でもかまわない、とすら考えていた。

 マルコの想像よりずっと酷かった。


「ま、まあ、ノーステリア平原の魔物はあんなに強くないんだよね。そろそろ演習の準備もしないといけないし、何が必要かな? テントは男女別で学園が用意してくれるみたいだけど」


 ルカが、パンッと手を合わせ、沈みがちな空気を元気づける。


 討伐演習が魔物討伐だけだと思っていたら大間違いだ。

 野営の準備や休憩の取り方、全てが学園生にとっては学ぶべき貴重な機会となる。


「水と干し肉だけありゃ充分じゃね」

「これだから平民は……」

「……あん?」

「貴様のように、野蛮な体で出来ている人間ばかりではないのだよ」


 睨みつけるオキアと髪を掻き上げるジュリアスは置いといて、シルフィはマルコに尋ねる。


「マルコ、他に必要な物って、どういう物がありますか?」


 このパーティーで冒険者として活動しているのは、オキアとマルコだけだ。

 ルカの収入源は牛さんを追いかけるバイトである。

 魔物使いは普通の動物に対しても影響力を発揮する。

 ルカは帝都の新鮮牛乳をこっそり支えている一人なのだ。


「水と食料が最低限必要なのは本当だけどな。備えようと思えば他にいくらでもいるし……」


 空間収納(スライムストレージ)のあるマルコとしては答えづらい質問だ。

 スライム魔法は反則的に便利だが、マルコしか使えない以上、ないものとして考えた方がいいのだろう。


 干し肉に関しても携帯食を買った方がよいといわれてはいるが、嗅覚の優れた魔物は干し肉の匂いを嗅ぎつけるとか、栄養バランスが違うとかは商人の常套句なだけにイマイチ確信が持てない。


「鍋とか必要かなあ?」

「鍋料理なら炊き出しでたまに作りますよ」


 ルカとの何気ない会話で、料理が出来ない事を露呈するシルフィ。

「ああ、シルフィ、料理作れないんだ、ふーん」などと、マルコはちょっぴり優越感に浸っている。

 マルコのスライム魔闘術は料理分野でもなかなかの戦闘力を発揮する。

 とりあえず肉を焼けばいいじゃない、の魔大陸時代とはもう違うのだ。


「ねえねえ、どれくらいの大きさがいいのかな?」

「大きさなら調節できるぞ」


 ルカの質問に、マルコは得意げに答えた。

 調子に乗って差し出したマルコの左手の上に、アーススライムが召喚され、うぞうぞ形を変えていく。


 鍋の形に変わったアーススライムを見て、シルフィは美しい双眸を細めた。


「……それができるのはマルコだけでしょう」

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