46 束の間の安寧
結婚って……! と思ったが、この世界の成人は16歳。私の年でもしていておかしくないのかもしれない。でも、結婚してくれる男性がいるかはさておき、結婚してこの世界の住人となるということは、完全に元の世界と──決別するということだ。
殺されるのは嫌だ。けれど、はいそうですか、とあっさり頷けるほど、元の世界に執着がないわけではない。家族も友人も大切な人たちがいる世界だ。
「どうしよう」
ひとまず、魔王にカスアン神が地球にいること。私は巫女の力を得ると、カスアン神に見つかってしまうこと。そして、カスアン神に追われている私が、この城にいても良いのかを言おう。
魔王の執務室へ行き、ガレイオス神とした話を話す。結婚のことは言いづらくて、伏せてしまった。
「そうか。……結局また、貴方をこちらの世界の事情に巻き込んでしまった。すまない」
「いいえ、陛下が謝られることではありません」
それで、私はこの城にいてもいいのだろうか。
「貴方を追い出すはずがないだろう。もちろん、貴方のことを守る」
魔王はそういって微笑んだ。
「ありがとうございます」
「それにしても、夢に気を付けろ、か。巫女、何か変な夢を見た覚えはあるか?」
魔王に、女の呻き声が追ってくる夢を見たことを話す。
「おそらく、それがカスアン神だろうな。巫女、以前渡した月下氷人はまだもっているか?」
「はい」
眠るときは、枕元に必ず置くようにと言われたので頷いておく。
「しかし、カスアン神が異世界にいるなら、こちらは手出しできないか……、貴方を助ける方法はないものか」
うっ。本当は、結婚するという方法を魔王に伝えて、結婚に愛は求めないタイプの人にしてもらうのが一番いいのかもしれない。けど、私は、元の世界を諦めたくない。
少し、後ろめたくて、下を向く。けれど、魔王は追求してこなかった。
「……全く関係ない話なのですが、陛下は結婚についてどう思われますか?」
魔王は、中止になったけど政略結婚をするはずだった。
「未だ恋愛というものは、よく私にはわからない。けれど、結婚して愛を育むというのもいいかと思っている」
魔王と結婚する人はとても幸せだなぁ。魔王は優しいし。
「貴方は、どう思う?」
「いつかできたらいいなと思っております」
でも、それは今じゃない。流石にまだ早すぎると思う。そのせいで、魔王たちには迷惑をかけるとわかっているけれど。
「貴方なら、きっと大丈夫だろう。貴方はとても魅力的だから」
「……ありがとう、ございます」
魔王の真っ直ぐな言葉に真っ赤になってしまう。魔王は絶対人たらしだと思う。
「そうだ。新しい花が咲いた。今から、一緒に見に行かないか?」
「はい!」
その後、魔王と花を見て穏やかな時を過ごした。




