31 三つ目の選択肢
私はいったいどうしたいのか。一晩中、考えたものの答えはでなかった。私にとっては、ガレンもクリスタリアに残してきた人たちも大切だ。ガレンは、私のためにどんな代償を払ったかはわからないし、クリスタリアには、魔王という友人もいる。でも、どちらかを選べば、片方とはお別れしなければいけなくなる。
「……いっそガレンもクリスタリアに来てくれたらいいのに」
そしたら、何も悩まずにすむ。
けれど、戦争をしているから当然とはいえ、ユーリンは人間を嫌っていたし、ガレンは魔物を嫌っている。でも、私にとっては、クリスタリアもアストリアも変わらない。耳がとがっているかどうかという身体的な特徴だけだ。だから、もし、第5王子のガレンが一緒に来てくれて、今度は偏見のない目で、魔物たちの生活を見てくれるなら、この戦争も終わらせられるんじゃないか。
何とも中学生らしい甘い考えかもしれないけれど、やってみるだけの価値はあるかもしれない。だって、巫女は己の願いを叶えるもの。だったら、まずはやってみなくちゃ。
まずは、ガレンを説得することにした。ガレンと二人きりの時に、防音魔法をかけてもらって相談する。
「ねぇ、ガレン」
「どうしました、美香?」
いきなりに本題に入らず、当たり障りもないところから攻める。
「今日はあいにくの天気だね」
「ええ、そうですね。残念ながら雨ですね」
「今日はどこも雨なのかな?例えば、クリスタリアとか」
「ええ、あの国も雨でしょうね」
まずい、クリスタリアの名前を出しただけで、表情が歪んだ。どれだけ、クリスタリアのこと嫌いなんだ。何だか無理そう……と、思うけれど、頑張ってみる。
「ガレンは留学についてどう思う?」
「見聞を広めるいい機会だと思いますよ」
よかった!留学については好意的な考えだ。問題は、その留学先なんだけれども。
「先ほどから、どうしたのです美香。私はてっきり、返事を聞かせていただけると思ったのですが」
「うん、そのことなんだけどね……」
──と、急に廊下が騒がしい。
どうしたんだろう? と思って、ガレンと廊下に出る。
──雨が降っていたはずの外は、花が降っていた。
「まさか……」
私たちは同時に顔を見合わせた。
ガレンを引っ張り、急いで部屋に戻る。あの花は明らかに聖女が現れる兆候だ。なんで?まだ、時間があるはずなのに。でも、考えている時間はない。早く、魔王に伝えないと。
「ユーリン」
天井に呼び掛ける。
「私と一緒にこの人もクリスタリアに連れていってください。説明はあとでしますから」
ユーリンは音もなく天井から降りてきた。ガレンはユーリンのとがった耳をみて、顔を歪める。
「美香、どういう──」
「俺にその敵も、連れていけとおっしゃる?」
「説明はあと!早く陛下に伝えないと。聖女が現れます!」
事態を飲み込んだのが、ユーリンは、苦々しく頷いた。
「……わかりました。ですが、その男は縛らせてもらいますよ」
ユーリンがパチンと指をならすと、ガレンの足は縄で縛られた。
「なっ──」
そして、ガレンの手をとり、ユーリンの手を握る。
何度か転移を繰り返し、ようやく魔王の城の執務室へついた。
「うわっ」
上から降るような格好になったが、魔王が私を受け止めてくれた。ユーリンは華麗に着地したが、足を縛られたガレンは、地面と激突した。
「おかえり、巫女」
「ただいま帰りました、陛下」
魔王の笑顔にどぎまぎしている場合じゃない!早く伝えないと。
「陛下、聖女が現れました! それから、そこにいるのはアストリアからの留学生です!」




