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聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる  作者: 中編程度
二度目の召喚
53/76

53 芽吹く

好きって友人としてですよね。そう確認するには、あまりにも魔王の瞳は熱を帯びすぎていた。

 「……ミカ」

吐息混じりの名前にびくりと体を揺らしてしまう。ただ、名前を呼ばれただけだというのに、まるで特別な意味を持つ言葉のように言うものだから、体の体温が一気に上がる。


 「そ、それは私が巫女だからで」

「巫女の力がなくとも、貴方が、好きだ。

すまない。貴方を困らせるつもりはなかったのに、貴方はいずれ元の世界に戻るというのに、私は」


 そう言うと、魔王は私の手をぎゅっと握った。


 「貴方に恋をしてしまった」


 触れられた、手が熱い。まるで、熱でもあるようだ。──熱?

 さっきから、魔王の顔が赤い。それに、瞳も潤んでいるし、言葉も吐息混じりだ。もしかして。と思い、魔王の頬に触れると、とても熱かった。


 「オドウェル様、熱が──」

あるのでは? そう言う前に、魔王の体は傾いた。慌てて、魔王の体を支える。


「貴方が、好きだ」


 好きなんだ、と何度もうわ言のように囁くように言われて、パニックになりそうになるが、ここにいるのは病人だ。


 何とか、魔王を支えて、魔王の執務室へ戻る。椅子に座らせて、ユーリンを呼ぶと、ユーリンはすぐにやって来た。後のことはユーリンに任せて、私は部屋に戻る。


 「……っ」

部屋に戻ると、なんだか力が抜けて、床にへたりこんでしまった。


 ──貴方が、好きだ


 恋愛経験の乏しい私でも、流石にあれが、惚れた腫れたの意味での好きだとわかる。


 でも、魔王は友人で。けれど、困ったという感情は、不思議とわかなかった。どちらかというと、


 「嬉しい」


 そう、魔王に好かれることは、私にとって嬉しいことだと認識した。未だに、ばくばくと心臓は鳴っている。触れられた手にもまだ熱が残っている気がした。


 魔王は、魔王の隣にずっといて欲しいと願ったら、と言った。まるで、プロポーズみたいだ。いや、それは考えすぎだよね。でも。


 魔王の隣に、ずっといる自分を想像してみる。それは、とても──。


 体が熱くなる。もしかして、私って。


 「魔王のことが、」


 ■ □ ■


 目が覚めると、そこは見知ったベッドの上だった。体を起き上がらせると、ユーリンが入ってきた。


「体調は、どうですか? 兄上」

「……ああ。まだ少し、だるいが大丈夫だ」

熱は引いたようだが、頭が痛い。その理由は病気ではなく、


 「私は、ミカに」

好意を伝えてしまった。言うつもりなどなかったのに、いくら熱に浮かされていたとはいえ、口が緩くなりすぎだ。きっと一生伝えることはないだろうと思っていたのに。まさか、自覚したその日に伝えてしまうなんて。私が、狼狽えていると、ユーリンは、


 「兄上は、風邪を引くと、昔から素直になりますからね」

と笑った。

「しかし、兄上に熱があるとは気づきませんでした。巫女殿が気づいてくれてよかった」

私自身も気づいていなかった。熱に浮かされているのは、恋のせいかとばかり思っていが、そうではなかったらしい。


 「ミカには、迷惑ばかりかけてしまうな……」

そもそも想いを伝えたこと自体いずれ帰る彼女にとっては、迷惑になるというのに、熱で倒れた私を執務室まで支えてくれた。


 ミカには嫌われただろうか。嫌われただろうな。自分勝手な想いを告げられて、嫌わないはずがない。せっかく友人になれたというのに、その関係すらも失ってしまうのだろうか。


 いっそ、記憶がなくなってしまったことにしたいが、しっかりと、ミカに想いを何度も口走ってしまったことを覚えている。


 ため息をつく。一体、私は、

 「……どうするべきか」

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