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聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる  作者: 中編程度
二度目の恋
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62 結婚式

本来なら、あと11ヵ月あるはずの婚約期間だったのに、3日後に結婚式を行うというのは、当然のことながら無理があった。なので、結婚式はとりあえず簡素なものにして、籍を入れ、11ヵ月後に改めてちゃんとした式を行うことになった。

 


 ドレスの準備などに追われていると、ガレンが私の部屋を訪ねてきた。ガレンは、私が結婚するまでに振り向かせるっていっていたから、無理やり拐われるのだろうか、と思ったが、予想に反して

「美香」

ガレンは剣を置くと、ひざまずいた。

「ガッ、ガレン!?」

臣籍に下っているとはいえ、第5王子だったガレンがそんなに簡単にひざまずいてはいけないはずだ。慌てて、ガレンを立たせようとするけれど、ガレンは頑なにひざまずいていた。


 「美香」

ガレンが私を見つめる。

「はっ、はい!」

「貴方を傷つける全てのものから守ると誓います。ですから、私を貴方の護衛騎士に命じていただけませんか? 美香の傍にいたいのです」

「友好大使の仕事は──」

「弟のマリウスに任せました。アストリア王と魔王にはすでに許可をもらっています」


 つまりは、後は私が承諾するだけ、というわけだ。手際が良すぎる。でも、護衛騎士かぁ……。


 「もう絶対に見捨てたりしない?」

「はい。この命にかけて。美香を二度と裏切りません」

ガレンの金の瞳をじっと見つめる。その瞳は強い意思で満ちていた。様々な思い出が、頭の中を駆け巡る。いつも私を美香と呼んでくれたこと。私がつくったお菓子を美味しそうに食べてくれたこと。そして──、見捨てられたこと。


 ガレンとは、楽しい思い出も、悲しい思い出もいっぱいある。けれど……。


 「……貴方が私の護衛騎士になることを、許します」

もう一度だけ、ガレンを信じようと思った。そういって、ガレンに剣を返す。儀式とかよくわからないけれど、こんな感じでいいのだろうか?


 ガレンに剣を返すと、ガレンは嬉しそうに笑った。

「この命、貴方に捧げます」


 ■ □ ■


 ──そして、結婚式当日。簡素な式とはいえ、魔王の結婚式だ。三日間しか準備する時間がなかったとは思えないほど、会場は豪華だった。


 純白のドレスを身にまとい、ベールを被る。私は今とんでもなく不細工だが、お化粧をすると多少はましになった気がした。これは、サーラの努力の賜物だろう。そんなことを思っていると、控え室の扉が叩かれた。そろそろいく時間らしい。


 ドレスの裾を踏んづけないように気を付けながら、会場へと向かう。


 先に到着していた魔王は、私を見ると微笑んだ。

「ミカ、綺麗だ」

誉めてくれて嬉しいが、魔王の方がよほど綺麗だった。黒を基調とした軍服は白銀の髪によく映えて魔王にとても似合っていた。あまりにも似合いすぎて、どきまぎしてしまう。だが、

「オドウェル様こそ、素敵です」

と私がいうと、魔王は耳まで真っ赤にした。よかった。いつもの魔王だ。おかげで、少し緊張がほぐれた。


 ラッパの音で、二人揃って入場する。参列者は、簡素な式なので、クリスタリアの重鎮とアストリアからは第1王子とガレンだけだ。


 結婚式の流れは、夫婦となる二人が揃って、牧師の前に行き、誓いの言葉と誓いのキスをすれば終わりらしい。指輪の交換はないみたいだ。その代わりに──


 「……誓いますか?」

いけない。考え事をしていて、気づけば誓いの言葉は、終盤だった。慌てて頷き、魔王と揃って誓います。と言う。


 「それでは、誓いの口づけを」

魔王が、ゆっくりと、私のベールをめくる。唇にキスするのはこれが初めてだ。ドキドキするのを誤魔化すように、ぎゅっと目を閉じると、唇に優しい感触がした。


 キスってこんな感じなんだ。思った以上にふわふわした気分になる。けれど、同時に大切な何かをなくした気がした。これが、巫女の力を完全に失った証だろう。


 目を開けると、魔王の首もとに、首輪のような黒い模様が入っていた。私にも同じ模様が入っているのだろう。クリスタリアでは、結婚の誓いをたてると、首に黒い模様が現れるのだ。


「ミカ、顔が──」

私の顔を覗き込んだ魔王が、驚いた顔をした。

「顔、ですか?」

確かに私は不細工だけれども。誓いのキスをした直後に言われるのはショックだ。


 「元に戻っている」

「え──?」

ああ、そうか。顔を変えられたのは元々カスアン神から逃れるためだ。結婚したのだから、もうその必要はなくなったから、元の顔に戻ったのだろう。


 「どんな姿でも貴方は貴方だが。その姿はご両親から受け継いだ大切な姿だ。だから、よかった」

そういって、魔王は微笑んだ。ああ、このひとはどこまでも。


 泣きそうになった私を、魔王がかがみこんで優しく目元を擦る。

「泣いてませんよ」

「……そうか。なら良い」

何だか、この流れも久しぶりな気がして、思わず笑ってしまった。


 「貴方は笑顔の方が似合う」

そういって、魔王も笑った。


 その後式は、つつがなく進行した。

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