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46話 立場


 会談が終わるころには、すっかり日が落ちていた。

 外で夕食をとることにしたマルコたちは、昼の活気がまだ残る雑踏の中を歩いている。

 

 フレーチェはこれからしばらく聖宮殿で暮らすことになるそうで、聖女様たちといっしょに聖宮殿に戻った。

 彼女は女王に狙われている身だ、スライムエステもとりあえず休業するとのこと。


 今は目立たないほうがいいのだろう、と思いつつも、マルコにはさっきから気になってしょうがないことがあった。


「ずいぶん、目立ってるなぁ」

「もう、姿を隠していませんからね」


 こちらは逆に、ものすごく目立っていた。

 シルフィは顔を隠すのをやめ、服装も神官服にもどしている。

 ただそれだけなのだが、よく人目を引いた。


 神殿の総本山なだけあって住民も信心深いのか、彼女が通りを歩くだけで、人ごみが割れていく。

 次期聖女の威光を、まざまざと見せつけられるようだ。


 周囲の視線を決まりが悪く感じながら、マルコは宿の従業員に教えてもらった店の扉を開けた。

 とたん、食欲を刺激する匂いがいっぱいに広がり、ゆったりした談笑の声が流れてくる。


 ぱっと見た感じ、常連らしき客が多い。

 それなりに大きく、あまり気取らないですみそうな店だった。


 やっぱり、高級料亭よりこういう店のほうがいい。

 と、マルコは安堵を覚えた。


 しかし、むかえた女の店員はそれどころではない。

 新たなシルフィの顔を見て、ギョッと目をむいた。

 ぽかんと開いた口を手で隠して、空いている席に案内する。


 店のにぎわいが、居心地のよさそうな空気がすぅっと静まりかえっていく。

 その反応に慣れているのか、シルフィは平然と歩き、メアリーは当然といった顔をしている。


 ひとり肩身の狭さを味わいながら、マルコは席に座った。

 どうせならおいしい料理のほうを味わうべきだ、と、テーブルに置かれた羊皮紙の冊子を手にとる。


「おっ、これはなかなか」


 そこには豊富なメニューがびっしり書き込まれていた。

 これは期待できそうだ。


 あらかじめおすすめと聞いていた料理を中心に、いくつか注文する。

 そのころには店内も落ち着いたようで、元の穏やかで、にぎにぎしい空気に戻っていた。


 マルコは心なし首をすぼめて、声を潜める。


「あいつら、おとなしく帰ると思うか?」

「どうでしょうか。むこうにも利益の大きい話だとは思いますけど」


 シルフィは表情を変えずに、小首をかしげた。

 あいつらとはもちろん、剣聖と聖騎士のことである。


「せっかく捕まえたのに」

「結局は、そこからどのような結果を得られるか、ですからね。

 交渉材料があったからこそ、交渉相手を選べるのですし」


 少し不満そうなマルコに、シルフィは苦笑する。


 捕虜がいるから剣聖と交渉できる。

 まだ、剣聖が相手だから交渉が成り立つのだ。


 聖騎士の身柄を材料に交渉しようとしたところで、ヴィスコンテ女王は譲歩しない。捕虜となった聖騎士を切り捨てておしまいだろう。


 そんなおっかない上司がいて、はたして命令に背けるのか、とマルコは思うのだが、ただの部下に過ぎない聖騎士と異なり、剣聖は独自の裁量を持っているそうだ。


「情報が広まる前、交渉材料の価値が高いうちに、動く余地のある相手とすぐさま席を持つ。さすがはグラータ様です」


 シルフィはしきりに感心している。


 剣聖シャルムートは会談のあいだ、露骨に剣気をぶつけてくるような真似はしなかった。

 それでも、レベル六七の剣士とむきあっているのだから重圧はあったはずだ。

 最後まで崩れることなく自然体を通しきったグラータの姿は、まさに神殿を統括するにふさわしいものだった、とマルコも思う。


 もっとも聖女様自身が、身を危険にさらす必要のない回復魔法の使い手としては破格の高レベル。

 戦闘力はおいておくとして、そのレベルは五一。

 護衛のハイデマリーにしても、レベル五四の実力者であり、剣聖は無理にしても、聖騎士相手ならひけをとらない。


 ふたりとも冒険者でいうならS級に匹敵する。

 そう考えると、神殿もさすがに巨大組織だけあって、まったく戦力がない、なんてことはない。


 盗賊団や傭兵団、そこらの魔物など問題にしないはずだ。

 やはり敵が大きすぎる、強引すぎるのが問題であった。


「いったん追い払ってもさ。もう一回、聖都に入りなおされたら意味ないんじゃないか?」

「無理やり追い出すのと、無理やり押し入るのとはちがうんです」


 マルコが眉をひそめて問えば、シルフィが小さく頭を振った。

 そして、メアリーが、


「少し頭を働かせればわかるでしょう。どちらが悪役として見られるか、それが重要なのですよ」


 ゴブリンの首でもとったような顔をむけてくる。


 至極簡単な理屈だった。

 現在、聖都に駐留する聖騎士たちを強引に排除しようとすれば、神殿の行動がそしられる。

 だから、自主的に外に出てもらわなければならない。

 いったん外に出さえすれば、彼らがふたたび聖都に入ろうとしても門で拒否できる。

 そこを力尽くで入ろうとすれば、あるいは忍び込めば、今度は聖国が悪事を働いたと見なされる。


「私が顔を出すようになったのも、神殿の存在感を高めるためのアピールみたいなものです。本来、人気取りはよくない立場なんですけど、聖女様の指示ですし」


 シルフィがなぜか困ったような顔をみせる。


「お嬢様は、次の聖女に内定しているようなものですが、厳密な立場をいうとまだ聖女候補なのです。つまり、聖女選挙に出馬しなければいけないのですが――」

「聖女、……選挙?」


 なにそれ、とマルコは思った。




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