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三十話 盗賊団との戦い! マルコの策!


 メセ・ルクト聖教、いわゆる神殿の教義には次のような言葉がある。


 ――汝の隣人に手を差し伸べよ――


 敬虔なるシルフィネーゼ・ノーマッドは、たとえば学園内で見知らぬ人がお腹を押さえていると、手を差し伸べるほどには教義に忠実である。

 しかし、彼女もただ世話焼きなわけではない。


 ノルマリアの冒険者ギルドに冒険者の姿は無かった。

 この辺りで活動している冒険者はいないはずだ。


 魔物の出る危険な森の小道に一人でいるガルドを不審に思い、シルフィは足を止める。


 不思議そうな顔をするホリー先生を除いて全員が足を止めた。


「えっ? あっ」


 ホリーも遅ればせながら状況の不自然さを理解し、立ち止まる。


 そんな中、ガルドと面識のあるマルコが一歩前に出た。


「ガルド、こんなところでどうしたんだ?」


 マルコが警戒している様子を見て、ガルドはどこかほっとしたような顔を見せる。

 そして、泣き出しそうな顔をして立ち上がり、剣を抜く。

 彼が現役の頃に愛用していた剣は、今も変わらず手入れが行き届いていた。


「マルコ、すまん」


 切っ先を向けられたマルコも顔を歪める。


 ノーステリア平原周辺を荒らしているという盗賊団はヴァリオスやユリアン、シルフィのいるマルコ達を見逃すだろうか?


 仮に狙うとしたらどこで襲撃してくるのか、ノーステリア平原で魔物と戦っているときだろうか、それとも――。


 疲労を考えると、帰り道が一番危ない。


 マルコはノーステリア平原で魔物を狩っている最中、あえて少人数に分かれて誘いをかけてみたが、盗賊団の気配はなかった。


 しかし、安心するのは早かった。

 やはり盗賊団は一行に狙いをつけていたのだ。


「おっと、相手が一人と思うなよ」


 森の中から下卑た声が投げかけられる。


 前後左右の、木陰、繁みからぞろぞろと盗賊が姿を現してくる。

 その数は、十や二十ではない、……四十を超える。


「……これはまた、随分と集めたものだね」

「ふん、烏合の衆に過ぎん」


 ヴァリオスとユリアンが硬い表情をして背中を合わせる。

 囲まれたマルコ達はじりじりと一カ所に集まった。


 盗賊団の中に見知った顔、かつてマルコをいじめていた四人組を見つけ、マルコの目が細まる。


 その一人が腕に赤子を抱いて、ナイフを突きつけていた。


 ガルドの子だ。

 ガルドは盗賊団の一味ではなく、人質を取られていたのだ。


 マルコは安堵と同時に焦慮に駆られる。


 ――奴らは許さん。だがマルコの決意とは裏腹に、事態は想定以上に深刻だった。


「へっへ、この数相手じゃ、いくら天下の帝國騎士様といえども守り切れまい」


 ゲスな笑いを浮かべる盗賊達だが、少なくともマルコとロロは事前に伏兵の気配をはっきりと感じ取っていた。


 マルコにとっての想定外は人質の存在である。

 しかしロロにとって人質などどうでもいいことだ。

 そんなことで敵を蹴散らすことに躊躇する『狂剣』ではない。


「おい」


 ロロの短い問いかけには「オレは人質なんて気にしねえぞ、護衛対象(シルフィ)に危険が及ぶと判断したらその前に叩っ切る」という意味が込められていた。


「わかってるよ」


 一歩前に出ていたマルコは、承知している、と頷き、険しい表情のままさらに一歩前へ。


「おおっと、動くなよ。そこから一歩でも前に出たらこいつの命はないぞ」

「うぅっ、や、やめてくれ……」


 赤子の喉元に刃先が食い込み、呻いたのはマルコの恩人、元B級冒険者のガルド。

 彼は緩慢な動きでマルコの前に立ちはだかり、剣を構える。


 マルコはその場で大きく息を吸った。


「でてこい、ダルジン! 俺だ! マルコだ!」


 静まりかえった森の中、まだ複数の気配が息を潜める繁みへ声を叩きつけた。

 反応がないと見るや、声に嘲笑を混ぜる。


「四年前のあんたがそれだけ慎重だったら、メリッサ達が死ぬこともなかっただろうになぁ!」


 マルコはかつての仲間を、命の恩人を挑発する。


 目玉スライムの索敵能力は人間相手には絶大な効果を発揮する。

 姿を隠しているつもりだろうが、わずかでも視線が対象に触れれば、名前もステータスも丸見えだ。


 ガサッ。


 繁みが揺れ、姿を現したのは薄汚れた一人の男。


「……あのガキが、ずいぶんと言うようになったじゃねえか」


 口調こそ余裕があるものの、ダルジンのマルコに投げかける視線は攻撃性を剥き出しにしていた。

 過去の痛みに触れられた怒気が元A級冒険者の闘気と相まって、物理的な圧力となり肌をひりつかせる。


 隻腕のダルジン。


 その名の通り、利き腕を失ったダルジンは変わり果てていた。盗賊団の首領というが、見た目からは山賊と表現した方が正確だろう。


 無力な自分を守ってくれた男の変わり果てた風貌に、マルコの瞳が揺れた。


「あんたこそ、ずいぶん変わっちまったようだな」

「ふん、俺のことなんて気にするようなもんじゃねえよ」


 全てを失った男は自身の事も他人事のように吐き捨てる。


 言葉を吐くと同時に感情も投げ捨てたのか、怒気がしぼみ、マルコに向けた視線からは少し険が取れた。

 親しみが込められたのではない、ただ感情が希薄になっただけだ。


「ああ、ガキが結構な使い手になるくらいの時間が過ぎたか……」


 別れたときのひよっこは、見違えるほどにたくましく育っていた。


「ダルジン、……どうして、あんただったら片手でも……」


 片手でも盗賊に身をやつすことなどなく生きて行けたはずだ。


 だが、マルコはそれ以上訊けなかった。

 もう届かない。もう遅いのだ。

 あの時、壊れた男はもう二度と戻ってこない。

 重ねた罪がダルジンを放さない。


「こいつらからスライム使いのマルコって名を聞いたときは驚いたぜ」


 ダルジンは口元を歪めた。その生気のない目が四人組と赤ん坊、ガルドを見やる。


「!? あの子を人質に取ったのは……」

「ああ、『狂剣』がいるって話だしな。せめて他の戦力だけでも念入りに潰しとかねえとな。使える戦力はかき集めたぜ。そこの男はお前の知り合いだそうだが、その様子じゃまんざら嘘でもないようだ」


 ダルジン自ら赤ん坊を人質に取るという非道な手を選んだのだ。それがマルコの心を氷のように冷たく落ち着かせる。


「へっ、不思議なもんだ。マルコとはほとほと縁があるらしい。それもここで終わりだが」


 ダルジンはあの場で全てを失った。

 マルコはこの場で全てを失う。

 そう思いながらもダルジンの瞳に喜悦が浮かぶことはなく、ただただ変わることのない諦観が漂う。


「ダルジン。最後に一つ聞かせてくれ。なぜ帝國騎士、それも序列一桁(アムカ)がいるのにわざわざ危険を冒してまで俺たちを襲う? もっとやりやすい相手はいくらでもいるだろ。何が目的なんだ?」

「そこの娘はえらく価値があるんだとさ。見てくれなんかじゃなくな。能力、血筋、権威。いくらでも金と人を集められる」


 自分が狙われていると知っても、シルフィは気丈にも顔色を変えずぴくりともしない。


 マルコは、ホリー先生を除いて動揺の気配を全く感じさせない背後の仲間を内心で賞賛しながらも、小さく両手を挙げて、軽い調子で、


「降伏するから俺だけ見逃してくれ、っていうわけにはいかないかな?」


 そう言い、剣帯ごと剣を投げ捨てた。

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