情報屋は異世界出身者7
ホテルの前は広い公園になっていた。木陰のベンチに少女を見つける。
肩まである黒髪が風に揺れた。ゆっくりとこちらを向いた少女の瞳が彼を捕らえた。
◇ ◇ ◇
少女の瞳は彼の情報を読んでいく。
本名は桐谷衛、幼い頃に両親を亡くし今の組織に拾われる。気配を消すのが異様に得意。
なるほど、尾行やスパイを担当するわけだ。確かに昨日の部屋の中でも私じゃなかったら気付くこともないだろう。
情報に納得していると彼が声を零した。
◇ ◇ ◇
彼は記憶を思い出そうとした。
憶えているのは赤く染まる空と黒く煤けた土地。命じられるまま国のために戦ったあの日々。
【決して誰も死ぬなよ】
上官として俺達を率いた彼女は口癖のように言う。実際彼女の元で死者は一人も出なかった。
何故なら例え手足が吹き飛んでも、例え心の臓を貫かれていても、彼女が全てを癒してしまったのだから。
それを或る人は聖女と讃え
それを或る人は魔女と罵り
それでも彼女は守り続けた
いつか彼女に尋ねたことがある。
何故そこまで助けるのか、と。
【ただの偽善さ】
そう返した横顔を思い出した。
「貴女は……」
◇ ◇ ◇
―――――――ドカン
静寂を切り裂くように爆発音が響く。木々が揺れた。
背後を振り返る。ホテルから火の手があがった。
「爆弾か!?」
彼が驚いて呟くと同時に、少女は駆け出していた。
「待っ――――」
その背中を追い掛けた。