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十四話 親衛隊VSファンクラブ! 譲れぬ想い!


 厳正なる抽選の結果、第一試合は魔法教師フェードレ対神官戦士エメル、第二試合は生徒会所属ユリアン対帝國騎士ロロとなった。

 その二試合の勝者が第三試合を戦い、勝ち抜いた者がマルコへの挑戦権を得るのだ。


 度重なる脅迫状の鬱憤を、解説席からの口撃で晴らしてすっきりしたマルコは、お役目から解放され、シルフィとヘルミナを探していた。


「おお、いたいた……?」


 シルフィとヘルミナは通路の影に身を隠していた。

 何故かシルフィの目が死んでいる。


 しかしシルフィがそんな眼差しをしても、物思いにふけっているようにしか見えない。

 マルコが同じような目をしたら、死んだイカにしか見えないのに。


 いわゆる美形補正という奴だ。世界は不公平である。

 ドラゴンの子はドラゴン、という格言があるように、人は皆生まれながらの格差社会を生きているのだ。


「くっ、スライムがドラゴンに敵わないって誰が決めた。俺はスライムを認めさせてみせる……」


 スライム使いの何が悪い。手に入れた力で常識なんか打ち破ってみせる!


 マルコは常識を打ち破ろうとする前に、まず常識の枠を正しく認識すべきである。


「こんなところで何してるんだ?」

「……マルコ?」


 マルコを見るシルフィの瑠璃紺の瞳には、力が無かった。


 悪巧みじゃないだろうな、そう思っていたマルコだったが、シルフィの意気消沈っぷりを見るにどうも様子が違いそうだ。


「もうそろそろ、第一試合が始まるぞ」

「それがその……」

「マルコ、あれが見えるかしら?」


 言いよどむシルフィの代わりにヘルミナが指差すのは、シルフィネーゼ親衛隊が陣取る一角の中央。

 穏やかそうな緑髪の男が、大きな旗を振って応援している。


「シルフィ親衛隊の応援団がどうした?」


 シルフィは通路の壁に額を押しつけて呻いた。


「……父です」

「……うわあ」


 思わずマルコは同情した。


 親馬鹿の見本がそこにいた。

 シルフィの父親オムネス・ノーマッドは帝國神殿の神官長、つまり帝國内全ての神殿を統括する総責任者だ。お偉いさんである。


「ふふ、シルフィが可愛くて仕方ないのよ」


 微笑ましそうにヘルミナは言うが、シルフィにとっては何の慰めにもならないだろう。シルフィ本人が出場してるならともかく、それとこれとは話がまるで違う。


 落ち込む妹分の肩を、皇女様が優しく支え励ます。


「ほら、あれをご覧なさいシルフィ」


 指差す先は、ディアドラ理事長ファンクラブの応援席。


 見るからにただ者ではない、一人の男が到着したところだ。

 威風堂々とした歩みに、観客が押し出されるように割れていく。


「……あれは」


 シルフィが呆然と呟く。


 厳つい顔立ち、針金のような赤髪、その眼光はまさに野獣。


 男は法被を纏うと、はちまきを取り出し額に巻いた。若草色のはちまきには赤く『ディアドラ命』と刺繍されている。


「父よ!」


 世界最大の国家、ガルマイン帝國の皇帝陛下その人であった。


 皇帝陛下は当然のように応援の音頭を取り始めた。


「マルコを潰せ!」

「「「マルコを潰せ!」」」

「マルコを殺せ!」

「「「マルコを殺せ!」」」


 皇帝陛下の指揮の下、ディアドラ理事長ファンクラブは統制の取れた応援を始める。


「ちょっと待て!! なんでこんな殺意が向けられてんの!?」


 息の合ったマルコを○せコール。腹を打つ大音量は、魔王の後頭部を蹴飛ばしたことすらあるマルコをも怯ませた。


「ディアドラ理事長は父の担任だったのよねえ」


 ヘルミナは困ったものよねえ、とため息をついた。


「それでいいのか、この国は……」


 ただ学園に通うだけのはずだったのに、いつの間にか最高権力者から殺意を向けられている。


「こんなの絶対おかしいだろ……」

「大丈夫よマルコ。潰せとか殺せとか、父の口癖だもの」

「全然大丈夫じゃない! むしろ末期じゃねえか!?」


 ディアドラ理事長ファンクラブの一糸乱れぬ応援は、シルフィ親衛隊のプライドをいたく刺激していたようだ。


 呼応するように、親衛隊からも合唱が始まった。


「マルコを潰せ!」

「「「マルコを潰せ!」」」

「マルコを殺せ!」

「「「マルコを殺せ!」」」


 応援合戦はどんどん白熱していく。


 ファンクラブ、親衛隊の両陣営から「マルコを○せ」の大合唱が木霊し、会場は一体となっていく。


 ヘルミナは感動のあまり、わなわなと震えだした。


「帝國と神殿が今ひとつに! なんて美しい光景かしら!」

「やかましい!」


 マルコはヘルミナにツッコんだ。不敬罪なんてくそ食らえだ。


 吹っ切れたのはマルコだけではなかった。


 旗を振り回し叫ぶ父を見て、妙に据わった瞳をしたシルフィが、マルコに問う。


「……マルコ、勝てますよね?」

「ん、まあ、自信はあるぞ」

「絶対に勝ってくださいね、絶対に」

「お、おう」


 吹っ切れたというより、ぶち切れている。

 その迫力に、マルコは冷や汗をかいた。






「さあ、皆さんお待ちかね! いよいよ第一試合、炎の魔法使いフェードレ対美貌の神官戦士エメルの試合が始まります! 解説席には、なんと、帝國騎士団副団長のルミナリオ様をお招きしております!」

「よろしくお願いします」


 試合の実況は変わらず桃色の髪のミモザ。

 解説席には、帝都中の女性に熱い眼差しを向けられる銀髪紫眼の美男子、帝國騎士団副団長のルミナリオが座っていた。


 ロロのお目付役ともいう。


「開幕戦は魔法使いと神官戦士の対戦となりましたが、解説のルミナリオ様?」

「後衛職の魔法使いは、こういった試合ではどうしても不利になりますね。フェードレ選手の勝機は、アウトレンジを維持できるかにかかっているでしょう」


 ルミナリオの偉ぶらないさわやかな声に、女子生徒からため息交じりの黄色い声が上がる。


「この四人の勝ち抜き戦なら、どうせロロが上がってくるんだろうけどなあ」


 身も蓋もないことをいうマルコの姿は、関係者席にあった。

 その隣にはシルフィとヘルミナ、肩身の狭い教師席から退散してきたディアドラが並んで座っている。


 そんなマルコを、皇帝陛下の野獣の眼光が睨みつけてくる。

 ヘルミナは小さく手を振って、まるで淑女のように応じる。

 ディアドラが悪さをした生徒を叱るような視線でもって、皇帝陛下を拒絶すると、皇帝陛下は大きな体を縮めて見るからにふさぎ込んだ。


 神官長がすがるような眼差しで娘を見つめる。

 シルフィは頑なに目を逸らし続けた。


 マルコは皇帝と神官長の視線に、気がつかないフリをしていた。

 絶対に目を合わせるものか、と固く誓うマルコは、闘技場の舞台に視線を注ぐ。


 灰色の石が敷き詰められた、円形の舞台に立つのは二人。

 白き鎧の美女エメルは槍をフェードレに向け、言い放つ。


「あのスライム男に天誅を下す役目を譲るつもりはありません。貴君に恨みはありませんが、引いてもらえませんか」


 迎え撃つ赤いローブ姿のフェードレ、三十八才バツイチの男。晴れ舞台に意気軒昂と杖を掲げる。


「ディアドラ理事長ファンクラブに入会して早二十年。あの不埒な小僧を裁くことこそ私の使命。後は任せてもらおう。安心して倒れるがいい」


 なお入会当時はまだ理事長ではなく、ディアドラ先生ファンクラブであった。


 両者の会話は歓声に紛れて観客席には届いていない。しかし、マルコ達にははっきりと聞こえていた。

 マルコの前にいる風属性のエレメンタルスライム、アエロースライムが舞台上の声を拾い増幅しているのだ。


「ぷっ、スライム男……」


 二人の会話を聞いて、ヘルミナはこらえきれず吹き出した。

 口元を扇子で隠す皇女を内心で「そっちはドリル女だろう」と思いながら、マルコは無視を決め込む。


 舞台上では両者の会話が続いていた。


「二十年ですか、貴君の想いが忍ばれますね。ですが長いだけです。それは繋がりではありません」

「なんだと!」

「私があの方と運命の出会いを果たしたのは十三年前。まだ八才だった私は、あの方の家でメイドとして働く姉に連れられ、何度か遊び相手をつとめさせていただく栄誉を授かりました。そう、私はあの方のおむつを替えたことすらあるのです!」

「くっ!」


 何故かダメージを受け、フェードレは苦しそうに顔を歪める。


 マルコは隣から、とてつもない不穏な圧力を感じた。

 そっと様子をうかがうと、シルフィの目からハイライトが消えていた。


「フ、フフフ」

「ひぃっ……」


 不気味な笑いで威圧しているのが聖女で、か細い悲鳴を上げたのが怪奇スライム男である。

 普通、逆ではなかろうか。


 カーン!


「さあ、いよいよ始まりました!」


 試合開始のゴングが響くや、エメルが槍を構え、フェードレは杖を天高く掲げた。


「ファイアウォール!」


 フェードレの周囲を炎が走り、円形の陣となって囲んだ。


「おおっと、フェードレ選手、ファイアウォールで防御を固めてきた!」

「ゴングの前から詠唱していたようですね。魔法使いは接近されたら終わりですから。しかもあのファイアウォール、どうやらただのファイアウォールではないようですよ」


 ミモザがマイク片手に身を乗り出し、ルミナリオはしっかりのんびり解説役にはげむ。


 膝丈ほどの炎に囲まれたフェードレが、高らかに説明する。


「このファイアウォールは、近づく者に炎の舌を伸ばし焼き尽くすよう改良した、私のオリジナル魔法。術者が移動できないという難点も、この狭い舞台では弱点となり得ない!」


 闘技場という一対一の狭い舞台、魔法使いが移動しなければならないほど近づかれた時点で、もう勝負はついている。


「ウォーターボール!」


 エメルの槍の穂先から巨大な水球が放たれ、炎の壁はわりとあっさり掻き消された。


「ああぁっーと!?」

「これはまずいですね」


 実況席の二人も冷や水を浴びせられた。


 火魔法が水魔法と相性が悪いのは周知の通りだ。


「エメル選手のウォーターボールが炎の壁を消し飛ばしたぁぁ!」

「神官が使う回復魔法は聖属性ばかりと思われがちですが、水属性の使い手もいますからね。エメル選手は水属性の魔法が得意なようです」


 実況のミモザが気を取り直して会場を盛り上げようと努力し、ルミナリオは淡々と解説の仕事を続ける。


 しかしミモザの努力も空しく、エメルが慌てふためくフェードレに近づき槍を振るうと、フェードレはあっさり場外へ吹き飛ばされた。


 ……相性が悪かったとはいえ、あまりにも盛り上がりようのない展開であった。

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