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十六話 対決! スライム使い対帝國騎士!


 控え室で装備を整え、マルコが闘技場に姿を現すと、大きな歓声が巻き起こった。

 残念なことに、歓声のほとんどは、今か今かと待ち構えていた理事長ファンクラブとシルフィ親衛隊による熱烈な罵声である。

 どうやらスライム使いのヒール役は決まっているようだ。


「マルコを潰せ! マルコを殺せ!」

「マルコを潰せ! マルコを殺せ!」


 一糸乱れぬ連携力に、ディアドラとシルフィは揃って「自分とは一切関係がない団体です」と主張するかのように無表情になっている。


 ――この中を鼻ほじりながら入場したらどうなるだろう。

 そんなことを考えながら舞台へ歩んでいるマルコに異変が生じた。


 余計なことを考えたばっかりに、本当に鼻の穴がむずむずしてきたのだ!


 まさか、ここで鼻の穴に指を突っ込むわけにもいかない。


「くっ、これはまずい。いったん引き返すか……いや、それも逃げたっぽくて……」


 関係者席のシルフィ達は、葛藤するマルコの姿をしっかり見ていた。


「マルコは何をニヤニヤしてるんでしょう?」

「自信があるのではないか?」

「困りますわね、もっと緊張感を持っていただかないと」


 平均年齢アラサーの美少女トリオは平静だったが、そんなマルコの様子を見て、ふざけていると思いボルテージが上がってしまった連中がいる。


 そう、皇帝陛下率いるディアドラ理事長ファンクラブとシルフィ父擁するシルフィネーゼ・ノーマッド親衛隊である。


 しっかり火に油を注いで入場したマルコ、その姿は普段の制服姿ではない。


 使い込んだ革製装備一式にミスリルの剣を身につけ、いかにも冒険者、といった姿だ。

 その革が実は地獣ベヘムトの革だということには、この場の誰も気づいていない。


 海獣リヴァイアサン、天獣ジズと並ぶ三神獣の一柱、地獣ベヘムトである。

 この世に一体しか存在せず、命を落とせば、どこからともなく新たな後継が生えてくるという謎生命。

 神話上の生き物だ。


 マルコは三神獣の素材を大量にストックしていることを、この大陸では誰にも話していない。

 信じる者はいないだろうし、いたらいたで市場が混乱するからである。

 特に魔王軍と合同で討伐したベヘムト、リヴァイアサンと異なり、マルコ単独で撃破したジズの素材は丸ごと一羽? 残っている。


 ディアドラは知らない。自分が食し絶賛した焼き鳥、マルコの言う『でっかい鳥』が伝説の神獣ジズだと言うことを。


 知らぬ間に神獣を食わされているディアドラは、ヘルミナから何やら耳打ちされ、関係者席から移動しているところだ。


「さあ、いよいよ話題のマルコ選手の戦いぶりが見られますが、解説のルミナリオ様。スライム使いとは一体どのような戦い方をするのでしょうか?」

「正直、私にもわかりかねますね。スライムを使いどう戦うのか、興味深いところです」

「それについては及ばずながら私が助力しよう」


 なぜかルミナリオの隣に設けてあった席に、ディアドラが座る。


 ヘルミナがこう、せっついたのだ。


「解説席に座るのがロロの上司だけでは、マルコのフォローができませんわね」


 ルミナリオとしては予想外の展開だ。


 ……午後になり、皇女の指示で解説席が一つ増えていたのはこういうことだったのか、と端正な口元を苦々しく歪める。


「これはお久しぶりです、理事長」

「うむ。ロロの件以来だな」

「……」


 ルミナリオは曖昧な笑みを浮かべ、お茶をすすった。


 ディアドラが目をつけたロロを、帝國騎士団に横取りしたのはルミナリオである。

 単独行動好きな団長がほとんど騎士団の運営に関わらないため、帝國騎士団の責任者は実質副団長のルミナリオなのだ。


 有望な人材を獲得することも立派な職務の一つであり、ちゃんと筋は通した上での行動なので恥じ入ることはないのだが、居心地は悪い。


 ディアドラが「気にすることはないぞ」と口を開こうとしたそのとき、観客席が沸き立った。


「おおっと、お聞き下さいこの歓声! やはりみなさんロロ選手にかける期待は大きいようです!」


 ロロが入場し盛り上がる観衆、しかしその熱狂は戸惑いへと変わる。


「おや、これはロロ選手の様子がおかしいようですが……解説のルミナリオ様?」

「ずいぶん気合いが入っているようですね」


 普段はクールとも半眼ともいえる黒い瞳が見開かれギンギンに血走っていた。大きく裂けた唇を真っ赤な舌がぺろりと嘗め回す。


 ロロのこのような表情を見たことがない観客はざわめき、次第にそのざわめきも呑まれたかのように小さくなっていく。


 小柄な帝國騎士が舞台に上がり、悪逆なるスライム使いの前に対峙する頃には、雑音は消え失せ、闘技場は水を打ったように静まりかえっていた。


「よお、マルコ。まさかこっちで戦えるとは思ってなかったぜ」

「既に襲われた気がするんだが」

「あれは挨拶だ!」


 舞台上の主役達の声がよく通る。


 昼の休憩時間の間にヘルミナの指示により、観客席の至る所にアエロースライムが設置され、舞台の声を届けていた。


 主催者としてはちょっとでも盛り上げてもらいたいところだ。

 マイクパフォーマンス大いに結構。


 ヘルミナは「ナイスわたくし、ナイススライム」と、こっそり拳を握りしめた。

 そんな皇女を見るシルフィの眼差しは冷ややかだ。


「ああ、そんな目で見ないで」


 悦ぶヘルミナに、シルフィはため息をつき、視線を舞台へ戻した。


「オレの純粋(ピュア)殺意(気持ち)、受け取ってもらうぜ!」


 ロロが歯をむき出しにして言った。


「ふっ、この半年でどれだけ成長したか、見せてもらおうじゃないか!」


 相手は天下の帝國騎士様だ、ヒール役しかできないのならヒールに徹するのみ。

 偉そうなマルコにブーイングが飛ぶ。いい調子である。


「へっ、自信満々なマルコに一つ言わせてもらおう。……オレが勝ったら、お前の剣を嘗めさせてもらうッ!」


 観客席の野次が消えた。代わりに広がるのは当惑である。


「……は?」


 突然の発言にマルコも面食らっていた。


「隠しても無駄だッ! オレは知ってるぞ! お前、すげえ立派なモンを隠し持ってるそうじゃないか」


 困惑がどよめきへ。そして視線がマルコへと集まる。


「ロ、ロロ。お前、何を言ってるんだ?」


 三百六十度の視線がマルコの股間へ集中する。

 慣れぬ感覚にマルコはすくみ上がった。どこがとはいわない。


 こんなの慣れてたら変態である。


 客席で拡散していく動揺と興味。中には顔を手で覆って恥ずかしがる女子生徒すらいた。


 勘弁してくれ! これじゃあ俺が変態みたいじゃないか、変態なのはあっちだ、あっち! と、マルコは慌てふためいている。

 ヒール役はともかく、変態扱いを受け入れるつもりは毛頭無い。


「とぼけんなよ。お前、キルキスの勇士隊のアンデッドを退治したんだろ。ってことは、初代エクスカリバーン、妖刀マサムラを持っているのはお前だ、マルコ!」


 キルキスの勇士隊とは、十英雄より一世代前の、魔大陸で全滅した英雄達の名だ。


 良かった、剣は剣だった。

 剣(隠語)ではなかった。


 ロロが痴女ではなかったことに安堵する観客。


 観客の反応おかしいだろ! とマルコは叫びそうになった。痴女でなくとも剣を嘗めたいと言ってる時点で、変態であることに変わりはないはずだ。


「答えろマルコッ! お前は凄い立派なモノを隠し持っている!」


 何故そういう怪しげな聞き方をするのか、指摘したら負けな気がしたマルコは、話をまじめな方向に持っていくべきだと判断した。


「確かに俺はエクスカリバーンもマサムラも持っている。けど、何で今頃になって言うんだ? 俺が災果てのダンジョンを踏破したことは隠してなかったはずだけど……」


 災果てのダンジョンとは魔大陸に存在する伝説のダンジョンである。


 災果てのダンジョン内で繰り広げられたマルコと過去の英雄達との死闘。その噂は魔都リョーシカの冒険者ギルドでは結構広まっていたはずだ。


 そもそもマルコが災果てのダンジョンに挑むことになったのは、新年のおみくじで大凶を引いた罰ゲームだったので、隠すどころか半ば見世物であった。

 隠しようがない。


 人の噂も七十五日というし、ロロと遭遇したときには既に噂は沈静化していたのだろうか?


「いや、こっちの大陸に戻る船上でマルコの噂を聞いてな。ほら、魔大陸ではいろんなのに喧嘩ふっかけまくって避けられてたから……」

「お、おう……」


 どうやら人に避けられて情報が入ってこなかったもよう。

 ロロは魔大陸から引き揚げる定期便の船上で、乗組員からマルコの噂を聞いたのだった。


「よ、よし。俺に勝ったらエクスカリバーンでもマサムラでも好きなだけ嘗めるがいいっ!」


 このままマイクパフォーマンスを続けるとぐだぐだになる恐れがある。


 マルコはミスリルの剣を抜き、切っ先をロロに向けた。


 気合いを入れたところでもう遅い。とっくにグダッている。後の祭りだ。


 カーン。


 ゴングが間抜けな音で祭りの本番を告げる。


 同時に、ロロが消えた。


 高速で移動したロロがマルコの背後に回り込み、小さく鋭く切りつける。


「甘い」


 マルコはその刀身を振り向きざま剣で受け流した。


 次の瞬間、バンッ! と地面を弾く音がして、ロロは上空へと吹き飛ばされていた。

 体勢を低くし潜り込んだマルコが、ロロの腹部に肩を入れ、跳ね上げたのだ。


 宙に飛ばされたロロを追うように、マルコも天高く跳ぶ。

 身動きの取れぬロロに、前方宙返りの要領でかかと落としを喰らわせ、舞台へと叩きつける。


 四肢をついて着地するロロに遅れて、マルコが余裕綽々と着地した。


「……おおっとぉ! これは凄い! 何やら凄い攻防が行われましたが……?」

「……」


 解説席のルミナリオは言葉を失っていた。


 ロロは単純な剣の技量で言えば、帝國騎士団でも五指に入る。

 それを一蹴するかのような体術。

 何という無駄のない洗練された、力強い動きか。


 理解不能なことに、その全ての行動に全く意味が無い。

 むしろ無駄しかない。


 ロロを跳ね上げるまではまだ納得しないでもない、自分が跳んでどうするのだろう?

 上空でアクロバティックなかかと落としなんぞしてないで、剣で切りつければそれで終わりなのだ。

 その前に場外に落とせば、それでおしまいだったはずだ。


 帝國騎士団の副団長は、自分の物差しで測れぬ存在に久しぶりに出会い、戦慄していた。


 ロロが執着するのも頷ける。ごくり、とルミナリオののどが鳴った。


「……これがスライム使いの戦い」


 マルコはまだスライムを使っていない。

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