36 すれ違う思い
──まぁ、それはよい。そんなことよりも、力を貴方に授けよう。
「えっ」
今のわりと重要な情報だった気がするのだが、一番は巫女の力に目覚めることだ。巫女の力に目覚めますようにと、祈りを捧げる。
すると、何だか体が暖かくなって、自分自身に力が満ちるのを感じた。
──巫女とは己が願いを叶えし者。巫女の願いは何でも叶う。貴方の願いが、清らかなものであることを願っている。
それだけ言うと、声は全く聞こえなくなった。
「巫女」
隣にいた魔王が、心配そうに私を見ていた。
「大丈夫です、陛下。ちゃんと、私、力に目覚めました」
だから、貴方の力になれる。そういうと、魔王は困った顔をした。
「巫女、私が貴方をここに連れてきたのは、もし、貴方が力に目覚めれば貴方は、貴方の世界に帰れると思ったからだ」
「え……?」
「約束しただろう、貴方を守ると。だが、今の私では聖女から貴方を守るのは難しいかもしれない。けれど、貴方の世界ならば安全だ。……それに、アストリアに無理やり喚ばれたのだろう」
巫女の力で、元の世界に、日本に帰る──?
そんなこと考えたことがなかった。でも、さっきガレイオス神は、巫女の願いは何でも叶うといった。私が、心から願えば、私は、日本に帰れる?
「でも、私は陛下の力になりたくて、」
「巫女。貴方は私の友だ。そして、貴方は本来、この世界の住人ではない。この世界のことは、この世界の者で片付けるべきことだろう」
魔王の深紅の瞳と目が合う。
「でも、」
ガレイオス神は、叶えられる願いは一つだけとは言わなかった。聖女のことが片付いてから、私は日本に帰ればいい。
「巫女、力の行使には代償が伴う。おそらく、貴方が願いを叶えられるのは一度だけだろう」
「そんなこと、やってみないとわかりません」
「巫女」
まるで、私が聞き分けのない子供みたいに言うのはやめて欲しい。説得するような、声音の魔王に首を降る。
「……ミカ」
いつもは全然呼んでくれないくせに、こういうときだけ、名前を呼ぶのはずるい。でも、嫌だ。
「巫女の力で聖女と戦ったとしても、貴方が傷付かないとは限らない」
「そんなこと。覚悟の上です」
どうして、こんなにも頑なになるのか、自分でもわからなかった。魔王は、正しい。だって、日本に帰れば私は絶対な安全を手に入れられるのに。でも、そうしたら、きっと私は、後悔する。
「私は貴方を失いたくない」
どうして、私が聖女に負ける前提なの。魔王はもっと私を信頼して欲しい。
「私だって、陛下を失いたくありません」
私がそういうと、魔王は困った顔をした。
「……このままだと、堂々巡りだな。とりあえず、城に帰ろう」
転移魔法で、魔王の執務室へ移動する。
すると、慌ただしく、ユーリンが入ってってきた。ユーリンの服は少し汚れていて、焦げていた。
「兄上、前線に聖女が、現れました!」




