45 真実
「封印が……解かれた?」
魔王が聞くと、ガレンは頷いた。
「はい。聖女は、カスアン神が封じられていた宝珠を持ってカスアン神と共に逃走しました。アストリアの者が行方を追っていますが、転移魔法を使われたので、捕らえるのは難しいでしょうね」
話を聞くと、聖女はカスアン神の怒りを静めるために、祈る役割を担っていたらしい。
「兄上! カスアン神が──」
ユーリンも息を切らせながら、魔王の執務室へ入ってきた。
「ああ。ユーリン、私の伴侶探しは中止だ。今回も該当者はいなかったと通達しておけ。それどころではないからな」
「わかりました」
ユーリンは頷くとまた、慌ただしく執務室から出ていった。
また、カスアン神との戦いになるのだろうか。
「神相手との戦いは、すでに一度経験している。だから、そんなに心配そうな顔をするな、巫女」
魔王は、そういっているが、5年前の争いも熾烈なものだったはずだ。
私に巫女の力があれば、力になれるのに。どうして、私には巫女の力が無くなってしまったのだろう。
「陛下、私にもう一度初代巫女の日記を見せていただけませんか?」
以前は、巫女の日記で力を得る方法を知った。もしかしたら、他にも何か手がかりになるようなことが、書いてあるかもしれない。
「だが、私は貴方を再び戦場へ行かせるつもりはない」
「そうです、美香。この件は私たちに任せてください」
いい案だと思ったのだが、口々に関わることを否定されてしまう。
「ですが、私は……」
貴方たちの力になりたい、のに。そう言うと、
「巫女のその気持ちは、とても嬉しい」
魔王があまりにも優しく微笑むものだから、結局それ以上強く言えなかった。
■ □ ■
客室へ戻り、何かいい案がないかと考える。けれど、なかなか思い浮かばない。巫女の日記に、他にどのようなことが書かれていたのか、思い出そうとする。確か、ガレイオス神と話すには、祠以外にも方法があったはずだ。
地球と縁があるものをおいて……、おいてどうするんだったっけ。
とりあえず、腕につけていた髪ゴムを机においてみる。すると、
「!?」
ぶわり。神気が広がった。
何をしたらいいのかわからないので、祈ってみる。
──私の巫女
ガレイオス神の声が聞こえた。
「!」
ひとまず、私に巫女の力をお与えください、と祈る。
──それは、ならぬ。巫女の力を与えれば、貴方がカスアンに見つかってしまう。
見つかる?
──カスアンは自分が封じられたのは貴方のせいだと貴方を恨んでいて、貴方を殺めようとしている。今は地球中を探している。見つからぬよう貴方を、姿を変えて、我が世界へ送ったが……
私が再びこの世界に喚ばれたのも、姿を変えられたのもガレイオス神の力だったのか。
──カスアンに見つからないようにするには、一番は、貴方がこの世界の住人になることだ。
この世界の住人になる?
──そうだ。誰かと契れば、貴方は巫女の力を完全に失い、この世界の住人となる。
契るって、結婚!? カスアン神に殺されるのは嫌だけど、け、結婚は早すぎないだろうか。
──あまり、長く話していると、カスアンに見つかってしまう。よいか、巫女。夢には気をつ……
それ以来、ガレイオス神の言葉は途切れてしまった。髪ゴムからももう神聖な気を感じられない。最後に、ガレイオス神がいいかけたのは、夢に気を付けろってことだよね。確かに最近、変な夢を見ることが多い気がする。まあ、それは、いい。いや、よくないけど。
問題は……
「結婚、かぁ」




