28 目をそらさずに
戦況がアストリアにとってまずい状況なら、すぐに戦場に行かされるかと思ったが、そんなことはなかった。私は、ガレンという護衛兼監視の元、日常生活を送っている。おそらく、私が再びクリスタリア側に寝返ることの防止とそれから、本物の『聖女』を呼び寄せるためなんじゃないかと思う。魔王によると巫女と聖女は通常一対で、巫女が現れれば、聖女も現れる。とりあえず、私を聖女として立て、民衆に聖女が現れたと知らせ、本物の聖女が現れたら、戦場へ向かわせるつもりなのだろう。
どうにかして魔王に、私の現状を伝えられないだろうか。幸い、アストリアには私が文字の読み書きをできるようになったことを知っている人はいない。ガレンの監視付きで図書室へいっても、借りるのは絵本ばかりだから、怪しまれていないはずだ。
手紙を書いて、魔王に伝えるには、協力者が必要だが、残念ながら協力者になってくれそうな人はいない。
「ダメかぁ……」
「どうしました、美香?」
何でもない、といいかけてふと思い付く。どうして、ガレンは私が聖女であることに拘るのだろう?
「どうして、ガレンは私を聖女にしたいの?」
「美香、貴方は聖女です」
ガレンは子供を諭すようにゆっくりと、言う。でも、ガレンは知っているはずだ。私が聖女じゃないこと。だから、私を見捨てたのに。
「違うよ、私は聖女じゃない。……それは、ガレンも知っているはずだよ」
ガレンの目を見て言う。金の瞳はゆっくりと瞬きをした。
「どういうことです?」
「ガレンがいったんだよ。『どうして、貴方は聖女じゃないのですか』って」
「そんなこと私は一度も──、いえ、もしかして、美香、貴方は記憶が……、いや、でもそんなはず」
「私、処刑されたの。聖女じゃなかったから。ガレンも知ってるでしょ?」
「……美香、」
「私たち、一度腹をわって話し合うべきだと思うの」
ねぇ、ガレン、どうして、私を見捨てたの。私を見捨てたのに、どうして今更私に構うの。聞きたいことはいっぱいある。いっぱいあって、正直何から聞けばいいのか、わからないほど。
「……そのよう、ですね」
──なぜか、ガレンの表情は泣きそうに見えた。




