3A-14
『もう一度、君に会いたい』
荷造りを済ませて、フローリングの床に一人寝そべる私のスマホが受け取ったのは、そんなメッセージだった。
私は数分悩んだあと、こう打ち込んだ。
『どこで?』
『僕たちが、最初にあった教室で』
『わかった』
家具はもうない。昨日のうちに引越し業者に運んでもらった。残っているのは、スーツケースと、小型鞄。
「ちょっと早いけど、いっか」
私は、そう呟いて、部屋を見渡した。私が、4年間暮らした、部屋。友達と朝まで飲み明かしたとか、ダラダラと過ごした休日とか。初めての一人暮らしは、快適なものだった。
深々と頭を下げて、
「ありがとうございました」
という。スーツケースと小鞄を持って、私は、部屋に鍵をかけた。鍵は帰ってから郵送で送る手はずになっているため、そのままポケットに滑り込ませる。
駅について、定期を取り出そうとして、あっとなる。定期はとっくに切れていた。財布を取り出して、学校までの切符を買う。案外高かったんだなあと思う。
電車に揺られて、数十分。見慣れた風景。この駅にくることはもうないだろう。改札を抜けて、学校の方へ歩く。スーツケースが邪魔だ。門の横の桜の木は少しづつ花をつけ始めていた。
3-A14 出会った場所。引き戸をゆっくり開けると、彼はそこにいた。
「よう、久しぶり」
「・・・・・・うん」
「今日帰るの?」
「・・・・・・うん」
彼は最初に出会った時座っていた席に座っていた。懐かしそうにしないで。まだ、私たちははっきりと別れを告げていない。まだ、懐かしまないでよ。
「俺、迎えに行くから」
「え?」
予想外の言葉に、返す言葉が見つからない。
「必ず、君を迎えに行く。本当だよ。約束する」
「本当にいいの? 私でいいの?」
「うん。お前じゃなきゃ、やだ。一生一緒にいたい」
彼はゆっくりと私を包み込んだ。
時計は、飛行機の時間の一時間前をさしていた。