俺は現実世界へ生還できたようだ
「んぁっ」
俺は机に突っ伏した状態で目を覚ます。
「戻ってこれたのか?」
机の上には舐めかけの飴が転がっていた。
女神様の力によって吐き出したのだろうか? それとも無意識で自分でやったのだろうか?
唾液まみれでベタベタする飴をティッシュで包みゴミ箱へと捨てた。
しかしあの一連の出来事は夢だったのだろうか?
もし実際にチート能力が身についていたらどうなるんだ。
確かめる方法はあるだろうか?
「ふふっ、そんなの小説を書けばすぐ分る。この俺の実力を思い知るがよい」
決めぜりふがカッコ良く決めたところで、まずはプロットからやり直してみよう。
すると、今までに無い斬新なアイデアが湯水のようにあふれて書き取るスピードが全く追いつかない……
という訳では無かった。なにも、アイデアのかけらすら出てこない。
まあ、いつも小説を書くときはこんな調子なのだが。
おかしい。こんなハズでは……
そうだ文章を実際に書いてみればすぐに解るハズ。
先ほどの続きを書くか。たしか『敵の黒いローブの男と戦って倒したところ』だったな。
「新たな俺の能力で、小説屋になろうの歴史を塗り変えてやるぜ!」
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敵の黒いローブの男を倒すと、こんどは白いローブを着た男が出てきた。
胸には黒いローブの男と同じエムブレムの刺繍が施してある。おそらく同じ組織の者だろう。
「お前、なかなかやるな。だが黒いローブの男は四天王の中では最弱の男だ、次は私が相手をしよう」
「いいだろう。俺様のギャラクティカ・スウォードを喰らえ!」
俺様はギャラクティカ・スウォードで殴りかかった。
だが、ガキンと音がして、俺様のギャラクティカ・スウォードが折れてしまった。
「なにぃー、まさか俺様のギャラクティカ・スウォードが折れるなんて!!」
「たいした事はなさそうだな。貴様はここで死ね!!!」
白いローブの男が俺様に襲いかかってきた。
「どうやら俺様は奥の手を使う必要があるようだ。ネオ・ギャラクティカ・スウォード!!!!」
「なんだと、そんな手がまだあるのか!!!!!」
白いローブの男が驚愕した。
「ネオ・ギャラクティカ・スウォードはいままでのギャラクティカ・スウォードの威力もスピードも10倍だ、これでもくらえ!!!!!!」
「ぐわあーやられた!!!!!!!」
白いローブの男は凄まじく吹っ飛んだ。
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「……これ、文章力、かわってなくね?」
思わず愚痴が口から漏れてしまった。
現実は無慈悲だ、これっぽちも文が上手くなっていない。
やはりあれは夢だったのか……
そんな簡単にベストセラー作家なんかにはなれやしないな。
とっとと寝よう。
そしてその日は何事もなく過ぎた。




