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聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる  作者: 中編程度
二度目の生
38/76

38 帰還

「女神カスアンは、聖女を返せと! さもなくば、魔物をすべて滅ぼすとのことです」

「どちらにせよ、聖女が出てきた時点で、我らを滅ぼすつもりだろう。……そろそろ神の時代は終わりを告げるべきだ。戦う相手に神が加わっただけのこと」

魔王はそういって、歯牙にもかけず代わりに、私に向き直った。

「聖女を捕縛してくれたこと、感謝している。けれど、これ以上、我々のことに貴方を巻き込めない。もう、元の世界へ帰りなさい」

「でもっ、陛下、」


 まだ私にも何かできることがあるかもしれない。

「……ミカ」

嫌だと首を降る私に、魔王は困った顔をした。


 「貴方が、ここに残ることを望むのなら、私はとても嬉しい。けれど、貴方を待つ人がいるのだろう」

そういわれてはっとする。お父さん、お母さんは、今頃どうしてるかな。理由も告げずにいなくなった、私をずっと探して。


 「……わかり、ました」

一度目は、この世界に来てつらいことばかりだったり。けれど、二度目の世は、大切な人がたくさんできた。だから、この世界も私にとって、大切になった。それは、とても、幸せなことだろう。


 私が、頷くと魔王はゆっくりと微笑んだ。


 「貴方がどこにいても、私の友であることに変わりはない」

「……はい」



 ■ □ ■



 数日後。私は、元の世界へと戻ることになった。


 ユーリンや、魔王、サーラが私を見送ってくれることになった。


 そもそも巫女の願いを叶えられるのは一度だけかもしれないから、成功するとは限らないのだが、とりあえず、願ってみることにした。


 願っていたところで、誰かが、勢いよく部屋に入ってきた。

「美香!」

「……ガレン」


 「元の世界へ帰れるならば、それが貴方の幸せとわかっています。……けれど、いかないでください、私は、まだ、貴方に伝えきれていないことがたくさんある」


 ガレンは今にも泣きそうだった。そうだ、私はガレンが時を戻すために払った代償を知らない。このまま帰っても、本当にいいのだろうか?


 私のなかに迷いが生じたけれど、それよりも、願いが聞き届けられる方が早かったらしい。


 ──体から光が溢れ、その眩しさに目を閉じ、再び目を開けたとき、私は魔王城の客室ではなく、通学路に立っていた。


 その後の私がどうなったかというと、平穏な日々を過ごしていた。


 通学路で行方不明になった私は、さぞ世間を騒がせているかと思ったが、そんなことはなかった。こちらの世界は全く時間が進んでいなかったのだ。私が家に帰ると、お母さんは、


 「今日はハンバーグよ」

なんていって笑っていて、拍子抜けした。梓ちゃんと待ち合わせの場所にいっても、遅い、なんて言われることもなく、普通に遊んだ。


 あの世界で、一年以上、巻き戻ってからは半年過ごしたのに変な感じだ。何だか、釈然としない思いを抱えながら、でも、いつかはそれも思い出になるのだろうと思っていた矢先、それは、訪れた。


 いつものように学校へ行き、梓ちゃんと下校した別れ道。


 見覚えのある魔方陣が、私の足元に現れた。


 「えっ……?」

何で、これが……と、思う間もなく、光が溢れた。


 目を開けると、そこは、城の中──ではなかった。以前のように、私を取り囲み、召喚が成功したと喜ぶ大人たちもいない。

それどころか、誰もいなかった。


 辺りを見渡しても、そこにあるのは木だけだ。

 「森……?」


 何かの誤作動だろうか?

 とりあえず、元の世界へと願ってみるが、全く効果が見られない。それに、そもそも以前のように、巫女の力のようなものを私自身から感じられなかった。


 「……どう、しよう」

 

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