71 決断
翌日。魔王の執務室を訪ねたが、皆暗い顔をしていた。カスアン神を倒すいい案は、浮かばなかったらしい。
私に巫女の力があればなぁ。どうにかできるのかもしれないけれど。残念ながら、今の私に巫女の力はない。
私が、むむ、と唸っていると、ガレンが笑った。
「美香のことは、今度こそ護衛騎士である、私が守ります」
「ありがとう」
でも、ガレンの右目の視力は、私のせいで失われてしまった。……それに、本当に代償はそれだけなんだろうか? 目に見える代償が視力だっただけで、もっと他にもあるんじゃないか。
「美香?」
ガレンをじっと見つめると、ガレンは戸惑った顔をした。
「ううん、何でもない」
それでも、ガレンが隠すなら、私は追求できない。ガレンに二度も命を救われたのだから。私が、首を降ると、ほっとしたようにガレンは息をついた。
「それで、カスアン神を倒す方法だが……」
魔王が暗い顔をしながら、切り出した。
「アストリアには、宝珠の代わりになるようなものはないのか?」
「……代々の王に受け継がれているものはありますが。ただの宝石ですね」
そこに、特別な力はないとガレンは言い切った。
「そうか」
魔王は私を見つめた後、ふいに視線をそらした。……私? やっぱり、巫女の力関係のことだろうか。巫女の力を戻す方法があるとか?
「巫女の力が戻ればいいのに」
呟いただけのつもりだったが、思った以上に大きな声が出た。
「その方法は、ない」
魔王はなにかを隠すように、そう言ったが、直後のユーリンの兄上! という言葉によってかきけされた。
「ユーリン、あるの?」
魔王は教えてくれない気がして、ユーリンに聞く。ユーリンは、顔をしかめて、しばらくいいよどんでいたが、覚悟したように切り出した。
「兄上と巫女殿が離縁をすれば、力は戻ります」
「離縁……」
離縁って、離婚!? まだ結婚して一週間も経ってない、新婚中の新婚なのに!
私が驚いていると、ユーリンは続ける。
「ただ、一度離縁すると、もう一度同じ人物と再婚することはできません」
つまり、魔王の奥さんには二度となれないと。それは、嫌だけど……。
魔王をちらりと盗み見る。魔王は相変わらず、渋い顔をしていた。
魔王は、いつもそうだ。為政者としての自分よりも、私のことを優先してくれる。今回だって、見に覚えのないところで結婚した私なんかとさっさと離婚して、巫女の力を取り戻させれば良かった。それなのに、魔王はそんな方法はないと言ってくれた。
そんな貴方に、私は何ができるだろう。
まぶたを閉じて、深呼吸する。
今の私にできるのは、ひとつだけ。
「離縁、しましょう」




