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三六話 つかの間の日常、動き出すナイトシフト!


「それでは明日の帰りまでに、パーティーを決めておいて下さいね」


 担任のホリー先生が教室を出ると、早速、ノーステリア平原で行われる演習でのパーティー編成をどうするか、生徒達が騒ぎ出す。


 そんななか、戦闘中の不敵な態度が嘘のように、マルコは緊張していた。


 ノーステリア平原へ視察にいっていたせいで、しばらく学園を休んでいたせいだ。

 その間に仲が良い生徒同士で自然とグループが形成され、残りものになっているのではないかと危惧しているのだ。

 久しぶりに登校したら、自分の席に他の生徒が当然のように座っていたのが、この懸念を呼び起こした直接的な原因である。

 席替えに気づくまで数秒、ハブられているのかと思ってすっごい焦った。


 あれだけ焦ったのは、竜の台地(ドラゴンズテーブル)で用(大)を足していたら、神竜に話しかけられたとき以来かもしれない。

 あれは二重の意味で、大ピンチだった。


 スライム使いのマルコには、もともとパーティーという単語にいい記憶もない。


 なおマルコと一緒にノーステリアへ行っていたシルフィは、変わった自分の席にしれっと座っていた。


「マルコ、俺と組もうぜ。お前がいればがんがんスコア稼げるだろ。どうせなら優勝しようぜ優勝、目指すはナンバーワンだけだ」


 そんなマルコの緊張など一蹴するかのように、オキアは机に両手をついて迫ってくる。

 さすが学園の友人一号だ。


「オキアより、この僕と組んだ方が良い結果を出せると思うがね」


 オキアの誘いに口を挟み、ジュリアスもなんか斜め立ちでびしっとキメてくる。

 さすが友人二号だ。


 スライム使いでもパーティーに誘ってくれる人はいるんだ、とマルコはこっそり胸を熱くした。

 そこに、序列一桁(アムカ)のロロに勝ってみせた、という自覚はない。


「貴族様に野営は難しいんじゃないか?」

「ふん、集団生活に重要なのは規律を守る精神だよ。君が法や規律をどこまで理解してるかは知らないがね」


 両者の間で火花が飛び散る。

 この二人は入学試験以来、とても相性が悪い。

 もう見慣れた光景だ。


 優勝だスコアだといってるように、この演習ではパーティーごとにしっかり評点がつく。

 

 一パーティーは四人から六人。

 倒した魔物の魔石を回収し、質と量がカウントされポイントを競う。


「でも二人が競争するつもりでも、マルコ君と組んだほうが勝つに決まってるよね」


 魔物使いの少女ルカが悪気無く口にした言葉は、オキアとジュリアスを問答無用で黙らせた。

 二人とも他人の力を当てにするのを恥ずかしい、と感じるくらいには自負があり、かつ青いのだ。


 青いターバンを巻いたルカの頭には、相変わらずローリングバードのチュリオが、斜めに掛けたバッグからは、狼の子が不思議そうに顔を覗かせている。


「わふっ?」


 この白い子狼は、ガウルという名の、ルカの新たな従魔だ。

 マルコとシルフィがノーステリア平原へ出かけてる間に、帝都に住む引退した魔物使いから譲って貰ったそうだ。


 真っ白なモフモフ、ガウルは氷原狼(アイスウルフ)という種で、成長すればB級の魔物として扱われる。


 S級を使役する魔物使いはもはや伝説上の存在であり、A級の魔物と契約する魔物使いも帝國全土で数えるほどしかいないだろう。

 B級の従魔となるとそれなりに増えはするが、それでも希少な存在に違いは無い。

 何しろB級の魔物というのは、B級冒険者が力を合わせて討伐するべき対象なのだ。


 氷原狼を従魔とする。

 それは、ルカがいずれB級冒険者以上の力を持つのが確定した瞬間であった。


 そんなガウルも、今はまだ小さな子狼。

 先ほどから大人しく、横から伸びてくる手に撫でられている。

 その手の主、シルフィは、にらみ合うオキアとジュリアスを「仲良しですねえ」と思いながら、別のことを口にする。


「マルコがどちらかと組んだら、二人の勝負にはなりませんね」

「わたくしに良い考えがありますわ」


 シルフィの背後から、にょきっと皇女ヘルミナが現れた。

 いつの間に、と思う者はもうこのクラスには存在しない。


 怪異レッドドリルはシルフィのいるところ、どこにでも現れる。

 シルフィ親衛隊シークレット名誉顧問は伊達じゃない。全然隠れてない。


「ここにいる五人でパーティーを組めば良いのです。どちらが個人でスコアを稼げるかは、マルコが審判をすればよろしい」


 ヘルミナはシルフィの肩に手を置き、背後霊のように寄り添う。


「ええっ!? こいつと一緒かよ」

「くっ、……殿下の下知とあらば」


 オキアとジュリアスは顔をしかめるが、皇女の提案にクラスはポジティブな反応を示した。


「この五人で組んだら優勝確定じゃん」

「勝負になるわけねえ」

「もはや火を見るより明らか」

「どうせならぶっちぎっちゃえよ」


 などと、はやし立てる。


 マルコは規格外、シルフィは特別。

 クラスメイトは既にその認識を共有していた。


 例外の二人を除いても、ジュリアスとオキアは一年でトップを争い、ルカも冒険者になれば将来的にB級以上が確定しているような逸材だ。

 演習が始まる前から、結果が見えているくらいの酷い戦力である。


「なるほど、それは名案かもな」


 マルコもヘルミナの案に賛成する。


 名案に違いない。

 なぜなら元S級冒険者率いる犯罪組織、ナイトシフトがシルフィをターゲットにしているのを、マルコもヘルミナも知っているのだから。

 その情報を知っているのは、ノーステリア平原へ行った面々を除いたら、お偉いさん達だけだ。


 ヘルミナは、マルコをシルフィの傍に置いておくべき、と判断したのだろう。


 皇女様の合理的な判断を聞いて、マルコは思い返す。

 スライム使い打倒トーナメント。

 あれはマルコを帝國に取り込むための布石だと思っていたが、他にも理由があったのではないだろうか。

 帝國の皇女としては、たしかにそうだったのだろう。

 しかしヘルミナ個人として、シルフィの近くに存在する不確定な要素を見極めたかったのでは?


 思考の迷路にはまり込むマルコの隣で、シルフィは白いモフモフを撫で続ける。

 その瑠璃紺の瞳は、盛り上がるクラスの中、ルカが浮かない顔をしているのを見逃さなかった。






 帝國の北東、幾つもの都市国家が連なる都市連合との国境に近い、ノーステリア平原のさらに奥地。


 魔物がうろつき、人の寄りつかぬ未開の山中に、小さな砦が築かれていた。

 遠目には木々に紛れて気づかぬほどの小さな砦は、比較的日の浅い建築物のようだ。


 まだ戦の跡もないその砦に、一人の男が姿を見せた。

 男の旅装束は一見、魔法使いの冒険者にも見える。

 どこか粗野な印象のその男が通ると、百名近い荒くれ者の集団がためらうことなく、先を競うように道を空けた。


 帰還したナイトシフトの頭領、魔蟲(バグ)使い(マスター)パルティマスはもう一人の頭領、血を分けた兄に勢い込んで話しかける。


「兄者、シルフィネーゼ・ノーマッドを捕らえそこなったというのは真か!?」

「留守中のことなど知るか。こちらも都市連合への工作に忙しかったのだ。へまをしたダルジンに言うがいい。もっとも、もう届かないだろうがな」

「ダルジンか、使える男だと思ったのだが……」

「あんなものしょせん引き際を間違えた負け犬に過ぎん。あれが魔大陸で成功できるくらいなら、十英雄ではなく、キルキスの勇士隊が伝説の英雄ともてはやされていただろうよ」

「くそっ、まさか俺の嫁が帝都から出てくるとは。千載一遇の好機だったというのに……」


 面識のないメセ・ルクト聖教の愛娘を嫁と言い張る弟に、兄は冷淡だった。

 その眼差しは家族に向けるものではなく、変質者に向けるそれだ。


「弟者よ、小娘一人に執着してるとロリコンにしか見えんぞ」

「何を言うか! 兄者も同意したではないか! ノーステリアに国を建てるに際し、神殿の権威をも利用すると!」


 直情的で考えの浅い弟に対し、思慮深いインテリを自認する死霊(ネクロ)使い(マスター)ヴィルマーンは、やれやれと呆れたように息を吐く。


「事を起こす前に抱え込んでも、動きづらくてかなわん。帝都が陥落してからで十分だろう」

「だいたい兄者が王妃にしようとしてるパラティウム帝立学園の学園長こそ永遠のロリではないか!」


 学園長ではなく理事長である。学園長は白髪のおばあちゃんだ。


 ふっ、と冷笑を浮かべるヴィルマーン。

 なお弟の勘違いなどわざわざ訂正しない。


「違うな。あれは私より年上だ。人脈、能力的に申し分なく、我が子がエルフの長寿を受け継ぐ可能性もあるとなれば、あれこそ我が妻となり国母となるにふさわしい女よ」


 はっ、とパルティマスは一笑に付す。


「我らが生きている間はともかく、あれが王妃になったら国が乗っ取られかねんぞ」

「それをいうならシルフィネーゼも同じだろう。神殿に乗っ取られたらどうする」

「それこそ小娘にそんな力は無いわ! 神殿を後ろ盾の一つにとどめておくなどたやすいこと。子を長寿にしたければ他のエルフでもいいではないか、このロリコン兄者が!」

「ほう、私は知っているぞ、弟者が三年前のシルフィネーゼ・ノーマッド聖地巡礼の際に描かれた姿絵を大事に保管しているのをなあ」


 どっちもどっちなくだらない口喧嘩に巻き込まれないよう、部下達はさりげなく距離をとった。

 近くにいてとばっちりを食らったらたまらない。

 さすがにこんなしょうもない口喧嘩に巻き込まれて死んだら、死んでも死にきれない。


 この二人が異常な能力の持ち主なのを、彼らは知っている。

 だからこそ、彼らはナイトシフトのメンバーとなったのだ。


 ヴィルマーンとパルティマスが築き上げるであろう、新たな歴史を共にするために。


「帝都の美人談義もよろしいっすが、そもそも混乱してるであろう帝都からその二人を探し出して連れ出すのって難しそうっすね」


 そんな中、勇気ある部下が話をそらしにかかる。

 小者っぽい話し方をするが、二人が留守の間、代理としてナイトシフトを任される副頭領なだけのことはある。


 弟のパルティマスが、つまらぬ事を今更聞くな、とばかりに鼻を鳴らす。


「ふん、あの二人の居場所ならすぐにわかるだろうよ。学園と神殿の関係者が一番集まっているところにいるに決まっている」

「何も帝都で事を起こす必要も無いのだ。どうせ崩壊するのだからな。その後の警備など、どうとでもなるであろう」


 ヴィルマーンは弟と違った答えを返すが、どう転ぼうとたいした手間ではない、という認識に違いはない。


 帝都が陥落し、帝國が混乱している状況で、彼らを止め得る戦力など存在しない。

 唯一警戒すべき帝國最強の戦士、百手巨人(ヘカトンケイル)殺しの英雄サーラターナといえども、彼らの策の前には全くの無力であろう。


「準備は整ったのだろうな。弟者の担当する西こそが本命なのだぞ」

「無論だ兄者よ。準備に十年も掛けたのだ。我が秘術の集大成を見せてくれよう。帝國騎士団なぞ、三年前の借りごとまとめて葬り去ってくれるわ」


 魔蟲使いパルティマスが豪語する。

 三年前の帝國軍との戦いは、彼らにとっても苦い記憶。

 帝國を追われた借りは、何倍にもして返すつもりだ。


 比類なき力によってS級に上り詰めた兄弟は、その大言壮語が現実のものとなるのを確信していた。


 彼らは知らない。


 帝國騎士団も英雄サーラターナも遠く及ばぬ、桁外れの戦闘力を誇る人物が帝都にいることを。

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