53 芽吹く
好きって友人としてですよね。そう確認するには、あまりにも魔王の瞳は熱を帯びすぎていた。
「……ミカ」
吐息混じりの名前にびくりと体を揺らしてしまう。ただ、名前を呼ばれただけだというのに、まるで特別な意味を持つ言葉のように言うものだから、体の体温が一気に上がる。
「そ、それは私が巫女だからで」
「巫女の力がなくとも、貴方が、好きだ。
すまない。貴方を困らせるつもりはなかったのに、貴方はいずれ元の世界に戻るというのに、私は」
そう言うと、魔王は私の手をぎゅっと握った。
「貴方に恋をしてしまった」
触れられた、手が熱い。まるで、熱でもあるようだ。──熱?
さっきから、魔王の顔が赤い。それに、瞳も潤んでいるし、言葉も吐息混じりだ。もしかして。と思い、魔王の頬に触れると、とても熱かった。
「オドウェル様、熱が──」
あるのでは? そう言う前に、魔王の体は傾いた。慌てて、魔王の体を支える。
「貴方が、好きだ」
好きなんだ、と何度もうわ言のように囁くように言われて、パニックになりそうになるが、ここにいるのは病人だ。
何とか、魔王を支えて、魔王の執務室へ戻る。椅子に座らせて、ユーリンを呼ぶと、ユーリンはすぐにやって来た。後のことはユーリンに任せて、私は部屋に戻る。
「……っ」
部屋に戻ると、なんだか力が抜けて、床にへたりこんでしまった。
──貴方が、好きだ
恋愛経験の乏しい私でも、流石にあれが、惚れた腫れたの意味での好きだとわかる。
でも、魔王は友人で。けれど、困ったという感情は、不思議とわかなかった。どちらかというと、
「嬉しい」
そう、魔王に好かれることは、私にとって嬉しいことだと認識した。未だに、ばくばくと心臓は鳴っている。触れられた手にもまだ熱が残っている気がした。
魔王は、魔王の隣にずっといて欲しいと願ったら、と言った。まるで、プロポーズみたいだ。いや、それは考えすぎだよね。でも。
魔王の隣に、ずっといる自分を想像してみる。それは、とても──。
体が熱くなる。もしかして、私って。
「魔王のことが、」
■ □ ■
目が覚めると、そこは見知ったベッドの上だった。体を起き上がらせると、ユーリンが入ってきた。
「体調は、どうですか? 兄上」
「……ああ。まだ少し、だるいが大丈夫だ」
熱は引いたようだが、頭が痛い。その理由は病気ではなく、
「私は、ミカに」
好意を伝えてしまった。言うつもりなどなかったのに、いくら熱に浮かされていたとはいえ、口が緩くなりすぎだ。きっと一生伝えることはないだろうと思っていたのに。まさか、自覚したその日に伝えてしまうなんて。私が、狼狽えていると、ユーリンは、
「兄上は、風邪を引くと、昔から素直になりますからね」
と笑った。
「しかし、兄上に熱があるとは気づきませんでした。巫女殿が気づいてくれてよかった」
私自身も気づいていなかった。熱に浮かされているのは、恋のせいかとばかり思っていが、そうではなかったらしい。
「ミカには、迷惑ばかりかけてしまうな……」
そもそも想いを伝えたこと自体いずれ帰る彼女にとっては、迷惑になるというのに、熱で倒れた私を執務室まで支えてくれた。
ミカには嫌われただろうか。嫌われただろうな。自分勝手な想いを告げられて、嫌わないはずがない。せっかく友人になれたというのに、その関係すらも失ってしまうのだろうか。
いっそ、記憶がなくなってしまったことにしたいが、しっかりと、ミカに想いを何度も口走ってしまったことを覚えている。
ため息をつく。一体、私は、
「……どうするべきか」




