表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/171

99話 会合


 マルコは変装を解いて、といっても髪の色を元のねずみ色にもどしただけだが、屋根からバルコニーにおりた。


 そこから室内に足を踏み入れる。


 その部屋は女王の居室とは異なり、いかにも実務一辺倒といった飾り気のない部屋だった。


 ティオレット、レストバル、ガイヤール。

 四人がけのテーブルでなにやらむずかしい顔をつきあわせていた彼らは、言葉をとめて一斉にマルコを見た。


「マルコ。よく来てくれた」


 ティオレットに声をかけられると、マルコは口をとがらせて、


「聖国の命運を左右するとか、利害が一致するとかいわれたら、来ないわけにもいかないだろ」


 空いた席に座る。


 テーブルの上には書類が散乱し、その真ん中に、聖剣エクスカリバーンがどんと置かれていた。ものすごく巨大な文鎮みたいだった。


「私はアウレリヌス聖導国の丞相をつとめるレストバル・トトという者だ。聖都では娘のエスクレアが世話になったようだ、感謝する」

「わしはベンドネル公討伐軍を率いていたガイヤールだ。安全と幸福はおたがいに対して、正直で、公正で、親切な個人、集団、国家にだけ訪れるという。ここは正直に言わせてもらうとしよう。戦をせずにすんだ。犠牲者を出さずにすんだ。いまとなっては、ありがたい失敗だったと思っておるよ」


 挨拶をすませるや、レストバルは時間が惜しいといわんばかりに、さっそく切りだした。


「帝國からの来訪者、次代の聖女の護衛よ。私は帝國や神殿が聖国の内政に干渉してくるのではないか、と危惧しているのだ」


 レストバルの厳粛な視線が、マルコを射貫いた。


「帝國も神殿も関係ない。俺は……」


 マルコはそこで口を閉ざした。「ティオレットに聖剣を渡すために、オレンに来た」、そう言おうとしたのだが、それはマルコにとって都合のいい、シルフィの関与を否定するための作り話である。


 その嘘はティオレットに対してなら通用する。ティオレットにとっても、英霊から聖剣を託されたという作り話に価値があるからだ。おたがいに、作り話を押し通したほうが都合がよかった。


 だが、レストバルとガイヤールはそうではない。

 うかつな発言をするわけにはいかなかった。


「まずは、私がヴィスコンテ女王を暗殺するにいたった経緯を話すとしよう」


 マルコの口が重くなると、かわりのようにティオレットが口を開いた。


 シルフィ誘拐に失敗して、聖都のベンドネル邸で謹慎していたこと。

 マルコが聖国軍を撤退させたと知り、ベンドネル公爵家が生き残る目はここしかないと判断したこと。

 王宮へ侵入し、剣聖シャルムートとの戦いで相討ちとなったこと。

 そして、マルコに救助され、伝説の聖剣を受けとったこと。


「私は、このエクスカリバーンは英霊より授けられた、としておいたほうがよいと思っている」


 ゆっくりと語り終えると、ティオレットはそうしめた。


 ガイヤール将軍がテーブルの上にある聖剣を眺めて、


「退魔の騎士アゼルのエクスカリバーン。失われたはずの、本物のエクスカリバーンか。マルコ、おぬしはこの剣をどこで手に入れたのだ?」


 それなら隠す必要はなかった。

 この剣は魔大陸のダンジョンで、アンデッドを倒して手に入れたのだとマルコは伝える。

 かつての英雄たちはアンデッドに成り果て、永い間、そこでさまよいつづけていたのだと。


「アンデッドとなって……、無念であったのだろうな」


 ガイヤールがいたましげに眉間にしわを寄せて、鼻をすすった。

 対照的なのがレストバルで、まったく表情を動かすことなく、


「うむ。退魔の騎士アゼルが英霊となって夢にあらわれ、聖剣を授けた。国民には事実を知らせるよりも、そう伝えたほうがよいか。……しかし夢で授かったことにすると、マルコがこの剣を手に入れた経緯も隠すことになるのだが……」

「それはかまわない」


 ただし、とマルコはつけくわえる。


「俺がエクスカリバーンを持ってたことは、秘密にしてたわけじゃないから……」


 作り話がバレるのではないか、と心配するマルコに、レストバルがにやりと笑う。


「なに、実物がわれらの手にあり、こうと宣伝すればそれが事実となるものだ。そこは気にせずともよかろう。この剣に関しては、その方向でいくとしよう。次は、この政変に、マルコがどのように関与したとするかについてだ」

「俺は国には関わりたくない。そちらもそれを望んでいるのでは?」

「うむ、その通りだ。……だが、よいのか? 犠牲者を出さずに聖国軍を食いとめ、内戦をふせいだのだぞ。実力と功績を表にしめせば、おのずと現代の英雄としてあつかわれることになろう。私は神殿や帝國の干渉はゆるさぬが、おぬしを聖国の英雄として迎える準備なら――」


 マルコは無言で首を振った。


「……わかった。ならば、次の議題に移る。この国にとって、もっとも重要なことだ」


 レストバルは、一拍の間をおくと、いよいよといった調子で、


「私は、新たな女王にフレーチェ・ベンドネルを推す」


 その瞬間、マルコは眉をひそめ、ティオレットは表情を強ばらせた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。よければこちらもよろしくお願いします。
じゃない孔明転生記。軍師の師だといわれましても
上のタイトルクリックで飛べます。
>cont_access.php?citi_cont_id=6250628&sizツギクルバナー
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ