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十九話 集え! 勇敢なる冒険者諸君!


 その少年、マルコは冒険者ギルド内で噂となった要注意人物である。

 受付嬢だけではない、マルコに気づいた他の職員にも緊張が走る。


 素行が悪いというわけではない。一度しか来ていないのに素行が悪かったら相当だ。


 しかし、そのたった一度で、この少年は要注意人物に指定されている。


 マルコはギルドに来るなり、こう言ったのだ。


「魔物素材の買い取りお願いします」


 獲物は空間収納に入っており、大物だから受付隣のカウンターでは無理だという。


 そうして向かった解体部屋で、ショッキングな事件は起きた。


 マルコが獲物を取り出したところに立ち会ったベテラン職員は、ギックリ腰を再発した。

 彼はC級冒険者でありながら、あろうことか氷竜を丸ごと取りだしたのだ。


 ワイバーンなどの亜竜ではない、氷竜は正真正銘のドラゴンである。

 ドラゴン丸々一頭なんて、A級冒険者パーティーですら不可能だろう。


 十年に一度とない大物に、ギルドは大騒ぎに陥った。


 冒険者ギルドどころか商業ギルド、職人ギルドまで巻き込み、職員達は解体、分配、オークションにと走り回るハメになったのだ。


「まさか、また……」


 騒ぎを起こそうというのか。

 今度は何をしでかす気か、と怯えながらも、マルコを毅然と睨みつけ警戒する受付嬢。


 いくら何でもまたドラゴンなんてことはないだろう。

 そんな常識はマルコには通用しない。

 ドラゴンならいくらでも収納している。


 依頼の張り出されている掲示板をのほほんと眺めていたマルコは、ふと受付へ顔を向ける。


「っ!?」


 目が合いそうになって、受付嬢は慌てて視線をそらした。


 一通り依頼掲示板を眺め、興味をなくしたマルコは受付には向かわず、併設する酒場兼食堂へと向かう。

 ギルドの酒場というのは、情報収集にもってこいの場所だ。

 マルコは、せっかく足を運んだのだから情報収集がてら何か摘まんでいくのがいいだろう、と椅子に座った。


「……ほっ」


 受付嬢は緊張から解放され、肩から力を抜く。


 しかし、彼女が忙しくなるのに、そう時間は掛からなかった。


 マルコが、味付けの濃い豚肉ともち米のシチューを食べ終わる頃、冒険者が息せき切ってギルドに駆け込んできたのだ。






 訓練場で一汗流してきたオキアは、掲示板に群がる人だかりの中に、見慣れた、ねずみ色の頭を見つけた。


「あれっ、マルコか。冒険者ギルドで会うなんて珍しいな?」

「オキア? 訓練場か?」

「ああ、今、終わったとこ」


 オキアは、いやに硬い表情をしているマルコを、不思議そうに見る。


 マルコは鎧を身につけてないばかりか、剣すら帯びていない。

 冒険者ギルドに来る冒険者の格好ではなかった。


「マルコ。……これ、何の騒ぎだ?」


 そろそろ昼時になろうかという、この時間帯、ろくな依頼はないはずだ。

 なのに掲示板に張り付く冒険者達の間には、妙な緊迫感が漂っている。


「緊急討伐だってさ」


 マルコは視線で依頼を示す。


 そこには他の依頼と区別するため、赤ペンでチェックされた依頼が貼り出されていた。


「げっ、オークの巣!? ……こんな帝都の近くでかよ?」


 帝都の周辺は魔物が少ない。騎士団や軍隊が巡回し、駆逐していくからだ。

 しかし、彼らの巡回ルートは限られている。

 彼らの手の及ばぬ、街道から外れた場所では冒険者の出番となる。


 たとえば、今回オークの巣が発見された南西の森。

 帝都の冒険者にとっては庭ともいうべき、おなじみの場所でもある。


 緊急討伐依頼を見るオキアの顔もまた、マルコ同様の硬いものになる。


 オーク。

 最も嫌われる魔物の一つ。

 何しろオークは人間の女性をさらい繁殖する。

 発見しだい、即駆除とされる魔物だ。


「マルコはこの依頼受けるのか?」

「……ああ」


 マルコは頷く。


 オーク程度なら帝都の冒険者で充分対処できるはずだ。

 とはいえマルコはこの地に来てから、依頼を一つも受けていない。

 ずっとギルドに貢献していないと、C級冒険者がC級(仮)冒険者にランクダウンしてしまうのだ。

 普通の依頼よりギルドポイントの加算が大きい、緊急依頼は受けておくべきだろう。


「そうか、俺はまだEランクだからな……」


 オキアは悔しそうに顔を歪めた。


 オークの緊急討伐、その依頼にはC級以上と記載されていた。

 つまり今のマルコのランク以上ということだ。

 マルコがC級というのはランク詐欺以外の何物でもないが。


 マルコは体育の授業で見てきた、オキアの戦闘訓練を思い出す。

 オキアがまだE級なのは実績が足りないからであって、実力だけを見ればC級にも届いているだろう。


「オキア、臨時パーティーを組まないか?」

「えっ、いいのか!?」


 パーティーを組めば、一番ランクの高い冒険者に合わせた依頼を受けられるのだ。


 ニヤリと笑うマルコの、サムズアップした親指は「俺たち友達じゃないか」と力強く主張していた。






 緊急討伐の募集があってしばらく、オーク討伐隊を乗せた幌馬車は南西の森へと進んでいた。

 冒険者ギルドが用立てた馬車は、質実剛健を絵に描いたような代物であり、それを引く二頭の馬もまた軍馬に見劣りしない体躯で、土を叩き固めた道を力強く踏みしめていく。


 その速度は乗合馬車より速く、速さに伴い、勇敢なる冒険者達の尻に継続ダメージを与えていた。


 うららかな空の下、幌の中にこもった熱気を風がさらっていく。


 計十二名のオーク緊急討伐隊。

 臨時パーティーを組んだ、マルコとオキアの二人も馬車に揺られていた。


 まず目指すのは、南西の森を監視するために築かれた小さな砦だ。

 砦には軍隊が常駐しているが、彼らの役目はあくまで森の監視である。

 森から出て来た魔物ならともかく、森の中は管轄外だ。


 森の中に入るのは、冒険者の仕事なのだ。


 マルコとオキアが組んだ臨時パーティー、その名は『とろける炎の剣』。

 とろけるのあたりに、スライム使いの矜持と自己主張が見受けられる。


 二人とも臨時パーティーは初めてではない。

 オキアは冒険者になって最初の依頼を、ギルド職員に勧められた臨時パーティーでこなしている。

 マルコも冒険者になりたての頃、臨時パーティーを組み、……散々な目に遭った。


「でも納得いかねーよな。マルコがまだC級なんて」


 そういってオキアはダメージを減らそうと、敷物の上で尻をずらす。


 元A級の帝國騎士ロロに勝った時点で、マルコの実力は少なくともA級以上のはずだ。

 オキアはギルドの訓練場でA級冒険者同士の訓練を見たことがあるが、マルコとロロの戦いはA級と比較してすら次元が違って見えた。


 A級どころかS級ですら、マルコほどのレベルではないだろう。

 学園は生徒のレベルを公開しないが、生徒間ではその限りではない。

 オキアはマルコの八三という、信じられないようなレベルの高さを知っている。


「俺がいたリョーシカって街は、依頼の絶対数が少ないんだ。あっちじゃ護衛なんか雇わないし、本当に必要なら魔王軍に頼む。巡回や緊急討伐も魔王軍の仕事だ。だからベテランで凄腕の冒険者でも、A級には届いてなかったんじゃないかな?」


 魔都リョーシカでは、依頼の達成率と数によってランクが上がっていく冒険者ギルドの仕組みが機能していなかったのだ。


 そもそもドラゴンを倒す見習いF級冒険者や、一般人すらいる場所だ。

 冒険者ランクが実力を表さない、というのは常識だった。


 実は、マルコのランクが低いのは他にも理由がある。

 魔王城に居候していたマルコは、希少価値の高い素材を魔王軍の料理人や薬師、鍛冶師に直接手渡していた。

 冒険者ギルドを仲介していなかったのだ。


「おうおう、坊や達、『とろける炎の剣』だったか?」


 雑談をするマルコとオキアに、横合いから声がかかった。

 声の主を見て、オキアはぴくりと頬を引きつらせる。


 その男はトゲトゲだらけのスパイクアーマーを身に着けた、泣く子も黙る、凶悪な人相のモヒカン男だった。


 マルコは顔色一つ変えず、重戦士なのに兜は被らないのだろうか? と、頭部に注目している。


 あのモヒカンはどうやってセットしているのだろう。


 スライムから抽出した整髪料……、売れるだろうか?


 マルコの思考はあさっての方を向いていた。

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