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二一話 オーク殲滅戦! 忍び寄る影!


 綿密な情報交換、職人(マルコ)による巧みなスライムの微調整により、肌触りの再現こそできなかったものの、人肌のぬくもりの再現に成功し、オーク討伐隊の心がさらに固く結ばれた頃、馬車は南西の森入口の砦に到着した。


 到着を告げるため幌の中を覗き込んだ御者が、スライムまみれな冒険者達を見てひっくり返ったのを除けば、きわめて順調な旅路だったといえよう。


 固く結ばれた男達の絆、オーク討伐隊の士気の高さは、砦に駐留する軍隊すら驚かせるほどだった。


 マルコとオキア、『とろける炎の剣』は『ダンケダンケ団』とともに魔物の巣くう、昼なお暗い森に挑んでいた。


 オーク討伐隊の目標はオークを倒すことではない、殲滅である。

 その為、十二名の冒険者は三手に別れた。


 最も実力が高いとされる、B級冒険者の剣士を含む四人パーティーが先行し、オークの巣を迂回、背後から襲いかかる。

 オークの巣を発見したC級パーティー三人組は、B級パーティーを道案内し、途中で違う方向に潜む。

 C級パーティー三人組『ダンケダンケ団』と『とろける炎の剣』の計五人が遅れて進み、反対側から包囲する。


 一匹たりとも逃すつもりはない。逃すわけにはいかないのだ。


 マルコが全部一人でやればいいんじゃないか、と指摘してはいけない。

 あくまで十二名によるオーク討伐である。

 マルコ一人で偵察しました、逃げ道塞ぎました、殲滅しました、では経験を積むべきオキアを含め誰のためにもならないだろう。

 それに報酬や評判を鑑みても、新たな問題を生じかねない。


 一人偵察に出ていたハーゲンが慌てて戻ってくる。


「ダイアウルフ五匹だ!」

「よし、ちょうど一人一匹だ、頼むぜ『とろ剣』!」


 モヒカン部分に隙間が空いた兜を装着して、ヒャッハが指揮を執る。


 ダイアウルフとは『初心者殺し』とも呼ばれる狼の魔物である。

 ちゃんと装備を固めた戦士系の冒険者なら、E級でも十分対処できる程度の魔物だ。

 ただし一対一であるならば、という条件がつく。

 群れに襲われてはひとたまりも無い。

 バランスの良いパーティを組み、しっかり装備を整える。それができればダイアウルフの群れにも負けないだろう。


 初心者は卒業といっても良い。だからこそ『初心者殺し』。


「おいしょっと」


 牙をむいて飛びかかってくるダイアウルフの勢いを利用し、マルコが下から剣を跳ね上げる。狼の首元を狙ったミスリルの剣は、容易く魔物の首を切り裂き、一振りでダイアウルフを絶命させた。


「うおおぉぉ!」


 オキアはダイアウルフの鼻っ柱を剣で叩いて、怯んだところを上段から思い切り振り下ろし首を落とす。


「喰らえやあ!」


 ヒャッハは巨大な盾をダイアウルフにぶつけ、手斧でその頭をかち割った。


 あっさり片付けた三人に比べ、斥候のハーゲンは鎖鎌の分銅を振り回し威嚇し、じりじりと有利なポジションを取る。急ぐことはないのだ、ヒャッハがあっさりとダイアウルフを倒し加勢にくることをハーゲンは知っている。


 魔法も使えるボンバールは、しかし魔法よりも槍を選んだ。魔法を当てるにはダイアウルフは素早く、オーク討伐までMP(マジックポイント)も温存しておきたい。

 こちらも槍を構えたボンバールと唸り声を上げるダイアウルフがにらみ合っている。


「スライムアロー!」

「ファイアアロー!」


 マルコとオキアが魔法? を放つ。


 ボンバールと対峙したダイアウルフが、マルコのスライムアローに貫かれ、ボンバールはとどめとばかりに槍を突き刺す。


 ハーゲンが戦っていたダイアウルフは、オキアのファイアアローを避けようとして体勢を崩した。

 前足が地面から離れた瞬間、分銅がその鼻っ柱にたたき込まれ、続いて鎌が襲いかかる。


「ひゃっはあああ!」


 ザシュッ、ザシュッ。


 ハーゲンが興奮した殺人鬼のような形相で鎌を振るい、ダイアウルフの命を刈り取った。


「へへっ、いい腕してるじゃねえか」


 一転、ハーゲンは人懐こそうな笑顔を浮かべ鼻をこすると、助勢した『とろ剣』の二人に礼を言う。

 ボンバールもまたクールにサムズアップして二人に礼を示す。


 そのボンバール、何が気になったか、ダイアウルフの死骸を検分して唸った。


「……むう、これは!」

「どうしたボンバール!?」


 ヒャッハが知恵袋のボンバールに問う。

 ボンバールはリーダーのヒャッハに、ダイアウルフの傷口を指差した。


「これは……まるでアシッドアローだ。スライムを魔法のようにとばすとは……。おそろしいスライム使いがいたものだ」


 アシッドアローは初級攻撃魔法だ。

 ただし複合魔法という、難しい魔法でもある。

 習得者は決して多くない。まして無詠唱で同じ効果を得るとは……。


『初心者殺し』ダイアウルフに穿たれた丸い穴は、心臓まで達していた。






 そんなこんなで、マルコ達一行は魔物に襲われたりもしたけれど、誰一人怪我することもなく、森の中、オークの楽園に難なくたどり着いたのであった。


 切り開かれた広場は、縄張りを示すかのように丸太で囲われていた。

 倒れた丸太で囲んでいるだけの粗末な陣地。建物らしきものはない。


 あるいはうろつき、あるいは切り株に腰掛け、オークの姿が確認できる。

 

 幸いなことにオークの巣へと運び込まれた女性もいないようであった。


「へっ、あれだな」


 ハーゲンがそう言って、オークを数え始める。


「一、二、三……十匹か。ちっ、オークジェネラルが一匹混じっていやがる」


 一番大きな切り株に腰掛け、冒険者から奪ったのか拾ったのか粗末なハルバードを傍らの大地に突き立てた巨躯の豚鬼(オーク)

 その体躯は人喰い鬼(オーガ)並みだ。


 B級下位の魔物とされるオークジェネラル、見るからにオークとは違うその威容に、オキアは唾を飲み込んだ。


 C級冒険者だけだったらやばかったな、とマルコは思った。

 帝都の冒険者ギルドがしっかりB級冒険者を混ぜておいたのは、さすがの一言だ。


「先行してる他のチームは?」


 オキアの問いにヒャッハが懐に手を入れ、小さな笛を見せた。


「合図用の笛は持ってるんだが……」


 できるなら奇襲を選びたい。最初の一手は重要だ。


「俺が巣の周りを一周してくるぜ、近くにいったら接触してくるだろ」

「ハーゲンこの馬鹿野郎! どうして四方からじゃなく三方から囲んでると思ってんだ!」

「全くお前はいつも……、風上に立ったら匂いでバレるだろう」


 首を振るボンバールの指摘通り、オークの嗅覚は鋭い。

 四方から囲まないのは、風上に陣取るのを避けてのことだ。


「おっふ。へへへ冗談だって、風下から廻って同じ道を戻ってくるか?」

「いや、もう確認できた。あそことあそこ」


 マルコが茂みを指差す。


 目玉スライム製コンタクトレンズはしっかりと先行する冒険者が潜んでいる姿をとらえていた。


「おお、まじかよ。……まじだ。いい目してるじゃねえか、俺以上だぜ」

「となると、どう先制するかだな。オークジェネラルを封じられるかどうかだが」


 そう言って、ボンバールが顎を撫でる。


 できれば最初にオークジェネラルを倒したい。

 倒せないまでも、戦闘力は削いでおきたい。

 自信が無ければB級冒険者の率いるパーティーに任せるべきだ。

 しかし、あそこの魔法使いは器用ではあるが、攻撃魔法の威力が高いわけではないそうだ。


 マルコとしては、やはりオキアが懸念である。


 オキアの実力ならオークに不覚を取ることはないだろう。

 だが、オークジェネラルとなるとそうはいかない。

 一撃でやられることはまずないだろうが、膂力の差を考えるとまだまだ相手取るには危険過ぎる。


 それはオキアに限らない。

 おそらくオークジェネラルを任せられるのはB級冒険者の剣士だけだ。

 彼でも楽勝というわけにはいかないだろう。


 下した決断は、オークジェネラルはマルコ自身が最初に仕留める。

 あとは流れのままに、というざっくばらんなものだった。


「オークジェネラルは俺がやる。任せてくれ」

「……わかった。それなら私は左を」

「俺は右ってことだな」

「タイミングは俺が合わせるから、先に二人で同時に狙ってくれ」


 ボンバールとオキアが頷く。


 C級冒険者がオークジェネラルを仕留める。

 分不相応な発言に聞こえるが、ボンバールはあっさり受け入れた。

 先ほどのスライムアローは速度、威力、精度ともに一流の魔法使いと比較しても遜色ないレベルであったのだ。


 狙いを定め、ボンバールとオキアが詠唱を始める。

 マルコもオークジェネラルに手を向け、二人の詠唱が終わるタイミングを計る。


「ライトニングスライムアロー!」

「ボムブレイズ!」

「ファイアランス!」


 雷の矢と化したスライムが、回避どころか、まばたきすら許さず、オークジェネラルの下半身を爆散させる!


 一拍遅れて、爆発と炎の槍がオークを襲った。


「ブアァァッッ!?」


 いきなりリーダーを失い、混乱しながらも武器を手に取り態勢を立て直そうとするオークの群れに、今度は違う方向から魔法と矢が降り注ぐ。


 悲鳴を上げ倒れるオーク。


 そこにB級冒険者の剣士が剣を片手に茂みを飛び出した。


「かかれっ!」


 彼の号令と共に、冒険者が続々と姿を現す。


「うおおおおおぉぉお!」


 ヒャッハも鬨の声を上げ続く。


 こうして冒険者達はオークの住処に襲いかかった。






「オキア、そいつで最後だ!」

「わかって、らあっ!」


 マルコの声に応え、オキアが剣を振り下ろす。


 肉を切る重い感触と共に、オークの命の火が急速に消えていくのが、剣から伝わってくる。


 オークの群れ、最後の一匹が血だまりの中に倒れていった。


 最初にオークジェネラルを含め、半数の五匹を戦闘不能に追い込んだのが功を奏していた。


 意外なほどあっさりと片付き、オーク討伐隊の面々は大きく息を吐く。


 盾役として体を張ったヒャッハが右足に怪我をしてるのを見て、マルコがポーションスライムを貼り付ける。軽い怪我ならこれで十分だ。


 切り株に座るヒャッハは、マルコに謝意を示して、ぽつりと呟いた。


「へっ、……これで俺たちも感謝してもらえるんかなぁ」

「俺らのリーダーが何しけたこと言ってんだ」

「ハーゲンの言うとおりだ。今まで我々がどれだけ依頼をこなしてきたと思ってる」


 オキアの過去を聞き、自分達の過去、冒険者を志した頃を思い出したのかもしれない。

 ヒャッハは将来有望な後輩に、自分達の歩みを伝えたかったのだろう。


「俺たち『ダンケダンケ団』は幼なじみでなぁ。貧しい農村の次男坊、三男坊だった」

「貧乏だけどいい村なんだぜ、貧乏だけどな」

「幼き頃から一緒に冒険者になろうと誓っていたのだよ。そして村を出るとき――」

「村のみんなが剣や防具をくれたんだ。使い古しの粗末なものかもしれねえが、村中からかき集めて修理してくれてな。嬉しかったなぁ」


 照れくさそうに鼻の下をこする、ヒャッハのモヒカンが揺れる。


 それからヒャッハ達は、村のみんなへの感謝の気持ちを忘れないように、いつかいろんな人々に感謝されるような冒険者になってみせる、という気概でパーティの名を『ダンケダンケ団』と決めたのだそうだ。


 ダンケダンケ団の名の由来が意外にまともなものだったので、『とろける炎の剣』の二人は気まずそうに目をそらした。


 とろ剣……臨時とはいえ少々ふざけすぎたかもしれない。


「……でも俺は『スーパーイスガルド人スリー』のほうが良かったと思ってるぜ」

「「「「それはない!!」」」」


 ハーゲンの大陸級センスは全会一致で否決された。


 オーク討伐が無事に終わり、気が緩んでいたのだろう。


 異変を察知したのはマルコだけだった。


「オキアッ! 後ろっ!」

「えっ……」


 自分の声を遠くに聞きながら、オキアは何者かに吹き飛ばされ、宙を舞っていた。

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