33 もう一度貴方を
図書室に本を借りに行くと、ガレンにあった。ガレンと言葉をいくつか交わした後、ガレンは突然倒れた。私が強引に、クリスタリアにつれてきたせいで、環境の変化についていけず、疲れがたまっていたのかもしれない。サーラに手伝ってもらって、ガレンを客室に運んだ。けれど、ガレンは未だに目覚めないままだ。
「ミカ様、後は他の者に任せてお休みになられた方がよろしいかと」
「ありがとうサーラ。でも……」
ガレンが倒れたのはおそらく、私のせいだろう。それなのに、ガレンを放っておいて、自分だけ休むのは気が引ける。
「ミカ様」
「……うん、わかった」
再度サーラに促すように名前を呼ばれ、しぶしぶ部屋に戻る。
「大丈夫かな……」
倒れる直前のガレンの顔色は、明らかに悪かった。私にとってはアストリアもクリスタリアも変わらないが、ガレンにとっては大きな変化だったのかもしれない。それに、クリスタリアはガレンにとって敵国だ。それだけでも、気を張りつめる要因になるだろう。
やっぱり、ガレンを連れてきたのは、浅慮だっただろうか、とも思うけれど、今さらどうしようもない。せめて、明日からはもっとガレンに気を配るようにしよう。そう考えながら、眠りについた。
魔王は、聖女対策で忙しいので、今日も書類整理はお休みだ。まだ、戦場に聖女が現れたとは聞かないが、そうなるのも時間の問題だろう。私が巫女の力に目覚めていれば、魔王の助けになれたのに、残念ながら、今現在私にその兆しはない。そういうと、魔王はたとえ巫女としての力に目覚めているとしても、友人である貴方を利用するようなことはしたくないと、苦笑された。
魔王は為政者としては、少しお人好しすぎる気がするけれど、聖女として利用されてきた私にとっては、それはとても嬉しい言葉だった。
そんなことを考えながら、昨日図書室で借りた本を読んでいたが、ガレンの様子が気になって、全く集中できない。
結局、本を読むのは諦めて、ガレンを訪ねることにした。
「美香、わざわざ来てくださったのですね。ありがとうございます」
ガレンの顔色は、昨日よりは良いように思えた。けれど、なぜかガレンと目が合わない。目を合わせようとすると、怯えたようにそらされるのだ。まるで、見たくない何かを見ないようにするように。昨日までは、そんなことはなかったはずだ。だとしたら、私が何か昨日してしまったのかもしれない。もしかして、ガレンにガレンの名前を書けるようになったことを伝えたくて、その手を取ったことが不躾だったのかも。それか、そもそも倒れる原因になった、クリスタリアに連れてきたことを怒っているのかもしれない。
「ねぇ、ガレン」
「何でしょう、美香」
「ごめんなさい。理由はわからないけれど、私、何かしちゃったんだよね」
「いえ、美香に謝られることは一つもありません」
口ではそういう癖に、ガレンは泣きそうに見えた。けれど、そう言われてしまっては理由も聞けない。
数分お互い無言で過ごした後、ガレンはポツリといった。
「美香、お許しいただけますか。努力をすることを」
「う、うん?……いいと思うよ」
何の努力かはわからないけれど、努力をすることはいいことだと思う。
「ありがとうございます」
ようやく金の瞳と目が合う。今度は、怯えたものではなく、強い決意を秘めた瞳だった。
その後、何度か言葉を交わし部屋に戻った。──結局、何だったのだろう?




