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聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる  作者: 中編程度
二度目の召喚
54/76

54 すれ違い

もしかして、私って、魔王のことが。

「好き?」

いや、いやいやいやいや。好きって言われて好きになるなんて、小学生じゃないんだし。ううんでも。魔王は、とても尊敬できる人物だ。そして、優しい。


 さっき名前を呼ばれたとき、どきどきしてふわふわした気分になった。

 それに、私が処刑されるときの夢を見たときに、真っ先に会いたくなったひと。


 私は、気づかなかっただけで、ずっと前から。


 「……好き」

 自覚した瞬間、色んな場面がフラッシュバックする。魔王に子守唄を歌ってもらったこと、魔王と一緒に寝たこと、魔王に月下氷人をもらったこと、魔王が戦争よりも私が帰ることを優先してくれたこと。


 私、魔王が好きだ。だから、


 「……ガレン」

せっかく私なんかがいいといってくれたけれど、断ろう。他に好きな人がいるのに、結婚するなんて不誠実だ。


 


 翌日。今日は書類整理の仕事はお休みなので、ガレンに時間をつくってもらうよう取り次ぎを頼む。


 すると、すぐに来てもいいという返事が返ってきたので、ガレンの執務室へと向かう。


 ガレンは私の要件をさっしていたのか、すでに人払いを済ませてくれていた。

「ガレン、あのね、」

言葉につまる。プロポーズされたのも初めてだし、プロポーズを断るのも初めてだ。けれど、ガレンは急かすことなく、ずっと黙って待っていてくれた。


 「プロポーズしてくれて、ありがとう。とても嬉しかったよ。でも、私他に好きな人がいるって気付いたんだ。だから──」 


 ガレンとは結婚できない。そう言おうとしたのに、ガレンは口を開いた。


「その先は言わないで。美香は、その方と結婚しようと考えているのですか?」

「けっ、結婚!?」

どうだろう。魔王は、私のことを好きだといってくれて、私も魔王のことを好きだと思う。たぶん、両想いだけど結婚するかどうかは、わからない。魔王は、ずっと隣にいて欲しいと願ったら、とまるでプロポーズみたいな言葉だったけれど、はっきりと言われたわけじゃないし。


「それは、わからないよ」

私がそう言うと、ガレンは困った顔をした。

「ならば、私もまだ諦められません。だから、まだ返事は言わないでください」


 そうこられるとは、思ってなかったので、戸惑う。

「私のわがままだと、わかっています。けれど、どうか、お許し頂けませんか」


 ■ □ ■ 


 「おはようございます」

「……あっ、ああおはよう」

今日は仕事が休みの連絡がなかったので、魔王の執務室へ向かうと、魔王の様子はどこか、よそよそしい。


 おはようの声も蚊の鳴くような小さな声だった。


 魔王は、そわそわと執務室の端から端まで歩いたあと、また、小さな声でいった。

「……か」

「か?」


私が尋ねると、魔王は意を決したように、力強い瞳で私を見つめた。

「申し訳ないが、昨日、私が口走ったことは忘れてくれないか?」

「……え?」


 はじめてのおそらく、両思いというシチュエーションに少なからず浮かれていた私は、一気に現実へと引き戻された。


「あんなことを口走ったのに、烏滸がましいかもしれないが、貴方とは友人でいたい」

──そっか。私なんかじゃ、魔王の恋人になんてなれないよね。


「わかり、ました。忘れます」


 「ありがとう」

魔王は安心したように微笑んだが、その顔を見ていられなくて、下を向いた。


「ミカ?」

「……何でもありません」

私の態度を不審に思った魔王が尋ねるが、それに首を降って答える。


 「そうか?」

「はい」


 その日は結局微妙な空気のまま、仕事をすることになった。

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