16 火葬
「今日の宿題は手紙をかくことです」
「手紙?」
教師は、大きく頷いた。
「手紙は、相手へと気持ちを伝える素晴らしいもの。折角、ある程度文字を使えるようになってきたんですもの。私に見せなくてかまいませんので、貴方が一番言葉を伝えたい人へ書いてみましょう」
――そう、言われたものの。
「誰に書こう」
サーラは、ずっとそばにいてくれるから、いざ手紙を書くとなると、恥ずかしいし、魔王やユーリンに手紙を出すのは不敬に値しないだろうか。
いや、ううん、そんなこと考えないで、今、一番伝えたいのは――
「ガレン」
貴方に見捨てられてなお、この恋心を捨てきれないのだというと、貴方は笑うだろうか。どうして、恋心は簡単に消えてなくならないのか、不思議だ。最後には、見捨てられたけれど、それだけじゃなかった、そう思いたいだけなのかもしれない。
だけど、私はもう、貴方には囚われたくない。だから、これは私が私の恋心を葬るために書く手紙だ。
そう決めて、手紙を綴る。
まずは、ガレンの名前が書けるようになったこと。ガレンの名前の由来を聞かなかったことへの後悔。ガレンが私を見捨てたことに対する恨み――ううん、これはいらないや。そして、私はガレンに恋をしていたこと。一目ぼれだった。けれど、貴方を知るうちにもっと好きになっていったこと。柔らかな笑みにどれだけ救われたか、ということ。剣の稽古で節くれだった手が好きだったこと。それから――
一通り、書き尽くしたので、手紙に封をする。
「サーラ、マッチを用意してもらってもいい?」
「かしこまりました」
私の国では、弔い方は火葬が一般的だ。サーラに、マッチと皿を用意してもらい、手紙に火をつける。ゆっくりと燃えていく手紙から目を離さず、見続ける。
手紙は、すべて燃えた。
「これでよし」
頬をたたいて、気持ちを切り替える。ガレンに恋をした私は、死んだ。今から新しい私の始まりだ。
「ごめん、サーラ。紙と封筒をもう一度用意してもらっていいかな?」
恋心を殺すためだけに、手紙を書くのは味気ない。恥ずかしがってないで、お世話になっているサーラや魔王やユーリンに手紙を書こう。不敬と言われて、突き返されたら、そのとき考えればいい。
私は、まず書き終えた手紙をサーラに渡した。サーラは、涙を流して喜んでくれた。次に、ユーリンへ手紙を渡す。ユーリンは笑顔で受け取ってくれた。そして、最後に、魔王へ手紙を渡す。魔王は、視線を合わせてくれなかったけれど、耳を赤くして受け取ってくれた。
やっぱり、手紙を受け取って貰えるのは、幸せなことだなぁ、と思いながら、眠りについた。