情報屋は異世界出身者8
ホテルの一階は既に煤け、黒煙で視界が悪くなっていた。爆発音は断続的におこり、上の階へ順次煙が昇っているようだった。
これはマズイ。建物の中にはまだ従業員や客が取り残されているのが視える。
仕方ない、巡り会ったからには動かないと。
彼女は黒煙の立ち込めるフロントへと走り込む。幸い単純に発火によって燃えている状況だった。
――――水よ、我が意に添い
虹を描くように掌を動かす。そこからミストのようなものが浮かび上がり、方々へ飛び去った。
燃え盛っていた火が徐々に消し止められていく。
―――風よ、我が声に応えよ
今度は逆の掌を天へとかざす。彼女の周囲から緩やかに風が舞い上がり、黒煙を外へと押しやる。
視界が開けると倒れている人を認識した。と同時に彼女は癒しの言葉を広範囲に掛けて、傷をこの世界の医療で治せる程度に回復させる。
上の階を視ると爆弾がまだ仕掛けられている。どうやら一階と非常階段をまず爆発させ、出入りを防いだあと、上階を順次壊していく計画のようだ。
あくどいな。このホテルの人間を全て殺す、そんな意図が読み取れる。
一階を封鎖してしまえば、逃げ惑う人間は上に行く。それを追い掛けるかのように火が燃えていく。
あぁ、そういえば。
遠い過去そんな作戦をした奴がいたな。
◇ ◇ ◇
「すごい………」
後を追ってきた彼は目の前の奇跡に言葉を失う。
それは記憶の中で知っていた。
決してこの世界では起き得ない事象。
「ねぇ、」
声の主は彼を見つめていた。
「依頼を受けてくれるかしら。非常階段で避難誘導して欲しい」
「階段はさっき通れなくなっていたのでは?」
後を追いながらも彼はしっかり見ていたようだ。
「直した」
「………あー、なるほど」
納得して頷く。
「勿論手伝いますよ。ちなみに依頼じゃなくていいです。緊急事態なので」
「それでは貴方を動かしていい理由にならない」
「真面目ですね、相変わらず」
思わず言葉が漏れる。
「私は貴女の命令なら、どんなことでも動きますよ」
――――少女は目を見張った。何処かで聴いた、その言葉は誰が言っていたのだろう。
「そう………わかった。私が案内をする。貴方は外へ、非常階段から逃げてくる人をなるべく遠くまでホテルから遠ざけてください」
少女の言葉に彼は嬉しそうに微笑んだ。